【温泉卓球勝負】

 王都のスーパー銭湯に作っていた、もう一つの部屋が完成した。


『卓球場』……そう。温泉といえば!温泉卓球である。


 この世界でも楽しめるのか、親しい人を呼んで、試しに卓球をしてもらってみることにした。


「なんでエイデンまでいるんだろう?」


 ジーニーがあからさまに嫌そうな顔をした。


「おいっ!元クラスメイトに冷たいこと言うなよっ!非番だったから来てやったんだ」


 エイデンは恩着せがましく言うが、私も呼んだ覚えはないのよね。


「ったく、どこから話が………殿下か!?」


 リヴィオがめんどくさい顔で、卓球のラケットの素振りをしているイーノとゼイン殿下。


「そもそも殿下達を呼んだ覚えも……どこから!?」


「セイラ、悪いわね……」


 ダフネが額に手を当てた。


「たまたまエイデンと出会って、喋ってしまったわ」


「………諜報部員に向いてないと思うわよ」


 私がそう言うと、失礼ね!とS級諜報部員になれずにA級で、くすぶってるという噂のダフネは怒る。


 トトとテテは食堂から、腹ごしらえしてきたのだと帰ってきた。今回は審判になってくれる二人だ。


「フッ……羽根つき以来だな。あの時の屈辱!今日、返そう!」


 ビシッと卓球のラケットをリヴィオに突きつけるゼイン殿下。動じず、フッと鼻で笑うリヴィオ。


「いくぞ!」


 殿下がそう言って、サーブを放つ。しばし、コン、カッ、コン、カッ!と卓球台とラケットの音が響く。ラリーのが続いてる。


「これでどうだ!?」


 カットをかけてくる殿下のピンポン玉が曲がった!リヴィオは自然な動きでスッと台から少し後ろへ下がって下からすくうようにラケットを操る。


「甘い!そんなもの読んでいる!」


 跳ね返されることは予想外であり、台のラインギリギリにキメてきたリヴィオの玉に翻弄されて、うわーー!と取りこぼす。


「殿下の敵はとりますよ!」


「エイデン!頼む!」


 エイデンがタッチで交代した。リヴィオが構える前にジーニーが出てきた。


「リヴィオ、エイデンは僕に任せてくれないかい?」


 ニッコリと微笑むジーニー。


「おおおお!学園長になったクソ生意気なジーニーかよ!のぞむとこ………」


 ベシッとピンポン玉が顔面に当たる。痛えええと叫ぶエイデン。おでこに赤い丸がついている。


「えーと、ジーニー?ルールは一応、台にピンポン玉をワンバウンドさせてからなのよね……」


「そうだったかな?ごめん、忘れてたよ」


 私のルール説明に爽やかな笑顔でそう答えるジーニー。


「嘘つけええええ!今のぜってーわざとしただろうが!?」


「難癖つけるなよ。そっちに一点入っただろう?リヴィオ、もう一球していいかな?」


「ジーニー、おまえホントにエイデン嫌いだな………」


 叫ぶエイデンを無視して言うジーニーに呆れるリヴィオ。


「ジーニー!許さねええええ!………グワッ!」


 ラケットを構えて威嚇するエイデンに向けて、ジーニーがもう一球放つ。口の中にホールインワン。


「ルール聞いていた……のよね?」


「ワンバウンドさせるんだよね?つい、手が滑ったよ」


 私の言葉に先程と同じように微笑むジーニー。


「お、おそろしい男だな。エスマブル学園長は………」


 ゼイン殿下にドン引きされているジーニー。過去にエイデンとジーニーは何があったのだろうか。


「特に面白い罰ゲームも賞品もないのに頑張れるのがすごいのだー」


「熱くなれるのがすごいのだー」


 ……そういう理由で、審判を引き受けてくれた双子ちゃんだったのねと今、気づく私だった。


 ゼイン殿下と一緒に来たイーノは被害を被らないように、トトとテテと共に横で観客になりきっている。それに気づかれる。


「イーノはしないのだ?」


「前回の羽根つきで、3日間も筋肉痛になった。今回はしたくない!こんな体力使うことは専門外だ!」


 そっとしといてくれと双子ちゃんに言っている。


 ダフネがそろそろ、こっちもするわよ!と私にラケットを向けて宣戦布告してきた。


「セイラ!行くわよ!」


「かかってきなさい!」


 私もワクワクしてきた。サーブを………フワーと空中に浮く優しい球筋……。


 ダフネはあんまり卓球は得意ではないようだ。とりあえず、一度カコンと返してみる。スカッと空振る。顔を赤くするダフネ。


「セ、セイラ!!情けは無用よ!全力できなさいっ!」


「あ……あ、うん」


 私にもう一球サーブを放ってきた。ヘナヘナと球が弱々しく跳んできた。ここは、もう容赦しない!スマッシュをビシッとキメる私。そしてダフネへ言葉をかける。


「追ってきなさいダフネ。あたくしは永遠に あなたの前を走る!」


 ダフネがなんなのよ!?そのセリフ!?とツッコミいれてくる。………言ってみたかったの。お蝶○人の名言をね。


 ふと気づくと、ジーニーやトトとテテは飽きてしまい、のんびり試作のスイカジュースやスイカアイスを食べて『ちょっとキュウリっぽい匂いがする』と言っている。


 トトとテテよ……審判、どこいった?


 リヴィオの卓球台のところには、何があったのか……力尽き、倒れているゼイン殿下とエイデン。


「なあ、温泉卓球って、こんなんだったか?」


「……真剣になりすぎよ……みんな」


 私は額にうーーんと手をやる。卓球を試してみてほしいと思ったが、人選を誤ってしまった気がした。どうやら、私の周りにはムキになりやすい人ばかりのようだ。


 温泉卓球はそこそこ流行っていて、夢中になりすぎて、汗をかくので、お風呂前にすることをオススメしている。スーパー銭湯なので一日入り浸って何度もお風呂に行ってもいいのだが……。


 王都の銭湯に、よくやって来て、『次こそ勝ってやるぜえええ』と卓球の特訓しているエイデンがいるとかいないとか。

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