【新年から勝負を挑むこともある】
晴れた冬空の下、ポーンポーンと軽い花火が鳴る。イベント開催の合図だ。
『新年羽つき大会』。お正月にナシュレの人達と羽つき大会をしようというものだ。
羽子板と羽根に何だこの変な物?と最初はみんな言っていたものの、こちらにも似たスポーツがあるため、意外とすんなり受け入れられた。
「あけましておめでとうございます!本日の司会は私、セイラがさせていただきます!」
拍手が観衆から起こる。セイラ様ー!と手を振ってくれる人もいる。
「あけましておめでとうって、なんの挨拶だろう?」
「なんかめでたいのかー?」
「セイラ様は賢いから、なにかの呪文かもしれないぞ!」
つい日本式の挨拶をしてしまった。コホンと咳払いして、ナシュレの人達がヒソヒソ話しているのを聞き流す。
リヴィオが気をつけろよという目で見ている。
「ゼイン殿下も出場するんですか?」
まだゼイン殿下はお忍びで『花葉亭』に宿泊し、ナシュレで過ごしている。
ジーニーが変装しているゼイン殿下に尋ねる。スノーゴーグルに毛糸の帽子、厚手の服装……怪しい人になって、むしろ目立っている。
「もちろんだよ。暇……じゃなくて、社会勉強の一つだよ。イーノ、優勝目指していくからなーっ!」
「体力ないのにな〜。こういうの嫌なんですけど〜」
やる気なさそうなイーノ。そこへ双子ちゃんがやってきた。
「やる気のないやつは帰るのだっ!」
「優勝は我らのモノなのだ!」
トトとテテはやる気ゼロの兄に言い放つ。その瞬間、イーノの闘志に火がついた!
「くっ!おまえらには負けないっ!絶対に双子には負けない!」
兄のプライドにかけて!と、なぜかイーノはトトとテテとは馬が合わないらしく、顔を合わせるたびに互いに言い合う場面が多い。
「今回は二人一組のペアになり、五分勝負で、顔に黒い☓が少ないチームの勝ちです。参加賞は銭湯無料券とサニーサンデーとクイーンバーガーのチケットとゆきんこちゃんのタオルでーす!」
そして……と私は説明を続ける。
「1位の方には旅館宿泊チケットにナシュレ商店街のお買い物券が当たりまーす」
うわああああ!と歓声があがる。毎度ながら、ナシュレの人達はノリがいいし、新年早々たくさんの参加をしてくれた。
リヴィオはジーニーと組むらしい。キャー!頑張ってえええ!と女性達の応援が熱い。人気あるなぁ。またまた学園時代のデジャヴ。
冬のキリキリとした寒さに負けず、熱い戦いの火蓋が切られた!
一回戦はゼイン殿下とイーノ対トトとテテだった。双方睨み合う。
「くらえええええ!この双子めー!」
いつになくイーノが暴走している。ゼイン殿下の影が薄くなってるくらいに燃えている!
カチーーーンという良い音と共にトトとテテめがけて素早い羽がいった!
「フフン!甘いのだ」
「からくりたちよ!やっつけるのだ!」
や、やっつける?からくり人形ズが現れた!ザッザッザッザッと並ぶ。小さい羽子板を持っていて、カキーーンと弾き返した!
「そんな面妖なものをバージョンアップさせて、なにしてるんだあああ!」
ビシッと打ち返すイーノ。
「お、おい、イーノ、 自分を見失っているぞ」
ゼイン殿下は普段、暗い性格のイーノがムキになる姿にやや引き気味である。
双子ちゃんは容赦しない。
「からくりシスターズ!ゴーなのだ!」
ヒュンッとからくり人形の一体を羽根目掛けて投げる。人形はクルンクルンと回り、高速回転によって、打ち返した!
ビュンと羽根が目にも止まぬ速さで……。
「ギャア!」
ゼイン殿下のおでこにヒットした。倒れ込む殿下。
「よっしゃーなのだ!」
「正義は勝つ!のだ」
「ゼイン殿下ああああ!!」
イーノが焦って回復魔法をかけている。落ち着こう。
「トト、テテ……からくりは反則よ……」
トトとテテはわかっていたようで、ニヤリとした。
『天才発明家は試さずにいられないのだ』
兄を徹底的にやっつけに来たのだと私は確信した。この双子ちゃんはたぶんイーノと何か幼い頃からのなにか因縁がある。
今は深く聞くまいと、次の試合へと私は行く。
ジーニーとリヴィオは当然のように決勝戦まで勝ち上がってきた。相手は……ゼイン殿下とイーノだ!
バチバチとした視線がぶつかりあう。ゼイン殿下がシュッと羽根を軽やかに空中へあげて打つ!
「くらええええ!モテるやつは許さない!」
なに?その掛け声?
「帰れ!さっさと帰れ!」
帰れコールと共に打ち返したリヴィオ。
「おまえの顔に☓をつけてやるううう」
真剣すぎるゼイン殿下は風を切るような羽子板の振りを見せた。羽根つきの腕が上がってきた。
「できるものならしてみろ!」
しかし鉄壁の守り!リヴィオは軽く打ち返す。
「ローリングスマーーッシュ!!」
ゼイン殿下必殺の羽根スマッシュがきた!
キュルキュルと回転がかかった羽根はカーブを描き、リヴィオとジーニーを襲う!
「ドライブヘッド!」
下からすくい上げて回転を打ち消して、上へカンッと打つジーニー。
「ファイヤーバード!」
ゴォォォと炎を纏わせた羽根がイーノから放たれる。
「アイスガード!!」
リヴィオが氷の魔法を羽子板にかけて炎から身を守る。
観客達が凄すぎる!!と手に汗握る戦いに食いついている。
「レイビーーーーム!」
ゼイン殿下がピカッと目眩ましの光を入れた!リヴィオは目を閉じる。もうこれは流石に………えええええ!?
『打ち返したああああ!?』
観客達が驚きの声をあげた。リヴィオは目を閉じたまま打ち返していた。すご……すごすぎる。
「羽根の気配を読んだ。もはや羽根はオレの手足も同然……」
リヴィオはサムライかニンジャのようなセリフを言う。少年漫画のノリになってきた。コレ。
「馬鹿な!そんなこと……」
ゼイン殿下ものってるなぁ。しかし……ここで。
「試合終了ーーーー!」
ピーッと私は5分間たったので笛を鳴らした。
無論、反則の魔法を使ったので、失格だ。本気になりすぎである。
4人はそれでも、互いに健闘を称えて、握手している。おおー!スポーツマンシップだと観客達は感動した。
「いい汗かかせてもらったよ。ナシュレは楽しいところだな。帰りたくなくなってきたよ」
ゼイン殿下がキラキラと汗を輝かせながらそう言った。
『いや、帰れよ』
しかし……それは許されず、リヴィオとジーニーは声を合わせて、バッサリと切ったのだった。
「やっぱり領主様たちは面白いなー」
「からくりはすごかったな!さすが発明王だ」
「謎の参加者もなかなかやる人達だった」
もしや……私達はナシュレの名物になりつつある?散っていく観客の声を聞きつつ、気づいてしまった。
「豚汁、ぜんざいが無料でありますよー!」
そうイベント広場で声が上がった。配られている温かい汁物を食べつつ、冬空の下、皆の楽しい笑い声が響くのだった。
今年もナシュレは平和でありますように!
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