彼はマリッジブルー!?
レオンとステラ王女の結婚準備は順調に、進んでいるとマリアから聞いていた。
………はずなんだけと?
リヴィオが形の良い眉をひそめて、客人に尋ねる。
「いきなり、どうしたんだ?」
ナシュレの屋敷の客間にいるのは、突然訪ねてきたレオン=カムパネルラ。リヴィオの兄。リヴィオによく似た顔立ちに黒髪、青い目をした彼は言った。
「少し気分転換しに来たのです。ナシュレ産のお茶ですか?香りが良いですね」
「わかりますか?新茶です」
メイドが出した、お茶を一口飲むと、それだけで気づくレオンはさすがである。私は感心するが、リヴィオはイラッとして言う。
「お茶はどうでもいいだろ!?単独で来るなんて今まで、なかっただろーが!?」
「リヴィオは相変わらず結論を急ぐ」
「何かあったと推測できるから聞いてるんだろ!もったいぶんな」
レオンが口の悪い弟だと肩をすくめた。
「特に何もないけれど、君たちの様子を見に来ただけというのは駄目なのかい?」
「だめじゃないが……それだけの理由か?レオンが?」
「疑ってるのかい?」
兄弟の中では一番腹黒いからなとリヴィオは遠慮なく言う。
「とりあえず、ゆっくりされていってください。屋敷の者たちには伝えておきますから」
ありがとうとレオンは穏やかな笑みを浮かべた。
「なんだと思う?」
「うーん……わからないわ。マリアからはなんの連絡もないし、本当に遊びに来ただけなのかしら」
「あいつは昔から、無駄な行動をしない。なにかしらの意味のある行動が多い」
リヴィオは首を傾げつつ、仕事へ行った。私は執事のクロウとアルバートにレオンのことを頼むわねと告げてから仕事へ向かった。
私とリヴィオが仕事のあいだ、レオンはゆっくりと過ごしていたと執事の二人から報告を受ける。
「湖の公園は良いですね。あそこのカフェで少し考え事もできましたし、屋敷のお風呂にも入らせてもらい気分転換できました。ありがとうございました」
夕食を共にしていると、そうレオンが物腰、柔らかく丁寧に言った。
リヴィオが牛ステーキの横の夏野菜のソテーを一口食べてから、嘆息した。
「どう考えても……悩みあるだろ?何か話したくて来たんだろ?」
「悩みというほどでもないんだ」
青い目を優しく細め微笑むことで、本音を隠すレオン。
「言ってみたらスッキリするかもしれません。会食の間の単なる世間話という感じでどうですか?会話が終われば、私達も忘れます」
私はなんとなくレオンの悩みが口にすることを憚られるものではないか?と気づいて、そう言った。
ナシュレ産の小麦も美味しいのかな?パンがフワフワしてるねとそう軽く言いつつ、レオンは私とリヴィオを見た。
「今さら何を言うと言われそうだけど、ステラ王女を支えることができるのか、この国を守っていくことができるのか……そう夜になると考えてしまって、眠れないんです」
リヴィオが目を丸くした。少なからず私も驚いた。
「リヴィオのような強さや自信があればいいのにと思っていたら、いつの間にかナシュレに来てたってわけさ。笑ってくれてかまわないですよ。自分でもこんな弱さがあったなど知らなかったんです」
「オレのように?そんな自信なんてないぞ?」
首を傾げるリヴィオに私は思い当たることがあった……たぶん……これは……。
「あの……言いにくいんですが、もしかしてマリッジブルーってやつじゃないかしら?結婚されてしまえば、なんてことは無いって気持ちになるかもしれませんよ」
私の言葉にレオンが一瞬考える仕草をした。
「マリッジブルー……そう言われると……そうかな?という気持ちになりますね。リヴィオはどうだったんだい?」
「レオン、さすがのこのオレだって、結婚する前は………えーと、うん。嬉しかったな。オレは参考にならない。こじらせ病なんだ」
それも前世からのとボソッと小さく言う彼に私は真面目に答えなさいよと半眼になる。
「真面目だ!だが、他のやつの話ではよくあるぞ?結婚前にパーッと羽根を伸ばしておきたいとか、今のうちに独身を楽しんでおこうとかな!」
それマリッジブルーじゃないでしょ。
「一般的にはよくあるんだね」
レオンがなるほどと頷いた。リヴィオがそうだなぁと言ってから、ガタッと椅子から立ち上がった。
「屋上のビアガーデンに行こうぜ!皆で飲んで騒げば気晴らしになる!トーマス、クロウ、アルバート……スタッフたちも誘おう」
先日から毎年恒例となった、夏のビアガーデンを旅館の屋上でしていた。リヴィオは温泉に入って、それから飲みに行こうぜ!とワクワクしている。
……レオンの悩み、どこいった?私は眠いので欠伸を1つして、彼らを見送る。
しかしレオンに効果があったようで、次の日、元気になって帰っていった。
「ありがとうございました。王都に戻ります。なんだかモヤッと悩んでいたことがバカバカしくなりました。とりあえず自分にできること、精いっぱいします」
そんな清々しいレオンとは対照的に……なんだか、屋敷の使用人や旅館のスタッフたちが飲みすぎた顔をしている。
「薬湯くれ……」
珍しく飲みすぎたリヴィオが執事のアルバートに二日酔い用の薬草を頼んでいる。頼まれたアルバートも顔色が悪い。
「レオンはザルなんだ。めちゃくちゃ飲むんだ!迂闊にもつられて飲んでしまった」
ワインとビールの樽が相当空きましたよとヒソヒソと私に耳打ちするクロウだが、彼もまた……酒の匂いがする。
「まったく……」
私が体に良くないわよ!と言おうとしたが、ニヤリとしたリヴィオの笑みに阻まれてしまった。
「でも上手くいっただろ?」
先にそう言われてしまう……私は呆れて、肩をすくめ、二日酔いの男たちを置いて仕事へと行ったのだった。
宴会でマリッジブルーを吹き飛ばすなんて、男ってよくわからないわ。
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