夕闇に隠れし影

 冷たい風が顔に当たる。寒さで、じっとしていられなくて、その場で足踏みしてしまう。こんな日こそ温泉日和ではないだろうか?


「ようこそ!王都トーラディアの銭湯へー!」


 私はお客様に挨拶をした。赤い半被をつけて元気よく!声をだすと暖かくなる気がする。


「いらっしゃいませー!」


 スタッフ達も明るい声。なぜなら、お客さんが満員御礼だからだ。


「お風呂広かったね!」


「見てよ。こないだできた青あざが薄くなってない?」


「勉強で肩が凝って頭痛してたけど、良くなった」


「冷え性なんだけど、まだ体がポカポカしてる!」


 神官や街の人達が続々とやってきて、効能にハマってくれている。


 ミラは忙しいらしく、今日はきていない。陛下の護衛のための神官だから、基本的には離れられないらしい。


 ……で、リヴィオがいる。


「リヴィオ、お風呂に入ってこないの?」


「今日は行かない。セイラに近づく者を排除する。……ってか、これは必要なのか?」


 お客さんが近寄りがたい雰囲気なので、サニーちゃんの着ぐるみを着せてある。子どもたちにオープン記念の風船を配ってもらっている。


「ピリピリした雰囲気で、リヴィオがそのまま立ってたら、営業妨害になるもの」


「妾がいるから大丈夫だと思うのじゃが……」


 足元にはアオがいる。片手を挙げて、ニギニギとおいでおいでするアオは、私が教えた招き猫ポーズをしている。お客さんに可愛い!とかなり評判が良い。


 ニコニコと笑顔で話しかけてくれたり、よかったよ~と満足してくれている人達に、嬉しくなる。


「ここに温泉旅館作りたくなってきたわ」


「他国に!?まだやるのか!?」


 ニヤッとした私にサニーちゃんではなく、中の人のリヴィオが驚く。


「その顔、世界征服企んでいる悪い笑みだぞ!?」


「失礼ね!夢は大きくでしょ!?」


 夕闇が迫ってきた。亡霊に自分が狙われているかもしれないと思うと、夕方の暗さは少し不安を生む。


「なあ、暗くなったら、トーラディム王国やフェンディム王国には行くなよ?オレがいない時は、せめて人目がある日中でたのむ」


 心配する彼に私はそうねと素直に頷く。アオがピクリと耳を立てた。


「噂をすれば、やはり来たか……セイラがいるところに現れるのぅ」   


 浅黒い肌の少年はニッコリと笑う。他の人達にはサニーちゃんの風船を貰いに来た様にしか見えないだろう。


 いつもヒョッコリと目の前に現れてくる。


「何の用?」

  

「君のその不安そうな顔良いね。前回、邪魔されたしね。今日はルノールの民はいないみたいね。黒龍はいるけど、邪魔するなら、この周辺をすべて巻き込んで更地にしちゃうよ?」


 アオがなんじゃとー!と怒る。


「私とやり合うってこと?」


 クスッと私の言葉を聞いて、小馬鹿にしたように笑う少年。


「違うよ。君を傷つけに来たんだ。やり合うなんて言葉おかしいだろう?一方的にやってやるよ!」


 少年は一歩後ろへ跳んだ。……と、思ったらサニーちゃんが私と少年の間に入った。リヴィオ!と叫ぼうとした瞬間、彼は間合いをつめ、少年の上にドーンと倒れ込んだ。


「なにしやがるんだ!このっ!変な………おまえは!」

 

 サニーちゃんの着ぐるみリヴィオが少年を抑え込む。


「おまえかよ。セイラを狙ってるのは!?」


「ちっ!」


 舌打ちをした少年に、リヴィオが鋭く叫ぶ。


「アオ!今すぐオレの身体を使え!」


「くっ……この変なやつ、まさか黒龍の宿主なのかっ!?くそっ!また邪魔が入った」


 バッと抑え込まれた隙間から逃げ出して、黒い空間へ入り込んで、一瞬で消えた少年。


「なんだ?あの空間を切り開くような黒い力は?」


「リヴィオ……」


 ありがとうと言おうとした瞬間、パチパチパチと周囲から拍手がおこった。


 ハッ!と気づく、私とリヴィオとアオ。


「すごい!なんの見世物だ!?」


「本格的なアクションショーだったわね」


「あのぬいぐるみカッコイイ!!」 

 

 サニーちゃんは一躍、可愛いキャラクターからカッコイイキャラクターにトーラディム王国ではなってしまった。


 サニーちゃんのヒーローアクションショーを銭湯内の舞台に設置し、しばらくすることになったのだった。


「なんか亡霊に私は怖がりすぎてたかも。今回、リヴィオがいてくれたことで、少し不安が薄れたわ」


「それは愉快な光景だったと言いたいのかよっ!?」


「えっと……うん。まぁ、愉快な光景ではあったわ。で、でも、サニーちゃんが、かっこよくみえたわよ!大丈夫よ!」


 リヴィオとしては久しぶりに私を守ったカッコイイ場であっただけに、悔しげである。フォローする私。


「とにかく、油断するなよ。あいつの使う力は変だ。異質なものに感じないか?」


「そうね。どの魔法の力にも属さない力の色とでも言おうかしら?なんか気持ち悪いのよね」


 ジーニーに相談し『知識の塔』の賢者たちの力を借りようとリヴィオは言った。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る