消えた魔石

「春までは動かないんじゃないか?」


 ジーニーが来ている。湖を3人で眺めているが穏やかに歓談しているわけではなかった。


 湖の周りの木々は紅葉し、赤や黄色の木が水鏡に映し出されている。


「そうか……」


 リヴィオが形の良い顎に手をやり考えている。


「『コロンブス』の戦力を削げるからね。春になれば航海へ行く。魔物と戦い慣れたやつらがいなくなれば、こっちとしては戦力がだいぶ減って痛手だな」


 ヒラリと赤い葉が落ちてきて、水面に輪を作る。私は落ちている黄色の葉を手に取る。


「準備をしておきましょう」


『準備?』


 二人の声がハモる。


 私はポイッと湖の中へ葉を放り込む。ゆらゆら揺れている。


「私、負けず嫌いなのよ。知ってるでしょ?負け戦なんてごめんよ。相手の出方が100パターンあるなら、100パターンの勝ち方を考えたいの」


 リヴィオとジーニーもニヤッと笑った。


「オレらも負けるのは嫌いだよな」


「もちろんだ。喧嘩は勝ちに行くものだ」


 アイザックの動向を3人で読んでいた。


 答えは3人とも同じ読みだった……たぶん春までは動かない。王家、コロンブス、学園などすべてを敵に回すのはリスクが高い。何か仕掛るなら、ゼキ=バルカンのいなくなる春を狙ってくる。


「じゃ、私、トトとテテの工房に行くわね」


『なんで!?』


 二人の男達にニヤリと笑って秘密と答える。


 トトとテテの工房に石オタクのレインも来ていた。三人は金属の加工について話し合っていた。


 もはや私はその話についていけない。頼んでおいた物の確認をする。


「質のいい魔石を避けてありますよ。何に使うんですか?」


 レインは眼鏡の奥をキラーンとさせて言う。


『秘密なのだっ!』


 トトとテテが私より先に言う。魔石はキラキラと虹色に輝いている。質の良い魔石は素晴らしく美しい。スタンウェル鉱山でもなかなか見つからない。


「詳しくは興味も無いし、聞きませんけどね、石の中でもキングオブストーンなんですからねー!大切に使ってくださいよっ!」


 弱腰なレインは石のこととなると強い語調になる。


「レイン、くだらない発明に使うわけがないのだ!」


「我らを信用するのだ!」


 トトとテテを見てから、いまいち信用に欠けたのか私を見る。


「この二人で考えたものに使うわけではないんですよね?」


「え、ええ……まぁ、私も一応発案させてもらったり経過を見せてもらったりは……いつもしてるわよ?」


 学園時代の二人のハチャメチャ発明ぶりをレインは知っているだけに念を押している。


「なんでそんな信用がないのだっ!」

 

「天才発明家に失礼なのだっ!」


 レインははぁ……と嘆息し、額に手を当てた。


「二人とも覚えてないんですかっ!?暑い日に風を送るとか言って教室中のものを吹っ飛ばしたり、逆に爆発を起こしてボヤ騒ぎを起こしたり学校の運動場に大きいクレーターを作ったりしたこともありましたよね?退学にならなかったのが不思議でしたよ!」


 トトとテテは忘れたのだ!と知らん顔し、私の差し入れの籠を開ける。


「エスマブル学園、首席のあなたを信じますからね!」


 レインが私に責任を投げつけ、そう言う。プレッシャーかけてくるなぁ。


 トトとテテは魔石を手にしてニッと口の端をあげて笑う。それは自信に満ち溢れた表情。


「このままではタダの石なのだ」


「我らが命を吹き込み、活かされるのだ」


 レインがそうですけどねぇと少し怯んだ。


「レイン、お昼にするのだ!」


「セイラがいろいろ持ってきてくれたのだ!」


 テーブルの上の図面やゴチャゴチャとしたものをザザーッと適当に横へ避けて、サンドイッチやピクルス、チーズ、スープ、りんご、クラッカー、オリーブ漬け、ドーナツなどを並べた。  


「あっ!魔石の横に置かないでくださいよっ!汚れたら責任とれるんですかっ!?」


『めんどくさいやつなのだ』


 レインは我が子のように魔石をさっ!と避けて抱え、そーーーっと違う台の上へ置いた。1つ1つの石にキングちゃん、クイーンちゃんとなどと呼びかけている声は聞こえないふりをしておいた。

 

 クマさん型のからくり人形がトトトトトとお茶を運んできた。テーブルのところまでくるとクマの腕がガシャン!ガシャン!ガシャーーーン!と伸びてお茶をどうぞと渡す。


「……これは怖いかもしれない」


 私がトトとテテに言うと二人もやっぱり?動きに課題があるのだっ!とペロッと舌を出したのだった。


「奇怪な物をまた作ってますね」


 レインもお茶を貰いながら、二人の天才発明家にそう言った。


「そういえば鉱山の山の民の間で噂になってることがあるんですよね」


「どんな??」


「鉱山から産出された魔石を売り買いする時は王家の認可印がいるでしょう?」


 私もスタンウェル鉱山を保有しているため、手続きをしたことがあるのでわかる。確かに魔石の場合は必要だ。


「横流しされてるようなんですよねー。まさに『石ちゃん達の誘拐事件』なんですよ!」


『ネーミングのセンスないのだっ!!』


 トトとテテがグサッと突き刺さる言葉をレインに投げ付けた。意外とダメージ深くて倒れ込んでる。


「スタンウェル鉱山の方は大丈夫よね?」


「もちろんですよ!ちゃーーんと目を光らせてますよ!可愛い石ちゃん達が誘拐されたらどうするんですか!」


 それでも負けずに起き上がり、石ちゃん言ってるから大丈夫そうね。石への愛情が重い。力が入りすぎて手に持っていたサーモンとアボカドのサンドイッチの具がはみ出してる。


「魔石を売ってお金にするのかしら?」


 そこまではわかりませんよとレインは言う。そうよねぇと私は頷き、この件は頭の片隅に置いておくことにした。

 

 スタンウェル鉱山の石の管理は信頼できるレインとメイソンに任せていれば心配ないだろう。


 そしてレインが帰ってから、3人で秘密の話をしたのだった。

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