集う者たち

 一人でいる部屋は寒々として広く感じる。一人だと感じたのは久しぶりだった。

 

 私はリヴィオが今、必死でナシュレのことにあたっているのに何もできない自分が情けなくて仕方なかった。それに旅館や温泉建設中のことだって気になる。


 弱気になってても解決しないじゃないのと自分に言い聞かせる。ここにいても、何か自分にできないか考えるべきだわ!と立ち上がる。


 トントンとドアがノックされた。はい?と私が返事をすると来ちゃったー!と言う声がした。


「えっ!?ミラと………トーラディム王までいるの!?」


 藍色の目を可笑しそうに細めて私の反応に笑う。


「そちらの黒龍の守護者の彼から、何があったのか話を聞いたんだ」


「どうしたら魔物から守れる?とか魔物の倒し方を知りたいって、いきなり来たから、何事かと思ったら……いろいろ大変だったわね」


 二人は心配して来てくれたらしいとわかり、私は思わず、涙が滲む。


 トーラディム王がその様子を複雑そうに見た。そして王ではなく、彼自身の表情を見せ始める。


「助けられる者、助けられない者はいる。何度も街や国が滅んで行くのを見た。セイラとリヴィオの住む地は民のことを考え、想う黒龍の守護者がいるから幸せだ」


 光の鳥の守護者である王はそう言って微笑んだ。


「おーい!来たよーっ!」


 ガチャと扉がまた開いて明るい声がした。この声は!


「アサヒ!ヨイチ!………とリヴィオ!?」


 リヴィオが一番最後に入ってきた。疲れ顔をしているが、それでも表情は明るさを取り戻していた。私の顔を見るとホッとした顔になる。


「話は聞いたよ。街を守ることなら、僕らはプロだからね。リヴィオが珍しく頼るからびっくりしたよ」


 頼られてどことなく嬉しそうなヨイチはそう言った。リヴィオが私の傍にくる。


「ちゃんと迎えに来ただろ?」


「……ありがとう。こんなに早く来てくれるなんて思わなかったわ」


「とってもいい雰囲気になりそうなところ、邪魔して悪いんだけどさー」


 アサヒが感動の再会の流れを切る。


「誰……?」


 ……トーラディム王、ミラを指差す。ごもっともな疑問である。


「あー、そうだったな。こちら光の鳥の守護者であるトーラディム王と王付きの神官のミラ。白銀の狼の守護者のアサヒとヨイチだ」


「君らが白銀の狼の守護者か……守護者全員が集まるなんて過去に例はないな」


 リヴィオの紹介にトーラディム王はそう言って目を丸くした。


「守護者を集めたからには単なる領地を守るとかセイラさんをここから出すだけじゃないよね」


 ヨイチが黒い目の奥を光らせた。


「そうだ。いつまでも後手に回っていたんじゃ、相手の良いようにされてしまう」


 リヴィオは頷くと一人一人の顔を見た。そしてミラが心得てるわとばかりに6人分の護符を私たちにくれた。あの銀色の板で作られた、シンヤ君とカホを助けたものだった。


「この特別な板は希少な金属だから、手に入れるのが大変なのよ。大事に身につけていてよ~。師匠じゃなくて、私が作ったけど、たぶん大丈夫よ」


『たぶん?』


 アサヒとヨイチが不安を隠せずに尋ねた。ミラが大丈夫よ!と笑う。


「次に亡霊が出た時にこれを使うのね」


「さすがセイラだ。そのとおりだ。亡霊が現れたら、互いに呼び合う。そして集まり、亡霊を捕まえ、魔物の発生装置の場所を明らかにし、破壊する。そこまで一気に攻めていく!」


 リヴィオの言葉に慎重なトーラディム王が反対すると思ったが、意外にも頷いた。


「これは決められた運命だと思う。今、この時を逃せば魔物を絶やす機会はなくなる。3つの神の力とルノールの民の力がここに集っていることが奇跡だと言える。かつて人が作り上げた兵器である魔物は人が清算するしかない。このまま世界が進んでいけば、いずれ魔物に駆逐されるのは人だからね」


「きっとこれが世界にとっても最後のチャンスだと……わかるのよ」


 王とミラはそう言った。なにかを決意した……そんな表情をしている。二人になにかあったのかもしれないと私はなんとなくそう感じた。


 そして未来のために、守護者達は動きだす。この世界の歴史が動いた瞬間だった。3つの神が揃うなんて、本当にすごいことなんだよと長い歴史を持つ王国のトーラディム王はそう呟いていた。

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