海辺の結婚式
海辺の旅館が完成した。まだオープン前であるが、今日はお客様で賑わっている。
なぜならば、とうとうこの日が来たのだ……。
「お綺麗ですわ!」
メリルが髪の毛のセットの仕上げをし、満足気に言う。
朝からの準備で、私はやや疲れている。ふぅと小さく嘆息したことに気づかれる。
「そんな顔をしませんのよ!淑女は常に優雅に堂々と!……ウフフフ!とてもとてもいい感じですわ。このレースの模様、ティアラの飾り!ヴェールも予想していたとおりですわ!」
結婚式の準備を手伝ってくれていたマリアが楽しげに笑い、私が映る鏡を覗き込んで言う。
白いドレスに身を包み、きちんとお化粧を施された鏡の中の私は別人のようでもある。そのせいで普段と違うと意識させられて、緊張してきた。
「準備できたかー」
リヴィオが扉を開く。
「リヴィオ?できたわよ」
クルリと振り返って私はわあ!と感嘆の声をあげた。
王子様やん!!リアル白馬の王子様やーーーん!!
思わず心のなかで関西弁になって叫ぶくらい素敵だった!
白い詰め襟の服には金の刺繍が施されており、軽い赤いマントを羽織り、胸には勲章をつけている。腰には飾り用の細い剣。端正で綺麗な顔立ちがさらに引き立っている。
ここまで王子スキルあるとは思わなかったと見惚れ、褒めてしまう。
「リヴィオ、綺麗だわ!似合ってるわ!」
リヴィオがえっ!と意表を突かれたらしく驚き、焦る。
「いや、まて、おかしいだろ!?それは花嫁を褒める、オレのセリフだろ!?セイラのほうが綺麗だ。見慣れないからびっくりしたけどな……」
「ウフフッ。前はそんな誉め言葉出なかったのに、大人になって、成長しちゃってー!」
前にオリビアに怒られていたじゃない?と笑ってしまう。リヴィオは半眼になる。
「中身はセイラ、まったく変わんねーな。そこはありがとうと優雅に言うとこだろ!?」
私は肩をすくめた。
こんな日だけど、お互い好き勝手に言い合うノリのほうが私達らしいわよね。
「でも考えたよなぁ。海辺の旅館、結婚式、伯爵の爵位授与の祝い……一度にしてしまうとか」
「良い宣伝になるでしょ!?この海辺の旅館は規模を大きくして作ったから、パーティーもできるし、結婚式もできるっていうコンセプトよ!」
なるほどなぁとリヴィオが感心している。その横で彼の妹のマリアが呆れたように言う。
「人生の一大イベントを商売の宣伝にしようなんて……なかなか思わないですわ」
私は商売の天才ねと小狡い自分を褒め、ニヤリと笑う。
マリアが褒めてませんわと額に手を当てて、呆れる。
あ……そうなのね……。
会場に向かうぞとリヴィオが腕を出す。私はその腕に手をかける。季節の花に海をイメージした青色の花を混ぜたブーケを持つ。
広い玄関ホールは吹き抜けになっており、晴天の空と海が大きな窓から見える。
私達が楽団の音楽と共に、その階段を降りていくとお客様達がわぁ!と声をあげた。
トトとテテがお揃いのドレスを着て階段に花を撒いてくれる。
……二人はからくり人形にさせようとしていた。面白そうだけど、止めた。
フォスター家の双子ちゃんだけあって、二人ともにこやかに色鮮やかな花を巻く姿は可愛い。
「いつもこうならいいんだが……」
『リヴィオ、聞こえているのだ』
リヴィオのつぶやきにボソッと言い返し、反応する二人。
「とうとう、この日が来てしまったか。寂しい気もするけど、なによりもセイラが幸せになることが嬉しく思うよ。おめでとう」
「ありがとうジーニー!」
ジーニーが少し憂鬱そうにそう言うが……確かに小さい頃から、仲のいいリヴィオが結婚してしまうのはどことなく寂しいよねと理解できる。
「大丈夫よ。屋敷に来て、リヴィオと遊んでいって!」
「おい?やっぱり勘違いしてねーか?」
「誤解してるよな?」
リヴィオとジーニーが口々にそう言う。
「おめでとう。ナシュレ伯爵」
「おめでとうございます。お二人共、素敵ですわ」
ゼイン殿下とステラ王女が女王陛下の名代でやってきた。後ろにはふたりを守る騎士団長、イーノ、ジーナ、フリッツが控えており、一緒に頭を下げる。
「二人ともおめでとう」
ハリーがカンパネルラ家の先頭に歩いて来て言うと、次にアーサーが口を開き、愉快そうに言う。
「おめでとう……問題児のリヴィオもこれで気楽に生きれないな伯爵様!」
「成り行き上、仕方ない。ま、アーサーも頑張れよ」
「お、おまえに言われたくないなっ!」
リヴィオが上から目線で兄に淡々と言い返すとムキになるアーサー。
レオンがその様子を見て、また二人共やってると隣で笑っているものの、ステラ王女が女王陛下になればレオンもそう楽な人生を送れない。
カムパネルラ公爵家の兄弟達は優秀すぎるのか巻き込まれ体質なのか……?
