【読書のススメ】

 防水と汚れ防止の魔法をかける。一冊の本をトサッと積み上げる。はい……26冊目。


「ま、まだなのか!?」


 リヴィオも地味に手元の本に術をかけ続けている。


「頑張って!」


 励ましてみるが、どうやら地道な作業は嫌いな彼はすでに飽きてきているようだ。


 恋愛小説、冒険物、エッセイ、ミステリー、子供向け絵本、旅行記、雑誌に新聞などありとあらゆる読み物を集めてある。


「幸せ〜!」


 私が活字に囲まれてそう言うと、ゲンナリした様子でリヴィオが答える。


「そりゃ。よかったな。オレ、今、護衛してるというより雑用係じゃね?」


「あら?せっかく手の届く範囲に天才的な魔法の使い手が居るんだものー」


「天才って……この魔法そんな技術いらないだろーがっ!」

  

 そう文句を言いつつも、手伝ってくれている。


「エスマブル学園の先生方が宿泊しにくるんだし、楽しみじゃない?」


 せっかく来てくれるので、先生達が好きそうなイベントをしたい。


「またアイツが来るのか?」


 アイツとは??と首を傾げる私にアドルド先生だよっ!と言うリヴィオ。……根深い。


「他にもドリー先生やハリスン先生もくるわ」


「ふーーん……」


 そんなことを言いつつ準備を着々と進めたのだった。


 広い休憩室に本棚や冷たい飲み物を数種類、用意する。くつろげるように穏やかな音楽を流す。


 お風呂に入って読んだり、休憩室に来てもゆっくり本を読んだりできるようになった。


『秋の読書会』は他の客様達も興味を持ってくれて、楽しそうに本を選んでいた。


「これはなかなか良いアイデアですね」


 アドルド先生は早速お気に入りの本を探している。


 一緒にきた妖精のように小柄で痩せたドリー先生は専門の薬草学に関連した雑誌を手にしている。


 学園のいくつもある温室には彼女の薬草コレクションがあるのだが、一度温室に入るとなかなか出れないと生徒の間では有名だ。薬草のうんちくに捕まってしまうのだ。真夏に捕まった生徒はあまりの温室の暑さにやられてた。


「これにしますワ!『月刊 わたしの庭』これを読みながら薬草風呂に浸かってきますワ!」


 本を片手に、嬉しそうにお風呂の方へ行くドリー生徒。


 もう一人のハリスン先生は戦闘術の体術を教えてくれた先生で老師というあだ名で生徒に呼ばれる背の低い老人。しかし体術は素晴らしく、本気をだすと生徒に指一本たりとも体に触れさせない。


「久しぶりですねぇ。リヴィオ君は相変わらず身のこなしが軽そうだねぇ。歩き方でわかりますよぉ」


 ゆったりとした喋り方だが、ハリスン老師の動きこそ無駄がない。


「お久しぶりです。一応、鍛錬は毎日しております」


 ふむふむと満足そうに頷いて私を見る。ギクッと焦る私。


「ええっとーー」


「身に覚えがあるなら、よろしい。精進してくださいねぇ」


 はーいと私は返事をした。すいません。サボってて、すいません……そんな気持ちになる。しかし鍛錬を毎日続けるのは難しい。鍛錬しよう!と乙女心を動かせるのはダイエットの時くらいだろう。


「じゃあ、お風呂の方へ行ってきます」


 アドルド生徒と老師は二人、連れ立っていく。


「酷いわっ!置いていくなんて………あら、リヴィオ、久しぶりね」


 リヴィオが小さくゲッと言う。この先生は!


 妖艶とも言える大人の色気のある彼女はジュリエンヌ先生だ。ウェーブした長い黒髪をたらして赤い口紅をした口で微笑む。


「まさかセイラ=バシュレと結婚してしまうなんてねー」

  

 リヴィオが数歩後ずさりする。だが彼女は、まるで毒グモのように手を伸ばし、リヴィオに触れかける。


「や、やめろ!」


 さすがに私はムッとした。リヴィオに触れさせないわよとパシッと手を払い除ける。


「失礼しました。手に虫が見えたものですから……」


 私の睨みなど効かず、むしろ子ども相手だわというように、クスクスと笑いだすジュリエンヌ先生。か、からかわれている!


「あーら、可愛らしいヤキモチ?良いじゃない。少しくらい……ねぇ?」


「よくねーよ!近寄るな!」


 リヴィオの動揺もおもしろくない。


 男子生徒に人気のある彼女はリヴィオやジーニーがお気に入りだった。顔の良い男子生徒が好きだった記憶がある。


 男子生徒の点数をどう見ても贔屓目に高めにつけていた恨みが多少ある。


「ジュリエンヌ先生何してるんデスカ!?また生徒をからかわないデスヨ!」


 グイッとジュリエンヌ先生の首を掴んだのは、瓶底眼鏡、太いおさげをしたレティシア先生。歴史の先生なのだが、その読書量はすごくて………この先生が読んでいない本がここにあるかしらと一瞬不安になる。


 私に優しい目を向けて言う。


「セイラさん、よく図書室でご一緒になりマシタネ。お元気そうでよかったデスヨ」


「ありがとうございます。レティシア先生のお気に入りの本があるといいのですが……」


「大丈夫デスヨ!もう見つけました!『戦う!聖女様!』にしマシタ!」


 えっ!?と私は意表を突かれた。今、若い女性達の間で人気の小説だ。


「ウフフ。こういうのも好きなんデスヨ!」


 私の驚く姿を楽しそうに見て、行きマスヨッ!とジュリエンヌ先生を引きずって行く。


「ちょっと!痛いわよおおおお!」


 レティシア先生、怪力だなぁ。


 それにしてもエスマブル学園は先生達も生徒も変人ばっかだわ。私もその一人だけど、普通と思いたい!


 見送った後、クルッとリヴィオの方に向き直る。


「なに?今のジュリエンヌ先生とのやりとりは!?」


「はあ!?オレはズカズカと無神経に近寄る女は苦手なんだよ!」


「ふーーーーーーん」


 長ーい納得したようなしていないような返事を私はした。


 彼はそんな私に肩をすくめてみせると、本棚を眺めている。


「リヴィオも本を読んでお風呂に入るの?」


「オレはサウナしつつ読みたいな……だが、セイラは止めておけ」


「なんで??」


「夢中になりすぎるから、風呂では読むな!興味のある本は朝まで読んでいることあるだろ」


 ………バレていた。


「風呂では危険すぎる。するなら屋敷の風呂にしておくんだな。溺れてないかメイド達に見てもらっておく」


 しばらく私は考え、マズイ!と思った。


 スタッフにエスマブル学園の先生方が本にのめり込みすぎて、お風呂でのぼせないように気をつけてもらう。


 案の定、休憩してくださーい!水分とってくださーい!とスタッフが促す事態にになっていた。


 本が好きすぎる人達はお風呂やサウナでの読書にご注意あれ!!

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