【アタリとハズレ】

 チャリンとコインを入れる。どれにしようかなぁ?これにしよう。ピッと人差し指でボタンを押す。ガコンと中からモノが落ちてくる。


 この説明だけで、日本のある世界の人達なら何をトトとテテが発明したか当てることができるだろう。


 ♪ピピピピ………ピッピッピ………シーン。


「ハズレたぁー!」


 だよね……日本でも当たったことは一度もないと記憶している。当たりが出たらもう一本!と書かれているが、いつもあと少しのところでハズレ。そんなものよね。


「さて、フルーツ牛乳飲もうかな」


 私が自然な流れで瓶を手にすると、ちょっと待てー!?と見物していた周囲が騒ぐ。


「すごい!どうなってるんだ?」


「中から飲み物が!」


「これ冷えてる!?冷えてますよー!」


 ナシュレの街の銭湯に『自動販売機』なるものがやってきた。


 トトとテテが腰に手をやって笑い、得意げに立つ。


「ふっ……このようなモノ、天才発明家にかかればどうってことないのだ!」


「さあ!みんな冷たい飲み物を買うのだー!」


 リヴィオはさほど驚いていないようで、冷静にオレはコーヒー牛乳にするかーとボタンを押した。


 ♪ピピピピ………ピッピッピ………シーン。


「ハズレか!これアタリでるのか?」


 冷静に買ったわりにうるさい人になってるわよと思う。


 トトとテテがプゥと頬を膨らませて反論する。


「自分の運を機械のせいにするな!なのだ」


「ちゃんとアタリもあるのだ」


 しかし周囲の人たちもしてみるものの、一向にアタリは出ない。私は空になったフルーツ牛乳の瓶をカシャンッとかごにいれる。


 ちょうどお風呂あがりのトーマスがやってきた。


「はー、今日もいい汗かきましたよ。さつまいも掘りは疲れましたけど、その分お風呂はサイコーです……ん?どうしました?皆さんお揃いで?」


 私は有無を言わさず、トーマスにチャリンと小銭を渡した。


「いつも美味しい野菜をありがとう!これ使ってみない?飲み物を奢るわ!」


「え!?おじょう……じゃない。奥様!?いいんですか?」


 いいのよと私はふかーく頷いた。皆が見守る中、トーマスはやりかたを聞きながら、サイダーのボタンを押した。


♪ピピピピ………ピッピッピ………テレッテッテー!


『アタリだーーーっ!!』


 うおおおお!と盛り上がり、ざわめく周囲。


「で、でたーー!」


「アタリだぞ!出るんだなぁ」


 トトとテテが『当然なのだ』と証明されたことに満足げである。トーマスは「???」とハテナマークを浮かべつつ、ラッキーなもう一本は牛乳のボタンを押したのだった。


 ちょうどそこへ、ジーニーがお風呂上がりで来た。


「なに盛り上がってるのかな?」


「ジーニー、飲み物買わない?」


 ジーニーには奢らないんだなとリヴィオが、横で言うが、ジーニーはお坊ちゃんじゃない?しかもエスマブル学園の学園長!小銭など私からもらったところで……。


「買ってみようかな」


 財布を取り出し、コインを入れようとして手が止まる。


「あ、小銭がない」


 そっちーーー!?!?お札入れるところもあるけど……まぁ、しかたない。そこまで心は狭くない……たぶん。


「しかたないわね」


 小銭を渡す。あ、悪いねとジーニーが言ってコインを入れた。


「時々、たくましい商人魂というか、庶民的なセイラがでてくるな」


 リヴィオが私を分析している。褒めている…………んだよね?


♪ピピピピ………ピッピッピ………シーン。


「まあ。そうだよなぁ」

 

 どことなくホッとしているリヴィオ。ジーニーはそこまで真剣さはなく、コーヒー牛乳ごちそうさまと笑って去っていく。


 トトとテテはみんなの反応に大満足のようでニヤニヤしている。


「我らもお風呂に入ってから飲むのだー!」


「風呂上がりにフルーツ牛乳飲むのだー!」


 私もお風呂に入っていくことにする。もう一度お風呂上がりにチャレンジしたい!


 銭湯にヒノキの香りが漂う。『海鳴亭』で木片を浮かべたところ、好評につき、銭湯でもしてみることになった。


「いい香りなのだ!」


「癒やされるのだ!」


 ヒノキの香りにほわーーんとなっている二人。立ち上る湯気も木の香りがする。新築の家とか木材置き場とかも私は好きだ。


「リヴィオとの新婚生活はどうなのだ?」


 トトに唐突に聞かれて、ザブッと滑り、溺れかける。


「危なっ!ええええーっと……もともと一緒に屋敷に住んでいたから、特に変化はないわよっ?」

 

「つまんない答えはいらないのだ!」


 テテがそう言う。『新婚さんいらっしゃい』的なオモシロサを求めないでもらいたい。


「仕事も忙しいし……」


 トトとテテが首を振る。


『それは言い訳なのだっ!』


 手厳しー!!


「秋の夜長に二人でゆっくりするのもいいのだ〜」


「天才発明家に恋などしている暇はないのだ。その分、楽しませてほしいのだ!」


 そういうことなの!?人の新婚生活を質問してきたと思ったら、心配ではなく、興味だったらしい。


「えええええ!?漫才夫婦じゃないのよっ!結婚して良かったなーって思う時もあるけど大変な時もあるんだからねっ!」


 私の声はどこ吹く風。二人は声を揃えて言ったのだった。


『アタリもハズレも楽しむのだ!』


 フォスター家の双子ちゃんは発明も人生も全力で楽しんでいる。


 きっとお風呂上がりに自動販売機でアタリが出てもハズレが出ても全力で楽しみ大騒ぎするだろうと思い、私はフフフッと笑ってしまったのだった。

 


 


 



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