オリビアとシャーロット、マリアもおめでとうと言って、席へ帰っていく。
オリビアは私の完成した姿にとても綺麗で満足だわ!と言葉を残していく。私はお辞儀を深々とし、感謝を示す。本当の母のように親身になって一緒に準備してくれたこと……とてもとても嬉しかった。
カンパネルラ家の面々がいなくなると、次々と他のお客様達もお祝いを言いにきてくれた。執事のクロウやトーマスなど屋敷の者やナシュレの人達、スタンウェル鉱山の人達や旅館のスタッフ達、ベント、バーグマーさん、エスマブル学園の先生たちなど。
えーと……なんだか石オタク、元怪盗、諜報員の姿も見えるのは目の錯覚ではなさそうだ。
歌姫のエナも忙しい中、来てくれた。悔しいけどセイラなら良いわと言い、ホールに設置された舞台に立ち、楽団と共に歌を披露してパーティーに華やかさを添えてくれた。
料理はコースになっているが、デザートは好きなようにいつでも食べれるバイキング形式だ。
トトとテテがどーんとケーキやフルーツ、クッキー、アイスクリームをお皿に盛っているのが見える。楽しそうである。私も主催側でなければ一緒に楽しみたいのにと羨望の眼差しを向ける。
グルリと見回すとみんながそれぞれ楽しそうに会話をしている。
たくさんの人達がお祝いをしてくれて、私は……一人だった頃の寂しさが嘘のように感じた。皆に囲まれて幸せで、思わず涙が溢れる。
「なんで泣いてるんだ?」
リヴィオがいきなりのことに驚いて、そっと手で、私の涙を拭う。
「嬉しいのよ。……私は幸せだなぁと思ったの」
私の一言でリヴィオはちょっと得意気に微笑んだ。
「オレと結婚して良かっただろ?あの時……言ったよな。自分で自分の居場所を簡単に捨てるなと。今日、セイラに改めて、誓う。セイラに降りかかる災厄も困難も薙ぎ払い、どこにいても助けに行く。暗闇が怖いならずっと一緒にいる」
私は臆病で、ナシュレもリヴィオも捨てて逃げようと思ったとき……彼が言った言葉だ。懐かしく感じたが覚えている。
コクンと私は頷き、スッと一度、私は目を閉じ、そしてゆっくり開いて言う。
「リヴィオ、情けないところをみせてもいいのよ?そんなのところも私は大切にしたいって思ってるわ」
少し驚いたような顔したが、金色の目を柔らかくさせ、微笑むリヴィオ。
「……ああ。でも、今はカッコつけさせろよな」
フフッと笑った私は幸せな気持ちだった。今日のことはずっと忘れないと思う。
「待っててくれてありがとう」
私の気持ちが追いつくまで、私の心が大人になるまで………ずっと待っててくれてありがとう。
「こっちこそ、傍にいさせてくれて、ありがとな」
海の音が時々、皆の楽しい声の合間に聞こえ、白い鳥が何羽も青い空へ飛び立っていった。潮風がヴェールを揺らしていく。
私達はまだ大きなものを越えていく必要があることを今の私とリヴィオは知る由もない。
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