雪に隠される想い

 新年のパーティーは深夜まで及んだ。今年はマリアがいたので、いつもより少し賑やかだった。


「今年のお酒はフォスター家の地元酒蔵で限定販売しているやつなのだー!」


「ちょっと度数は高めなので注意なのだ!」


 トトとテテがじゃーんと見せるとリヴィオはすかさず私に呑みすぎないようにと釘をさす。


 ジーニーも手土産だと王都有名店のチーズケーキとプリンを持ってきてくれた。


「わぁ!久しぶりだわ」


 マリアが喜ぶ。女子に人気のお店だ。


 今日は例のごとくまったりと朝からお風呂へ行ったり、美味しい物を食べたりしている。


 鶏肉のパリパリとした皮を食べつつ、私はアップルサイダーを飲む。


 トトとテテはチョコフォンデュのタワーから離れない。


「これはなんなのだ!?」


「楽しすぎるのだ!いちごとチョコが意外とあうのだー!」


「チョコバナナも合うわよー」


 私のアドバイスに二人はいろいろ試していた。


「魚は合わないことがわかったのだ……」


「生野菜もいまいちなのだ」


 冒険する双子ちゃんはすごいわと眺める。私は絶対しないであろう組み合わせを試していた。


 お風呂へ行っていたリヴィオとジーニーとマリアが帰ってきた。


 しっかり温泉で暖まってきたのか、雪の中来たとは思えないくらい、3人ともホカホカしている。


「おかえりなさいー!」


 ジーニーが可笑しそうに言う。


「セイラ、聞いてくれ。リヴィオが………」


「言うなよっ!」


 リヴィオがジーニーを睨む。


「なんなの?気になるじゃない!?」


 マリアが呆れた様に言う。


「お兄様が最初の子は女の子でもいいけど、嫁に出すと思うと嫌だ!とか言ってますのよ」


「はあ!?」


 私はポカンとした。えーと……将来設計とびすぎでしょう!?


 ………リヴィオが言うなよ!とマリアにも睨みつけた。


「アハハ!あの『黒猫』リヴィオがここまで柔らかくなってしまうとはね……セイラはすごい」


 爆笑してから、ジーニーは優しい茶色の目で私を見つめてそう言った。


「そ、そう?」


 なんとなく照れてしまう。マリアがポツリと呟く。


「羨ましいですわ……」


 その羨ましさが何を指すのかは分からなかった。


 窓の外は雪がしんしんと降り続いている。


 夜は随分更けて、本日2度目のお風呂へ入りに行ったリヴィオとジーニー。ソファで寝息をたてて寝ているトトとテテ。


 マリアと私は雪の気配を感じながら、静かな時を過ごしていた。


「わたくしはセイラさんになりたかった」


「ええっ!?」


 うたた寝しかけた私は頬杖を外して顔を思わずあげた。


「私にそんな価値はないわよ!?」


 その返事にマリアは切ないような悲しいような表情をした。


「気づいていたんですわ。……子どもの頃からわたくし、ずっとジーニーのことをみていましたもの。彼は誰が好きで大切に思っているのか……」


「ジーニー!?」


 まさか……マリアの本当の想い人は!?そしてジーニーの好きな人とは……まさか!?


 鈍い私であったが、この流れはさすがに気づいた。


 スッと唇に手をやりマリアの言葉を止めた。本人が言わぬことを話さない方が良い。


 それに私はジーニーが今までどおりの関係を望んでいるならばそのままでいい。


 こういった気持ちは他の人がとやかく言って変えられるものではないし、私にできることはない……と思う。


 本音を言えば驚きすぎて、私はどうしていいかわからない。


「ず、ずるいですわ!このままの関係でいるつもりなのですか!?」


「大人は狡い者です。友人は大切です。ジーニーは私の大切で親しい友達ですから……本人が言わないのに聞きたくありません」


 ポロポロとマリアが泣き出してしまう。


 泣かすつもりはなかった……困った。しかしジーニーのことは大切な友人であることは間違いない。


「セイラさんのような方が好みなら、そうなろうと思ったのに、頑張ってみても振り向かないし、いつまでも子ども扱いだし……」


 私はマリアの背中を無言で撫でる。


「優しくしないでくださいっ!……でもわたくし、セイラさんがお姉様になって嬉しい気持ちは嘘ではありませんわ。ジーニーも好きだけどセイラお姉様も好きですもの」


 そう言いながら、綺麗なエメラルド色の目からは涙が止まらない。


「ありがとう。私もマリアさんのこと好きよ」


 優しいマリアに微笑む。


 明るくて愛らしくて自分の気持ちに真っ直ぐな彼女はきっと強い。臆病な私よりも心が強いと思う。


「嫌いになれたらよかったんですわっ!」


 私は静かに頷き、しばらく傍にいたのだった。このことは誰にも言わないことを約束させられた。もちろん言わないわと私は了承した。


 私もたいがい鈍いわと自省する。


 マリアから離れて一人で、窓の外の雪を眺めた。


 雪はすべてを包み込むようにまだ降り続いている。


 ジーニーも私もリヴィオも……今までと変わらぬ関係を望んでいる。この件に関しては蓋をした私だった。


 きっとジーニーの性格なら自分の想いは言わずに、雪のように溶けていくまで、待つ。そして自分の中で整理をつけるだろう。私に知られたくないはずである。


 確かにジーニーはずっと私を助けてくれていた。しかし恋人になれるか?と思えば、それは違う気がした。前世の話もリヴィオにはできたが、ジーニーには何故かできなかった。


 ……きっとそういうことなのだろう。心って難しいわ。


 マリアはジーニーに想いを告げるのはまだ早いと判断したらしく、秘めておくつもりらしい。あきらめませんわ!と言っていた。


 公爵家へ帰ると思ったのに、なぜか温泉旅館での仕事を続けていた。


「思った以上にやりがいがありますの!」


 そう楽しそうに働くマリア。好きなだけいればいいわと私も明るく笑ったのだった。




 





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