監視者は踊らされる

 アイザックとザカートはあれから見つからず、黒フードの信者達は救難用ボートで助けられた。


 幽霊船は木っ端微塵になっていたらしい。


 信者として内部工作した者も囚えられたとか……さらに消えていた魔石は狂信者達の財源になっていて、ガイアス王国へ売りとばしていたことも発覚した。


 王都の魔石は予備用の魔石があったので入れ替えられたらしいが、使ってしまったため、巨大な魔石の発掘が急務とか。


 そういうこともあり、女王陛下、宰相のハリー、騎士団、王宮魔道士達はかなり多忙らしい。


「……で、ボクが来ることになりました!陛下の命令で監視者兼護衛として派遣されました。よろしくお願いします!」


 リヴィオと私は事後処理の話をしにきてくれたのだろうと思ったが……まさかの監視者は……。


「よりにもよってフリッツかよ!陛下は監視と護衛する気あるのか!?」


「え!?あ、ありますよっ!?」


 リヴィオの頼りねーなと言う雰囲気に焦るフリッツ。


「ステラ王女はどうするの?」


「ええーっと……前にも言いましたが、レオン様がいらしてからは……その……護衛することが減ったんです。傍にいるのは女性騎士が良いとのことでして……」


「レオンの嫉妬だな。涼しい顔してるけど、あいつは腹黒い」


 私の質問に口ごもりつつ話していたフリッツだったが、リヴィオの一言が的を射ていたらしく、はぁ、そうなんですよと苦笑している。


 レオンはリヴィオの兄でありカムパネルラ公爵家の次男である。ステラ王女の護衛騎士だったフリッツはレオンの嫉妬により暇を持て余しているようだ。


「あ、でもボクの妻もナシュレヘ連れてきているんですが、良いところだと気に入ってますし、ボクも尊敬するリヴィオさんの傍にいられるのは嬉しいことです!」


 リヴィオが微妙な顔をした。今、シン=バシュレの記憶がある彼はフリッツの一言にアイザックのような影を見たに違いない。


 私はリヴィオの心配を見透かし、肩をすくめる。ハイハイと手を叩く。


「さー、仕事行くわよ!フリッツは私と来てくれる?」


 リヴィオが……へ?と目を丸くする。私に任せて!と親指を立てておく。


 その数時間後のことだった。『花葉亭』に新しい男のスタッフさんが登場していた。


「フリッツ、お辞儀はもう少し長くしたほうが丁寧に見えるわ」


「こ、こうですか!?」


 作務衣を着たフリッツが私の後ろで、お辞儀の練習を繰り返していた。


「上手だわ!接客の才能あるかもよ!?」


「ホントですか!?」


 パッと嬉しい表情になるフリッツ。


 私は褒めた後に、じゃあ、ここの荷物を売店にね!と指示する。


「売店に補充しておいてね」


「わかりましたっ!お任せください!」


 せかせかとはりきって働くフリッツ。


「おい……スタッフの一人に見えるんだが?」


 様子を見に来たリヴィオが私に尋ねる。


「フリッツもただ見ているのも暇だし、非生産的でしょ?」


 使えるものは使え。旅館業は忙しいのだ。私の言い分に彼はハハッと笑った。


「働いたフリッツと一緒にサウナでも行くかな」


 サウナ信者を増やすつもりだ!!


「おーい!フリッツ!ちょっとサウナ行ってこないかー?」


「えっ?はい!!」


 大浴場へと行く二人の背中を見送る。


 フリッツ……いまいち頼りない騎士である。しかも一人だけしか寄越さない。女王陛下の真意が測りかねる。


「うーん。信頼してくれてるってことでいいのかしら?」


 首を傾げる私。アオがピョコッと現れる。


「何してるのじゃ?」


「仕事中よ。どこにいたのよ?」


「屋敷の風呂へ入り、昼寝しておったら……こんな時間になっておった」


 ………お風呂にハマってるアオは朝からいなかった。最高の生活送ってるわねぇ。


「セイラー!これを飲んでみたいのじゃ!」


 フルーツ牛乳をねだられた。ハイハイと買ってあげる。


「旅館内は動物禁止なのよー。買ってあげるから休憩室で飲みましょう」


「し、しつれいなー!神様を動物扱いするんじゃない!」


「どうみても猫だもの。仕方ないわ。人になれないの?」


「人型は肩が凝るのじゃ。これが一番楽なんじゃ」


 単なる好み……!?じゃあ休憩室ね。とアオはヒョイッと私に抱えられて旅館から撤収されたのだった。


「サウナ、最高でしたっ!」


 また増えた。サウナ信者が!ここにももう一人。フリッツはコーヒー牛乳、リヴィオはフルーツ牛乳を飲んでいる。


「街にも銭湯があるからおすすめだぞ」


「今度、妻と行ってみます!妻はもう行ってるかもしれないけど……アイスクリーム屋やハンバーガー屋もこないだ行ってました」


 早いわねーと私は笑うとフリッツは細い目をさらに細めて笑う。


「王都の騎士団を外されて左遷かと妻には思われてるんですが、楽しんでいるようなので結果オーライでした」


 王家の最重要機密である私とリヴィオの監視者役というのは……。


「まあ、人質的なものもあるかもな」


 リヴィオが察する。


「そうなんですよっ!お願いですから、ボクの首が飛びますから、リヴィオさんとセイラさん、大人しくしててくださいよ!?」


 泣き言のように言うフリッツに私は大丈夫!と励ました。


「再就職先はバッチリでしょ?」


「ま、まさか!?」


「温泉旅館へようこそ!!」


 えええええ!と声をあげたフリッツだった。


 


 




 

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