大晦日の夜に集う者たち

「なんでいるんだよ?」


「うーん……誰か呼んだのかな?」


 リヴィオとジーニーがあからさまに嫌な顔をした。


 目の前にゼイン殿下と黒フードをかぶったイーノがいる。


「チョコファウンテンとチーズフォンデュ、どっちから食べようか悩むのだ」


「このお酒、開けていいのだー?」


 マイペースな双子ちゃん。


「ゼイン殿下はともかく、兄を無視するな」


 トトとテテの兄、イーノが黒フードの下で不満げにそう言う。


「イーノ、その物言いは失礼だろう!?」


 殿下がツッコミを入れる。


「なんで旅館を予約してあるのに、わざわざ屋敷までくるのかしら……」


 私はそう言って額に手を当てる。


「送り届けてやるよ」


 ニコリともせず、リヴィオが転移魔法の魔法陣を描き出す。


「待て待て待て!?」


 焦るゼイン殿下。


「そもそも王城でもパーティーがあるのに、なんで来たのかな?」


 ジーニーが冷静に尋ねる。


「レオンとステラがベタベタ仲良いところを見せてくるのにいたくないだろう!?」


 リヴィオの兄、レオンとステラ王女はうまくいっているらしい……が、失恋したゼイン殿下の目に触れると辛いものがあるようだ。


「おかげで、護衛しなければならず、フォスター家に里帰りできず、いい迷惑で………いえ、なんでもないです」


 イーノがそう言う。フォスター家のトトとテテもそこにいるが帰る気はなく……『みんなも飲むのだー』と酒を人にも注いでいる。


「まったく、夜になったら旅館の方へ帰れよ!?」


 夜までなら許すとリヴィオは寛容に言う。ゼイン殿下は冷たいこと言わないでくれるかなと寂しげだ。


「ま、まぁ、せっかくの大晦日……じゃなくて、年の変わり目なんだし、楽しみましょう。そんな派手なこともないし、各自が好きなことをするだけですけど、それでもいいなら、どうぞ……」


 楽団もダンスもないし、お客様もこれだけだ。今年はマリアもカムパネルラ公爵家の方へ行っていていない。


 あ!そうだ!お客様といえば……。


「屋敷の方のお風呂へ行く人はお風呂にお供えしてあるお酒は飲まずに置いておいてね」


 皆が???となりつつも頷いていたが、リヴィオだけは『まさか……』と呟く。そのまさかの神様だ。アオから頼まれていたのだ。


「オレは旅館の方の風呂へ行くことにしよう」


 そうリヴィオが小さく呟くのを聞こえた。


「これなんだ?」


 ゼイン殿下が指差す。


「オデンなのだ。煮込み料理でいろんな具材が出汁の中に入ってておいしーのだ!」


「食べてみるのだ」


 ゼイン殿下とイーノが渡された大根、ソーセージの具を口にする。


『熱っ!!』

 

「あっ!ごめーんなのだ。熱いって言い忘れていたのだー」


「アツアツなのだー!」


「わざとだろ!?この双子はっ!」


 兄のイーノが笑ってる二人に言うとさらに笑われている。


「騒がしい年越しになりそうだね」


 ジーニーは被害が被らないように、ちゃんと自分のワインとチーズ、小さなクラッカーをお皿にとって、気に入っているソファーに腰掛けている。


「ほんとね。ジーニーが好きそうな、燻製のつまみも用意してあるわよ。チーズ、玉子、チキン、牡蠣の燻製を用意してみたんだけど、どう?」


 ワインと一緒につまみ、あ、うまいね!と気に入っている。その言葉に、ニヤリとリヴィオが笑う。


「そーだろ?以前からレシピ研究していたやつなんだが、燻す時間とチップの種類がな………って聞いてねーだろ!?」


 モクモクと食べて飲んでるジーニーはトトとテテにもうまいよと勧めていて、聞いていない。


 聞いてほしかったらしい……燻製に行き着くまでのこだわりの過程を。


 私もチーズの燻製を食べてみる。ふわりと煙いようなそれでいて香ばしいような癖のある味がたまらない!そしてワインを口に含む。合う!


「美味しいわ!シンヤ君は凝るタイプよねぇ。レシピノートからもわかるわ」


 私の場合、アイデアが出た!とりあえずしてみよう!こんなものでいいかなってなるが、彼の場合は完成に近い形に持っていくまでに、試行錯誤しているのが細かいメモのレシピノートからわかる。


「それが面白いんだろ」


「頭良かったものねぇ……なんとなく高校の時の順位が上位だったのを覚えてるわ」


「一応、カホの眼中に入れてもらえていたようで、光栄だな」


 なにか言いたげなリヴィオだが、すべてを語らない。な、なにかあったのかな?私、思い出せてない?なんだろ!?


 ゼイン殿下とイーノは思いのほか楽しそうに好きな音楽を選んで流したり、そのへんにある雑誌を読んだりし、まったりと過ごしていた。


「逃避行してきたこと、王宮は知っているのかしら?」


 私が心配になりかけたころだった。


「連絡しておいたよ。迷子を預かってますってね」


 ジーニーが苦笑して、そう言ったのだった。さすが根回しがいい。


「でかい迷子だな……それでなんて返事をしてた?」


「置いておいてくださいってさ!」


 リヴィオがジーニーの答えに、やれやれと肩をすくめた。


 トトとテテはからくり人形を動かしつつ、自分のところまで料理を運ばせている。かなり……怠惰である。


「からくり人形が進化してるわね。でも人間を怠惰にさせ退化させてるのは気のせいなの?」


「天才発明家は余計なことをしないのだー!」


「怠惰ではなく便利だと言ってほしいのだ!」


 ま、まぁ、モノは言いようね。私は先にお風呂に入って暖まってこようと部屋を出る。


「オレも行く」


 リヴィオがついてきた。うっすら積もる雪道を歩きながら彼は言った。


「なんか悩みあるだろ?」


「えっ!?なにもないわよ」


「夜、最近眠れてないだろう。私室へ行ったり読書してるフリして窓の外を見ていたりしている。熱が出たときからおかしいんだよな」


 ………バレている。やはりリヴィオには相談したほうがいいわと口を開こうとして止まる。


 後ろからにぎやかにゼイン殿下とイーノが走ってきたからだ。


「なっ!?なんだ!?」


「いや、リヴィオと一緒に温泉行こうと思ってきたんたけど、お邪魔したかな?」


 ニヤニヤと笑う殿下は完全にわざとだった。リヴィオはイラッとして、やっぱり送り返してやる!と魔法陣を書こうとするのだった。


「許してあげてください。殿下は仲の良い人をみると妬ましくて仕方ないんです。失恋したので………イテッ!」


 空気の読めない発言をしたイーノは頬を引っ張られている。


 早く帰らないかな?この二人……私はそう思ったのだった。王家も引き取りにきてほしいものだ!


 望んでいない、賑やかな年越しとなったのだった。


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