淑女たちのお茶会
「本日はお茶会に『海鳴亭』をご利用して頂きありがとうございます。ようこそお越しくださいました」
優雅さを保ちつつお辞儀する。ステラ王女がお茶会の会場に『海鳴亭』を使ってみたいと言ってくれたのだ。
ステラ王女の気に入りの淑女達がお茶会に招待され、室内、テラス席でお茶やお菓子を片手に持ち、楽しげに会話をしている。
「もうっ!堅苦しい挨拶は良いから、セイラも少し時間がとれるのでしょう?一緒にお茶を飲みましょう」
ステラ王女が呼ぶ。私も招待をされていたので、はい……と頷く。
「心遣いありがとうございます」
マリアも来ていて、いいからいらして!と呼ばれた。
すでに二人はリラックスしているようで、テーブルにはサンドイッチ、マフィン、スコーンなどをお茶と一緒に並べてある。
「窓の外は海っていうのが素敵だわ!お祖父様とお祖母様も眺めが最高だったよとおっしゃってて、わたくしも来たかったのよ!」
王女の祖父母というのはコパン夫妻だ。女王陛下はいまだに忙しくて、先にステラ王女がいってきますわ!と言うと、イライラしていたという子どもっぽい所をみせていたらしい。
私にも給仕係がお茶とブルーベリーのマフィン、クラッカーにジャムを添えて持ってきてくれた。
そういえばとマリアが話を変えた。淑女達の会話は興味があちらこちらにあり、コロコロと変わっていく。
「ステラ様はレオン兄様と進展はありまして?」
ステラ王女が次は動揺する番だった。
給仕係がおかわりの温かいお茶を持ってきてくれた。一口飲み、平静を装う王女だが、すまし顔が赤い。
「レオンが勉強を始めてくれましたの。わたくしの補佐をするためにと……母にも挨拶を正式にすることになりましたわ」
挨拶=婚約ということであろう。私は思わず笑顔になった。
「殿下の一途な思いに……とうとう!!」
レオンはカムパネルラ公爵家の次男で家柄的にはまったく問題はないし、レオンの能力的にも申し分ない。歳の差だけが心配であったが、ステラ王女の諦めない気持ちがすごすぎる!
やや頬を赤らめて、とても嬉しそうな彼女は照れ隠しのようにレモンケーキ食べたいわ!といきなり立ち上がって席を外す。
レオンの妹であるマリアは苦笑し、私にヒソヒソ小声で、耳打ちした。
「レオンお兄様は3人の中で一番優しそうに見えて狡猾ですわよ。王家に入るにはピッタリの人選ですわ」
マリアは辛辣に末の妹として兄たちを評価する。
「アーサーお兄様は頭が堅すぎですし、リヴィオお兄様は知っての通り、扱いにくいですし……あっ!最近はまーるくなりましたけど」
「私に気をつかわなくてもいいわよ」
そのとおりだと私も笑った。
笑いさざめく淑女達のお茶会は大きな窓の外に広がる青色の夏の海の景色を背景にし、色鮮やかなカラフルなドレスはまるでヒラヒラとした熱帯魚が泳いでいるように見えて綺麗だった。
「最近、王城にナシュレ伯爵がいらしてるけど何かあったのかしら?」
一瞬ボンヤリと景色を眺めていた私に、ステラ王女が話を切り出す。リヴィオが出入りしていることに気づいていたようだ。
「なんでしょうか?今は仕事が別なので私は存じません」
魔物の件であると思うが、陛下が王女に話していないことを私が言うべきではないと判断する。
「もうっ……いつまでも、わたくしは頼りない子供扱いですわね!お母様もセイラも!」
ステラ王女はあまり良い話ではないと気づいている。頬を膨らせた。
マリアは公爵家に生まれ、宰相の父を持つ。話せないこともあると知っているのだろう。困る私に助け舟を出すように言う。
「ゼイン殿下は最近どうしておられますの?街の娘さんとはその後どうなりまして?」
恋の話は女子は大好きである。ステラ王女の目がキラリと輝いた。
「頑張ってますわよ〜っ!何かと用事をみつけて街へ行き、彼女の周りをうろついてますわ」
「それは進展があるのか……ないのか……」
そんなに以前と変わらない気がした。
マリアがクッキーをつまむ。サクサクと食べていく。
「でも先日、その街の娘が王宮に来たって話もあったのではありませんの?アーサーお兄様が苦い顔で話していましたわ」
「すぐに帰ったらしく、わたくしは見てませんわ」
何があったのだろう?二人の恋の行方が気になったが、王家的にはやはり平民の娘はあまり歓迎していないことを空気で察する。
私は香りのいい新茶を飲む。香りに癒やされる。
「冷たいフルーツゼリーはいかがですか?」
透明なゼリーの中にカットされたフルーツが散りばめられていて涼しげだ。私は三人分のゼリーを持っていく。
「美味しくてキレイですわ!」
「夏にピッタリ!」
「かわいい!!」
周囲の女の子達も気に入ったようで、手にとってみている。
ツルリとした喉越しと酸味の少しあるフルーツが夏の暑い時期に食べやすい。私達、3人もあっという間に食べた。
『海鳴亭』でのお茶会の開催は定期的に色々な貴族の方々に頼まれることとなり、ステラ王女には感謝だった。
しかしその日の夕飯時………。
「え!?水しかいらないのか!?どこか具合悪いのか!?」
私の前には水のみしか置かれていないことにリヴィオが驚き、心配する。
「胸焼けがするのよ。お菓子を食べすぎちゃったわ」
「なにしてんだ……そういえば今日はマリアと王女とお茶会だったな」
美味しすぎた!なにもかも。『海鳴亭』の料理人達のスイーツの腕前に感服だわ。誘惑には勝てなかった。
「魔物の調査の方はどう?」
「進んでいない。相手は意外と潜むのが上手いようだ」
リヴィオが苦々しくそう言った。国内に得体の知れない何かが入り込んでいるのは気分が良いものではない。
「まぁ、こっちはオレらに任せておけ。魔物も逃げ出さないようにサーカス団を見張っているらしいからな」
首を突っ込むなということかな……。私もマリアやステラ王女とあまり変わらない。なんだか疎外感だわと寂しく感じたのだった。
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