魔力は語る

 私達がすべてを背負ったと聞いて、父は意気揚々としているらしい。自分の手元には隠し財産でもあったらしく、食うには困らないとか……。


「ホントになかなかの人だわ」


 リヴィオはそうだなと無感情に答える。領地が広がり、忙しそうだ。ナシュレの倍の面積があるのだ。ジーニーも来ていて、書類を作ったり、なにやらアドバイスしている。


「えーと、今日は休湯日だから、私も何か手伝うわ」


「じゃー、そこの書類まとめといてくれ」


 どっかの部長のような指示がリヴィオからとぶ。……はい。と私も執務室の机に行き、仕事を手伝う。


 各地の特産品のまとめ……ふむ。なるほど。


「街道沿いに道の駅でも作ろうかな……先に道の整備をして王都とナシュレまでの道を綺麗にする。病院、警備隊、学校っと!うーん、例のゲームのシ○シティみたいよね」


 起案書を作成し、リヴィオに提出してみるかな。楽しくなってきた!


「おい……静かに仕事してくれよ。楽しそうで何よりだけどさ。オレもそのゲームしたことあるけど、リアルだと大変だ」


 リヴィオが半眼になって、こっちを見ている。


「そ、そうね。つい……」


「今日は客人が来る」


 リヴィオがそう言うとジーニーがそろそろじゃないか?と時計を見た。客人?だれ?


 その答えはすぐ出た。客人は時間より少し早めにきた。


「お父様……」


 私は思わず、呟く。


「わざわざ、ご足労をどうも」


 そのリヴィオのセリフからして、こちらから呼んだようだ。


「借金まみれのナシュレ伯爵を見に来たのだ。どうだ?気分は?生意気な小僧の悔しい顔を見るのも悪くない」


「お父様!いい加減に………!」

 

 ニヤニヤ笑う姿を見て、さすがに私も腹が立って、前へ出ようとした時、ジーニーが落ち着くんだと言う。


「気分は悪くない。カシュー地方の領民を救えると思えば悪くない。アルト、おまえに用があったから、ちょっどよかったよ」


 リヴィオがさて、始めようか?と立ち上がる。ジーニーの目が細められ、二人の空気が変わる。


 ガッとリヴィオが父の腕を掴む。


「なっ!?なにをする!?」


「誓いを違えるなと言ったよな」


 その瞬間だった……二人がフッと消えた。私は状況についていけない。


「リヴィオ!!」


 私の声が部屋に響く。ハッとジーニーを見ると冷静だった。リヴィオと打ち合わせ済みらしいことがわかる。


「ジーニー!どういうことなのか知っているのね?」


「知識の塔の賢者が様々な可能性を割り出した。それをリヴィオの証言と共に照らし合わせた」


 それで……?と私は促す。


「セイラのことをかってに調べた形になり、申し訳ないと前置きする。知っての通り、魔力の高さは遺伝であることが多い。セイラは百年に一度の天才と言われるほどの魔力の持ち主だ。僕とリヴィオに匹敵するほどのね」


「……学園時代、そう言われてたわね」


「シン=バシュレとの血縁だと思っていたから、皆が納得していた……しかし実際、血は繋がっていない。そしてセイラの父は魔力を持たない」


 稀にそんな人もいるんじゃ……と私は考える。それに母は魔力があったかどうか定かではないが、ベッカー子爵家は遡ると王家の血が入ってるとは言っていたし。


「母方の方じゃないのかしら……?」


「エスマブル学園の学園長たる後継者は魔力の高さを保持するために……強い魔力を持つ子を産むために僕の母は選ばれた人だよ。実は、それこそ王家の血が濃く入ってる。セイラの母方のベッカー子爵家は遠縁で、血は薄い。リヴィオは公爵家だから魔力の高さを持って生まれたのは言わずともわかるだろう。僕らに匹敵する魔力を持つセイラは……たぶん……」

 

「私の父は魔力があるということ?」


「そうだ。それも王家の血が入っているくらいの魔力があると想定できる」


 しかし父に魔力は無く、魔法は使えないし、嫌いだった。才能溢れるやつは嫌いだと言ってはいなかったか?………妬み?嫉妬?焦り?頭をフル回転させる。もしや、私は父に対して間違った認識をしていたのではないだろうか。


「アオ!!」


 私は慌ててアオを呼び出した。ジーニーが腕組みし、苦い顔で言った。


「行くのか?行かないほうが良いと思うが。リヴィオも因縁の相手とのやり取りをセイラに見られたくないんじゃないか?」


「何をリヴィオがしようとしているのか、何となく想像ついたわ。行かなきゃ!私に無関係ではないし、見届けるわ。知ることを恐れて、リヴィオだけに背負わせるわけにはいかないのよ」


「なんじゃ?」


 アオがクルンと一回転して空中から出てきた。


「リヴィオとお父様が消えたわ!アオなら知っているんじゃない?二人が最初に出会った場所に連れてって!居るならそこでしょ!?」


「……めんどくさいのぉ。アルトは己の罪を負うべきなのじゃ。アルトを助けるわけではあるまいな?」


 アオもまた、なにかを知っていると私は直感的に思った。


「助けるつもりはないわ。だけど、この目で確かめ、知りたいの。父がなぜ、私を憎むほど魔力を欲していたのか!」

 

 私は今になって気づいた。父は魔法が嫌いだったわけじゃない。魔法を使う私を見る目……あれは羨望だ。自分が持たざる者という悔しさと絶望。


 『目の前で見せびらかすつもりか?』確か……よくそう言っていた。魔法が嫌いだったら使うなと言えば良いだけなのだ。


「リヴィオにはセイラを止めろと言われたけど、僕は無理だろうなと思ってたよ」


 いってらっしゃいとヒラヒラ手を振るジーニー。本当は止める気など最初からなかったでしょと苦笑してしまう。


 アオが私に触れると視界が変わった。


 あの国へ……滅びの道へ進んでいった荒野が広がるフェンディム王国の地へアオと私は足を踏み入れた。

 


 

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