四章

光の鳥の王

 私とリヴィオは神の道を使って、トーラディム王国へ行った。


 使者が約束の地点で待っていてくれた。王宮の近くの門だ。


「はじめまして。王のお付きの神官です」


 美人な神官だと私は目を見開いた。長い白銀の髪を一つにまとめ、深海のような藍色の眼の色。神秘的な雰囲気である。少し大神官長様に似ている気がした。神官服には鳥の刺繍が左胸のポケットに金の糸で縫いつけられている。


「よろしくお願いします。陛下に謁見できること楽しみにしていました」


 リヴィオが動じることなく、淡々と言う。緊張している私とは対照的だ。

 

 その後ろからヒョコッと顔を出したのが……。


「お久しぶりですねー!」


 白いフード付きローブに身を包み、馴染みのある声は……。


「大神官長様!お久しぶりです」


 私はホッとし、少し緊張感が溶けた。ニッコリと笑って声をかける。リヴィオがペコッとお辞儀する。


「護符、ありがとうございました」


「役立ったようですね。良かった」


 大神官長様の紫水晶の色をした目が優しく細められる。


「トーラディム王との謁見はできるんですか?」


 私が尋ねるともちろんです。案内しますねと女性神官がそう言って、通路を歩いていく。


 立派な歴史ある城だとわかる。飾ってあるものが年代物であるし……天井絵の絵画、通路の所々にある彫刻。大理石の床。どこもかしこもこの国の栄華を感じさせる。


「この謁見は内密の物になるのですか?」


 大神官長様にリヴィオが尋ねるとそうですねぇと曖昧な返事をした。


「黒龍の守護者を正式にお招きするとなると、国あげてのことになります。それでもいいのですが、望まれますか?」


「いや、めんどくさい」


 リヴィオは嫌な顔をした。私も首をブンブンと横に振る。


「そうでしょう!?あなた方はそう言うと思いましたよ。だから、陛下と顔合わせする会という形を提案したんですよ」

 

「師匠はどこか楽しんでいない?なんか企んでないでしょうね?」


 黙っていた女性神官がボソッと半眼になって大神官長様に言う。師匠!?え!?じゃあ……この人が。


「あ、私の弟子のミラです。可愛いでしょう?」


「可愛いとかやめてよ。絶対、わざと言ってるでしょ!?鳥肌たってるわ!」


 まるで思春期の父娘の会話である。ハッ!としてミラは少し赤面しつつ、すみませんと謝る。


「失礼しました。もう……師匠が絡むとろくなこと無いのよね……これだから……」


 ブツブツと唇を尖らせて、語尾を濁す彼女は最初の神秘的なイメージは消えて、年相応の若き神官に見える。


「陛下、お連れしました」


 重厚な扉がギイっと開かれる。数名の神官が周りにいるだけで、警備の者はいない。


 テーブルの上にはケーキ、チョコレート、クッキー、スコーン、マドレーヌ、甘く煮た果物、軽食のサンドイッチのお茶菓子に豊富な種類のお茶が並べられていた。

 

 その甘い物の中心にいたのが、金色の髪をし、空色の目をした若き王だった。紹介されずともわかった。


 王の風格、堂々たる雰囲気がある。軍服のような白い服に金色の刺繍が施され、頭上にはきらめく王冠、耳のピアスが煌めく。絵本の中から出てきた王子様そのものと言っても良い。目を奪われる。


「はじめまして、黒龍の守護者。会えて嬉しいよ」


 ニッコリとほほ笑む表情は柔和である。美しく端正な顔立ちは誰もが惹きつけられるだろう。美男美女の国なの?ここは!?


「この度は新王即位、おめでとうございます。僭越ながら、女王陛下に代わり、祝辞を述べさせて頂きます」


 リヴィオがツラツラと話し出す。え!?こんなこと言えたの!?と二度見してしまう。表情から何を思っているのか、読み取れない。


「ありがとう。ウィンダム王国の女王陛下にもよろしくお伝えください。いつかお会いしたい」


 黒髪のリヴィオと金色の髪の王は目を合わせる。互いに何かを探るような雰囲気が一瞬、この場の空気を重くする。


「堅苦しい!苦手ですよ!こんな空気は!!」


「師匠はちょっと黙ってなさいよっ。空気読みなさいよ!」


 パタパタと空気の入れ替えをするように仰ぐ、場の空気クラッシャーの大神官長様。それを叱る弟子の神官のミラ。


「楽しくお茶をするために用意したんでしょう!?」


「まあ……そうだね。ゆっくり歓談しよう。歴史的瞬間なのに、相変わらず大神官長は軽いなぁ」


 光の鳥の守護者と黒龍の守護者が会ったという歴史の記述はない。確かに大きな出来事に違いない。


 神様同士は……どうも家の温泉で会ってる気がするが。それは言わないでおこう。


 他愛無い会話が続き、互いの国の様子や魔法のことなど、少し違う文化のことなど、笑い合う。年齢が近いせいか、話してみると、親しみやすかった。


「ミラも座ってお茶をすればいいのに……」


 トーラディム王がそう言って誘うが、彼女は仕事中ですからと言う。陛下の護衛の神官としているようだ。大神官長様もミラは真面目すぎますよーとまったりお茶を飲みつつ、そう言う。師匠が適当すぎるんですよとまた弟子に怒られている……。


「自分で言うのもなんですが、怪しい者じゃないので、護衛は大丈夫だと思います。一緒にお茶をいかがですか?」


 私の言葉にアハハハと笑いが起こったお茶会の場。なぜ!?


 リヴィオもその言い方、セイラらしいなと笑いが止まらない。トーラディム王すら怪しくないって自分でいうかなー!?と笑っている。


 へ、変なこと言った!?私が困っていると、ミラがやれやれと嘆息して、椅子にポスっと座った。


「どうもありがとうございます」


 ニッコリと私に笑いかける。


「トーラディム王国にも温泉が欲しいなぁ。大神官長に聞いたんだが、とてもくつろげて良いものなんだって?」


 私は陛下の一言にガタッと席を立つ。リヴィオがヤバいという顔をした。


 これは!千載一遇のチャーーーンス!!


「そうなんです!ぜひ、トーラディム王国にもいかがですか?よろしければ、温泉を作らせて欲しいです!」


 私の勢いに目を丸くする陛下とミラ。


「いいよ」


 簡単にオッケーを出す陛下。


「でも1度、温泉旅館に行って見てみたいな。ミラ、一緒に行かないか?」


「もちろん、陛下が行かれるならば、護衛としてついていきます!……護衛としてです」


 護衛としての立場を強調し、繰り返すミラ。


「ぜひ、お越しください。おもてなしさせていただきますわ」 


 ……こうして、初の顔合わせは終わった。


 トーラディム王国の王がこっそり温泉旅館に来るという話にまでなってしまったが。私は心の中でガッツポーズをした。絶対に支店への野望に繋げてみせる!


「思ったより、陛下もミラさんも話しやすい人でよかったー!」


「油断すんなよ。あの三人は一瞬で1つの街を吹き飛ばせるくらいの魔力がある」


「そ、そうなの!?」


「過度に警戒する必要は無さそうだが……あのトーラディム王国の王が?本気で温泉旅館にくるのか?まさかな?」


 冗談だよな?とリヴィオは本気にしていないようで、首を傾げるのだった。


 でも私は温泉を味わってみてほしいなと思った。世界の皆でくつろげる温泉なんて最高じゃない?きっとその先に世界の平和がある!


 



 






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