【大掃除はたいてい手が止まる】

 普段、屋敷はメイドさん達が綺麗に保ってくれている。感謝してもしきれないほどのプロ並みの管理。


 先日は手すりに蜜蝋を塗って丁寧に仕上げてくれていた。ありがとうと声をかけると、長年、こうして仕上げ拭きしてるんですよと言われた。


 日本で言う師走になってきたので、ここは触らないよう言ってある物置きの片付けでもしよう。


 お祖父様の物を主に入れてある。私ではどれがいるのか価値があるのかわからなかったので、整理しようがなかった。


 今はちょうどいい人がいる。


「ちょっとー!リヴィオ、来てくれる?」


「なんだ?」


「ここの物置なんだけどね、整理しようと思ってるんだけど……」


「なるほど。けっこう詰め込んでたかもな……何入れていたかな?」


 箱の一つを引っ張りだしてみていた。


「新聞??」


「あー、地味におもしろそうな記事のはとっていたかもなぁ。オレよりシンヤの方が勉強熱心だな」


 王都の事件、議会などの記録のページのみ残してある。……すごい。さすがシンヤ君だ。


 カホが逆に異世界に来る方じゃなくて良かったなと内心思うのであった。カホは勉強あまり好きではないようだった。


「うーん、せっかく残したし、捨てるのもったいない気がするな……こっちは?」


「こ、これは!?下駄?」


 何足かの下駄……!?なぜ?


「あー、夏とかサンダル欲しいと思って、下駄なら作れそうだなぁと思って職人に相談して作ってもらった」


「へええ!すごい!確かに夏とか下駄があると涼しいわね」


「いや……服装に合わなくね?……いや、待てよ?今なら温泉の法被と作務衣なら合うか!いいかもな!?」


「鼻緒の部分も布を可愛くしたら、いいかも」


 夏に向けて開発を勧めよう。下駄を一足借りておく。


 さっきから一つも掃除が進んでいない気がするのはなぜだろう。


 気を取り直して!奥の奥から手を付けてみよう。……ん?壺!?


「あっ!それ気をつけろ!」


「なに??」


 壺を開けると酸っぱくて食欲かそそる匂いがした。


「梅干しーーーーっ!?な、なんで!?」


「そこに梅と赤しそがあったから………かな?別にオレというか、シンヤは梅干しを好きじゃない」


 ………いや、おかしい。


「シンヤはけっこう実験好きだから、色々試してたな。忙しいわりに、そういうのが趣味だった」


「そ、そうなの。食べてみたいけど、何年ものだろう」


 挑戦的すぎるかしら?色は赤黒くなっているが、匂いは美味しそうである。白いご飯に入れておにぎりにしたい。

 

 これは大事にしておこう。そっと戻す。


 手元の棚の引き出しを無造作に開けてみた。幼さの残る筆跡は見覚えがあった。


「この手紙は!」


「おー?セイラからの?」


 私がエスマブル学園にいたころに祖父に出したものだ。とっておいてくれたらしい。


「覚えてないの?」


 リヴィオが呆れたように私に言う。


「おまえなー……カホの記憶、全部覚えてるのか?」


「覚えてないわね」


「そういうことだな」


 なるほどと納得して手紙を戻そうとすると、リヴィオがスッと1枚持っていき、開く。


「でも見てみたいな……どんな………は?これ……手紙か?」


 私も覗き込む。これは10歳くらいの時のやつだ。

 

『今月したことを記します。①試験はいつも通りの結果でした。②体調は崩してません。③ボランティア清掃をしました。④食事はいつも美味しいです。⑤特に問題ありません。お祖父様もお元気でお過ごしください』


 最後に成績表がペタッと貼られている。


「なんかの報告書?」


 リヴィオがツッコミをいれた。私すら無言になる。あ、あれ?こんなふうな手紙書いてたんだっけ?


 そっともう一枚私は開く。………こっちも同じく箇条書き。うーん、と記憶を辿る。


「あ!そうだわ!」


 ポンと手を叩く。


「お祖父様とエスマブル学園に入るときに、時々様子を教えてほしいと言われて、わかりやすく書こうと思ったら、こうなったのよ!」


「あ……そうなんだな。書類作成みたいで、一瞬驚いだぞ」

 

 微妙な顔をしているリヴィオ。


「この手紙は燃やしていい?」


 幼い頃の自分に恥ずかしさがなんとなくあり、そう尋ねたが、リヴィオが首を横に振った。え!?だめなの!?


「ここにあるのは、このままにしておく。オレの記憶が全てあるわけじゃないが、ここにあるものを見ると大事なものだったんじゃないかと思う」


「そ、そう……?」


 リヴィオはパタンッと手紙を大事そうに引き出しにしまう。


 あああ……その手紙類は処分したかったな……。


「疲れたなー。休憩しよーぜー」


 やれやれと物置から出ていく。私も仕方なく出ていき、鍵をかけた。


 結局、何も片付かずに終わってしまったことに気づいた。


 テスト期間にする掃除と大掃除はやけに手が止まってしまうものよねとガックリしたのだった。



 


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