賢者たちの見解
「知識の塔にエレベーターをつけてくれたから、とても便利だよ!」
ジーニーの父が喜んでいる。本や資料の持ち運びも苦痛じゃなくなった!と。他の塔の賢者も喜んでいたよと付け加える。
「魔物の発生源の力は恐らくは人の負の感情を利用した物だ」
「そんなもの作れるのか?」
「作れる。まあ、試しに見て見るかね?」
実験装置のようなビーカーを繋げたものをカチッと留めて準備をしていく。
「すごい装置だわ」
「あ、これは、他の塔の力も借りた」
私が感心していると、3つの塔の賢者がこうやって共同研究するのは始めてだよと笑っている。
「前例のないことをするからこそ全力だと感じるね」
ジーニーの父はやはりジーニーの父で、その言い方はそっくりだと私は微笑む。
「ちょっとどちらか指を貸してくれるかね?」
リヴィオが指?とオレが……と前に出るとプチッと針で刺される。
「何すんだよ!?自分の指でしろよ!」
「痛いのは嫌だ……発動したぞ。みてくれたまえ!」
リヴィオの怒りと血で反応するように、装置がゴオオオと動き出した。
「な、なんだこれ!?」
「黒い渦?」
透明な容器の中におどろおどろしい黒い物が出現した。しかしそれは一瞬のことですぐに霧散してしまった。
「我々が作れる技術、理論では、ここまでだ。魔物は恐らく、人のマイナスのエネルギーである怒り、悲しみ、絶望などを糧にして生まれている。具現化させる力、それを自分の力に取り入れることの技術までは……とても及ばない」
賢者たちの智を持ってしてもということだろう。悔しそうだが、それでいい気がした。こんなものは作り出さない方がいい。
「納得できる気がするな。それにしても、すごい技術力を持っていたんだな。消えた文明か……」
リヴィオは消えた黒い渦の装置をジッと見た。
「でもそれじゃあ、魔物は人間が存在する限り生み出されるってことなの?」
「そうなるだろう」
私の問いに答えるジーニーの父は重々しい雰囲気となる。
「技術が及ぶ及ばないを抜きにし、これ以上の研究は止める。知識の塔は、その智で、未来をも見通す。この仕組みは危険すぎる。人を滅ぼすための物には手を出さない」
さすが三賢者の一人である。興味はあれど、その恐ろしさも理解している。
「人の憎しみ、悲しみ、怒りなんて……消せるわけないだろう?どうしたらいいのか、わからない。なんでそんなものを作ったんだろうか」
リヴィオが怒っているというより、少し悲しげにそう言った。
「それが人の愚かさだろう。自ら滅ぶ可能性があっても、目の前の利益や手に入れたい物には抗えない欲がある。黒の時代と呼ばれる戦争は人対人の戦いだ。相手よりも上回る力を欲していたのだろう」
一国しかない、私達の住む平和な大陸でも、過去には領土の奪い合いもあった過去はある。人の歴史とはそんなものなのかもしれない。
「人はどこも変わらないな」
リヴィオはそう呟く。あちらの世界もこちらの世界でもということなんだろう。
「仕方ない。それが人だろう。だからこそ発展しようとするし、よりよい未来を作ろうともする。説教地味た話をするのは得意ではないな。他の賢者たちなら、もっと上手く人の本質について語れるだろうが……」
ジーニーの父は人のことに関しては苦手なんだと自嘲気味に笑う。苦手そうと私は納得して頷く。自分の息子にも上手く接しられず、煙たがられてるし……。
「研究していただけて、助かりました。魔物の装置を止める方法を考えていきたいと思います。簡単ではないけど、少しずつ前進してる気がします。とりあえず何の力をつかってるのかわかったから、あの力の不気味さは無くなったわ!」
「セイラはいつも前向きにだな」
リヴィオは私の言葉にそう微笑み、金の目を細めた。ジーニーの父はどういたしましてと言った後、私とリヴィオを見つめた。
「ここからは三賢者の一人ではなく、ジーニーの父として言いたい。君らのしていることは、とても危険なことに感じる。頼むから、無理しないでくれ。うちの息子は寂しがり屋なんだ。大事な友人を失わせないでくれ」
ジーニーの父は……彼は……こんな人だっただろうか?きっとジーニーも知らない。
長年付き合いのあったリヴィオが驚いているのがわかる。
「心配してくれてるのか!?」
「不本意ながら、君ら二人を見ていると、自分でもわからないが、何故か心が動かされる」
私とリヴィオは顔を見合わせて笑ってしまう。
「ジーニーに聞かせてやりたいよ」
「それだけは!やめてくれ!秘密にしといてくれ!!」
リヴィオの言葉にジーニーの父はそう叫んだのだった。
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