長い夜の終わり
明け方まで駆け回った私とリヴィオはクタクタだった。王家直属の騎士団、王宮魔道士、学園の精鋭部隊達がナシュレの街を歩いて被害の確認をしてくれている。
私はまだ夢を見ているような気分で朝日が昇り、白くなって行く空を眺めていた。長い夜が終わる。
「セイラ様、そんな顔をしないでください。怪我人は幸い、転んですり傷を作ったくらいなんですから」
ナシュレのお医者様のアランがそう私を慰める。
「むしろセイラ様の方が、顔色悪いです」
「そろそろお休みになられたほうがいいですよ」
そうナシュレの人達から優しく声をかけられる。
「王宮魔道士さん達が来てくれたのですがら、セイラ様は休んでください。皆が言うとおり、疲れた顔をしてますよ」
アランにもそう言われて、診療所から出て行く。そこへちょうど騎士団長が来た。久しぶりに顔を合わせる。
「セイラ様、お久しぶりです。……申しわけないのですが……」
「王宮に連れていくのね」
私はわかっていた。騎士団長がそうですと頷いた。
「陛下が説明してもらいたいとのことです」
「でもまだ……ナシュレの破壊されたところとか被害の状況を確認をしたいんだけど」
「王宮魔道士と騎士団がこの街を守り、見回っておきます。なので、安心して陛下のところへ行ってください」
有無を言わさなぬ勢いだ。……拘束されないだけマシなのかしらと用意されている馬車へ乗る。
「……ったく、めんどくせー!転移魔法で行く!」
リヴィオが馬車のドアを開けて、私の腕を掴む。ジーニーとトトとテテが一緒に来ていた。
「セイラ大丈夫かい?」
「なんとか……ジーニー、トト、テテ来てくれてありがとう。戻るまでナシュレを頼むわ」
『任せるのだ!』
双子ちゃんはこういうとき、多くを語らない。ジーニーは厳しい顔をしている。リヴィオも私同様、少し疲れている様子があるが、行くぞ!と声をかけて転移魔法を使った。
王宮へ行くと、すぐにハリーが私達を出迎え、女王陛下との謁見になった。
「長い夜が開けたか……どうしてこんな事態になったのか説明せよ」
リヴィオは淡々と黒い獣を使う亡霊の話をする。魔物の発生装置の制作者でもあり、黒い力を操っていることを話していく。
「そなたらを追いかけ回しておるのか?」
陛下がじっと黒曜石のような目でこちらを見て、尋ねる。
「リヴィオではなく、私のことを狙っているのだと思います。理由はわかりませんけど……」
「セイラ!それは!」
リヴィオが言うな!と私を制止した。
「ナシュレがこんなことになったのは私の責任です」
私は下を向く。無関係な人達を巻き込み、危険な目に合わせ、作り上げてきたものを壊してしまったという思いが……リヴィオは否定するが、亡霊は私を追いかけている。それは間違いのないことだ。
「黒龍の力が君にあるため狙われているのだろう。それは君だけの責任にはならない。狙われるならば王家に守る義務がある」
宰相のハリーか優しくそう言う。しかしリヴィオはその言葉を聞いて、父である彼を睨みつけるように見た。
「リヴィオ、しばらくセイラさんは王宮で預かる」
「そう言うと思った。だめだ!セイラはオレが守る!」
「冷静になれ。ナシュレでは守れない。危険だ」
「今回、セイラの傍にいなかったからだ。オレが護衛として傍についているし、ナシュレも守る!」
「おまえはもうナシュレ伯爵として、あの地を治める義務がある。しっかりしろ!守るべきはセイラさんだけではない」
わかっている!とリヴィオが言う。陛下がはぁ……と重々しいため息を漏らした。
「親子喧嘩はその辺にしておくのじゃ」
女王陛下の言葉に二人は静まる。
「対応策がきちんとできるまで、預かると言うのはどうかの?これはセイラを閉じ込めておくというわけではないのじゃ。ナシュレで過ごしたいならナシュレを要塞にしなければならぬだろうということじゃ。『黒猫』よ。戦いは得意であろう?ナシュレを魔物から守るための地にせよ」
リヴィオは唇を噛み締める。
「セイラ……悪い。すぐ迎えに来るから、少し待っててくれ」
そう彼は言った。私は無理やりほほ笑んでみせる。
「私は大丈夫よ。リヴィオも無理しないでね。手伝いたいけどできなくて、ごめんなさい」
本当は嘘だ。大丈夫なんかじゃない。ナシュレでの和やかな日常が壊され、リヴィオと離れるなんて……嫌だった。
私の大丈夫という言葉が嘘だと気づかれる前にリヴィオにはナシュレへ帰ってもらうことができた。
王宮の一室で私は過ごすことになった。それはリヴィオが以前過ごしていた部屋だった。
幽閉されたわけではないが、ここが一番守りやすいのだろうと理解する。
私がいったい何をしたのだろう?あの少年がそこまで私を憎む理由がわからなかった。両手で顔を覆う。
皆の前で、泣くことを我慢できた。今は一人なのだから泣いて誰も見ていない。目を閉じると闇に赤い炎が立ち昇るナシュレの街が見え、長い長い夜を思い出す。涙を止めることができなかった。
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