intrude on uninvited

 スッと筆を構える。丸い円を描く。その中心に炎と風の文字をスラスラと書いた。浮かび上がる光の文字が発動する。ゴオッと赤い炎と轟音と共に魔物を飲み込んだ。


 白銀の狼の守護者のアサヒは事もなげに、一つの村を救った。周辺の魔物がいないか探索という文字を描くとヨイチは静かに耳を澄ました。鳥や蛇のような文字が浮かびあがり、生き物のように空や地を探っていく。


「うん。もう居ないみたいだ」


「よしっ!これで終わりだな。帰ろーぜー」


 私とリヴィオは出番無しであった。手伝いにきたつもりが、ただの見物になってしまった。


「すごいわね」


 私は感心して、そんな月並みな言葉しか吐けなかった。


「でも限りがないんです」


 ヨイチが静かな声音でそう言う。


「魔物の侵入は北の方から次から次へと沸くように入ってくるんだ。止められないんだよなー。仕方ないよなー」


 アサヒは深刻なことを言いつつも、明るい。この双子は対照的だ。


「安易な考え方かもしれないけど、集中的にそこの場所に結界を張るというのはだめなの?」


 私の提案にヨイチとアサヒは首を横に振った。


「しているんだけど、魔物の勢いに押されて破壊される。だから、完璧には防げない」


「それでも以前より、この国の魔物は減ってきている。ヨイチとアサヒのおかげだ」


 ヨイチの残念そうな様子にリヴィオは励ますようにそう言った。


「そうだ!村や町も活気づいてきてるしなっ!」


 アサヒは前向きだ。ザアッと夏の匂いと共に草原の緑色の草が揺れる。


「この国はずっと夏なの?」


「『エンドレス・サマー』とみんなは呼んでいる。白銀の狼を王家が捕らえていなくなってから、呪いのように、この国には四季が消えたらしいよ。僕たちもその呪いを解けない」


「ワンタローに解けよって言ってるんだけどなー。まだ怒ってるのかな?」


 ヨイチが神妙な顔で説明したのに、アサヒがおちゃらける。ワンタロー?


「あの……ワンタローって?まさか……」


 アサヒが、紹介してなかった!と笑う。城へ帰ろうと言って、あの松本城もどきへ誘われる。


 以前、招かれた最上階の部屋に一匹の大型犬が寝そべっていた。専用のクッションはフカフカで気持ちよさそうだ。


 毛並みの良い白銀の毛並みはつい撫でたくなるが、我慢する。たぶん……これが……。


「おーい、ワンタロー!ただいま!黒龍の守護者だ。あ、こっち、犬に見えるけど、白銀の狼だ。一応神様」


 アサヒが友達連れてきたぞーというノリで紹介した。片目を開ける犬……ではなくて、白銀の狼。


「一応ではない!神様だ!フン……あの生意気な黒龍のやつの……そこの女、嫌な気配だな」


 私を見て両目を開けて、立ち上がる。ギロリと睨みつけてくる。思わず後ずさりしたくなるような威圧感がある。リヴィオがスッと私の前へ立つ。


「おい。ワンタロー、セイラは黒龍の守護者だ。手を出すなよ」


「シンの転生した姿を持つ者か。そこの女は黒龍の守護者と言うが、嫌な血の匂いがする」


 ………私の父がこの白銀の狼を捕らえたのだ。それに勘づいている。私は深呼吸して口を開く。


「ごめんなさい。私の父があなたを捕らえたと……そう父から聞きました。この国に災禍をもたらし、あなたにひどいことをしてしまい、どう謝っていいのか……」


 ドンッという音と共に足を踏み込む狼、天井に向かって咆哮をあげた。リヴィオが反射的に剣の柄に手を伸ばし、金色の目を細めた。


「言っておくが、セイラは無関係だぞ!……セイラも、なんでおまえが謝ってるんだよ!」


 リヴィオは白銀の狼だけでなく、私にも怒る。父が謝ることができないなら……私が償うしかないじゃない。この狼の神様にバレている。


「やめろ!ワンタロー!」


「客人に失礼をするなよ」


 二人の少年が制止するように強く言う。白銀の狼がピタリと止まった。


「フェンディム王国の王家の血が流れているのに黒龍の守護者なんておもしろい人だね!ワンタロー落ち着けよっ!」


「ワンタロー、リヴィオの言う通りだ。セイラさんは関係ないだろう?」


 双子の少年達に叱られると、うなだれる白銀の狼。神様がしょんぼりするとは……。


「なんの目的でヨイチとアサヒに近づいている?」


「ええーっと、お話をしたくて……魔物の発生原因について話があります」


 ふ~んと言って、興味なさげにワンタローはクッションのところへ戻って寝そべった。しかし警戒はしているようで、耳をたてて、聞いている。


 アサヒとヨイチはそんな神様の様子に肩をすくめる。


「魔物の原因がわかるの?もし減らせるなら助かるんだけど」


 そうヨイチは言う。私は魔物は作られた兵器であり、トーラディム王国のある大陸に発生装置があるのではないかという話をした。


 ヨイチとアサヒはそっくりな顔を見合わせる。


「魔物がなくなるというなら、やってみる価値はあるなー」


 いつまでも戦い続けるのはめんどくせーとアサヒが顔をしかめている。


「きりが無い戦いは疲れるよね。元を断ってしまえばそれまでだよね」


 ヨイチも乗り気だ。二人は出来ることがあるならば……力を貸すことを申し出てくれる。


「ただ、僕たちは万能に見えるけど違うんだってこと言っておくよ。たとえばこの松本城だけど、見た目は松本城そっくりでも建て方の構造は……レゴブロックのような単純なものなんだ」


「そーそー。構造がわからないところは作れねーし、命が消える運命であるものはどうしても救えない………神の力といえど限界がある。力を貸したいけど貸せないところもあるかしれないと思っててほしーなー」


 わかったわ。とヨイチとアサヒの説明に頷く私。


「やけに二人とも協力するって話が早いな」


 リヴィオが首を傾げる。ヨイチが言い、アサヒも言葉を続ける。


「早くのんびり暮らしたいんだ」


「基本、ナマケモノなんだ。楽しいことしかしたくねー!」


 そうなのねと私は微笑む。彼らが異世界での暮らしを楽しんでいるのがわかる。


「今度、温泉旅館に来ない?まったりのんびりできるわよ」


 温泉旅館!?行きたい!と二人は即答だった。今度は白銀の狼の守護者を温泉へ招待することにした。

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