呼び合う魂

「これがカホか……確かにセイラっぽいところはあるけど、やっぱりなんか違うな」


「そりゃそうだろ。オレとおまえだって違う」


 リヴィオとシンヤ君が会話している。セイラの眠る王宮の一室へと向かっている


「なにかセイラに関して方法があるのか?」


「え?わからないけど、行けばなんとかなるかなって感じるのよ。わからないけど、任せて!」


 リヴィオが私の返事を聞いて、ものすごく微妙な顔をした。


「その根拠のない、すごい前向きな姿勢はなんなんだ?」


「それがカホだ」


 シンヤ君は一言で説明を済ます。どんな説明の仕方なのよ!?と唇を尖らせた。


「ちょっと子どもっぽいが、本当におまえのタイプなのかよ?」


「いや、この無駄にポジティブで無邪気な笑顔が可愛いだろ?」


「変わった趣味だと思う。セイラはもうちょっと知的で繊細な感じだな」


 馬鹿っぽいってこと!?な、なんなのかしら!?失礼なやつー!!


 そういえば、リヴィオは言いたいことをはっきり言う性格だったわ。かっこよさは減点ね……と私は半眼になった。二人は好き勝手な会話をしていたが、セイラの眠る扉の前に来ると顔が強張った。


 そうだった。シンヤ君にとっても大切な孫娘的な存在だったはず。


「大丈夫!大丈夫って思えるの。……なんとなくわかるの」


 そう言って、私は安心させるように微笑んでみせる。リヴィオとシンヤ君の顔が驚いたような表情になる。だって、セイラは待っている。私がセイラに会う時を……そんな気がするのだ。


「なんだか……その言い方は……セイラによく似てるな」


 そう言ってリヴィオはマジマジと私を見た。


 扉を開くとセイラは広い部屋のベットに眠っていた。私はセイラを見る。まるで幽霊のように顔色が白く、透き通っていた。起きる気配はない。ピクリとも動かない。彼女だけ時が止まっているようだ。


 ベットの傍には花が飾られていて、良い香りがした。リヴィオはセイラを見て、辛そうな顔をしていた。それを見て、私の心が痛かった。私というより……セイラが心を痛めてる気がした。


「私、なんの魔法も力もないけど、一つだけ使える力があるわ。迷子になっていたセイラの魂の道標となって、送りに来たわよ」


 え?とシンヤ君が言う。リヴィオが顔をあげた。私は自分の左胸に手を置いて、もう片方の手で、優しくセイラに触れて声をかける。


「ここに帰りたかったのよね。もう一人の私。連れてきたわ。皆があなたを待っているわ。迷わずに帰って」


 私の中から、掴んだセイラの魂が分かれて元に戻るのを感じる。


「そして、私、ずっとお礼を言いたかったの。セイラとリヴィオ、助けてくれてありがとう。私達は元の世界へ帰るけど、ずっとずっと幸せでいてね」


 セイラがスッと目を開けると同時にシンヤ君が慌てて、待て!と私を掴む。また吸い込まれる感覚。


 ………私とシンヤ君は踏み切りの向こう側に立っていた。


「姉さんたち何してんの!?今、消えなかった!?」


 弟のミツキが私とシンヤ君の傘を拾って踏み切りを渡って来た。傘をもらう。雨が降っている。


「ちょっと異世界まで行ってきたわ」


「このジメジメした気候で頭がとうとうやられたの!?」


 ちょっと冗談っぽく笑って言うと、毒舌ミツキにそう返され、さっさと先に歩いて行ってしまう。


 シンヤ君は少し寂しさの残る表情で傘をさしていた。


「シンヤ君、心残りでもある………あっ!異世界の温泉に入りそこねたああああ!」


「カホの心残りはそこかよ!?」


 雨の音と共に、シンヤ君と私の声は響いた。


 異世界から帰ってきたら、ジメジメした雨で落ち込んでいた気分はいつの間にか晴れていて、受験勉強も頑張ろうといつの間にか前向きな気持ちになっていた。


 雨は日は憂鬱。残念。傘が邪魔で手を繋ぎたいなと思っても繋げないもの。私は自分の傘を閉じて、シンヤ君の傘に入る。そして顔を見上げると、寂しい顔をした彼の表情は一変して、優しく微笑み、明るくなった。顔を見合わせて私達は笑う。


 好きな人と一緒ならどこでもどこでだって、強くいられる。異世界でも此処でも。


 二人で一つの傘に入って紫陽花の咲く道を歩いて帰った。

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