【酒は飲んでも飲まれるな】

 新年を迎えるパーティは山盛りのご馳走と共に、朝から始まる。


「今年も最後の日ね。大晦日に掃除じゃなくて、パーティとか、なんか後ろめたいわね」


「オオミソカってなんだ?」


 あたしの呟きにリヴィオが問い返す。


「私の前世の世界、日本で言う、今年最後の日ってことね。鐘を鳴らしたり、年越し蕎麦っていう麺を食べたりするのよ」


「なんだ?その……鐘をってにぎやかだなー」


 ………私の中ではゴーンと渋い音だが、リヴィオの中ではリンゴーンと変換されてるに違いない。説明が難しいのでソッとしておくことにした!


 なにせ目の前には私の好物ばかりコック長が腕によりをかけて作ってくれていて、とても幸せな気分でパーティを早く始めたい。


「はやくパーティ始めるのだ!」


「音楽もかけるのだ!」


 トトとテテがワクワクしている。明るい曲調のバックミュージックを流してくれる。


「大神官長様の国でもこんな感じですか?」


 今年は客人もいる。ジーニーが尋ねるとそうです!同じですねー。食べて飲んで騒いでますとニコニコしている。


「あ!クロウ、残ってる使用人たち、みんなにも今日はくつろぐように言ってね。あなたもよ?私達は自分でどうにかできるし、気を遣わないでね」


「ありがとうごさいます。十分すぎる心遣いに使用人一同、感謝し楽しませてもらってます」


 一礼するクロウ。特別年末手当を出して、パーティの費用も経費で落とすようにしている。年末年始はお祭り気分をみんなで味わいたい!


「じゃー、そろそろ乾杯しよーぜー!セイラ、頼むぞ!」


 コホンとあたしはみんながそれぞれグラスを手にしたのを見てから言う。


「今年もみんなのおかげで楽しくすごせました!来年もよろしくお願いしますっ!カンパーイっ!!」


『カンパーイッ!!』


 カチンとグラスの音が鳴る。

 パパン!パーン!とトトとテテがクラッカーを何個も鳴らし『イエーイ!!』と盛り上がっていた。


 カスタードクリーム入りサクサクアップルパイを私は早速食べる。


「デザートからかよ!?」


 リヴィオはローストビーフにソースをつけて、片手に赤いワインを持っている。


「コック長のアップルパイ、凄く美味しいんだものー」


 トトとテテが固いこと言わないのだ!と笑ってチョコレートの包み紙をとっている。

 ジーニーは音楽を少し穏やかなものにかえてきてから、ナシュレ産のビールを持ち、飲んでいる。


「これも美味しいです!ここのコック長の腕は確かにいいですよ!」


 大神官長様もプリプリのチキンにチーズとオリーブ漬けをそえて、モクモクと食べているが、どことなく眠そうだ。冬になり、こたつの中で冬眠しているクマのようになっているからだと思う……。


「今年も終わりとか……早いわねぇ」


 私もお酒を飲みだす。普通の貴族ならもっと客人を呼び、ダンスや楽団やもっと賑やかだ。私はこのまったりとした雰囲気が好きだ。


 トトとテテもジーニーもリヴィオは家で過ごすのかと思ったが、何年か前からか、何故かここで、自然に集まって、年を越している。


 いつまでこのメンバーで、年を越せるのかわからないが、皆でこうして居られることに幸せを感じる。私はほろ酔い気分でお酒を飲んでいく。


 新年が明けるまではお客さんが少ないので、3日間、旅館は閉めることにした。スタッフたちも帰りたい人は帰郷している。


 しかし帰らない人のために大浴場でのお風呂を楽しめるように、開けてある。 


「私はお風呂にいってきますねー!フフッ。まずは一回目です!夕方にもう一回行く予定です」


 大浴場が開いてることを知ってる大神官長様はお腹がいっぱいになると嬉しそうに言って、タオルを首に巻いて行く。


 リヴィオもしばらくすると、サウナ行くぞーとジーニーを誘って行ってしまう。


「もどってきてから、また飲むからな!」


「ちゃんと残しておくわよー!こんなに飲めないわよ!」


 お高めのワインを片手に私はそう言った。希少なものであるらしく、美味しい。マッシュポテトを口に運びつつ飲む。


「そういえば、こないだ王都に家電のお店を見に行った時に、ゼイン殿下がいたのだ」


「家電を見ていたのだ」


「何していたのかしら?」


 私が首を傾げると、トトが可笑しそうに言う。


「話しかけたのだ」


「プレゼントにジューサーミキサーをあげるらしいのだ」


 なるほどー!それは良いかもしれない。しかし冬なので、フルーツはちょっと少なめだけどね。貴族や王族ならフルーツは手に入るけど冬のフルーツは高価なんじゃないかな……ま、まぁ、気持ちよ。そして悪くなるものでもないし!


 ナッツをテテは口に入れて、まるで水のようにお酒を飲んでいる。


「相変わらず、豪快な飲みっぷりね」


 このフォスター家の双子は実はザルである。お酒をどれだけ飲んでも涼しい顔をしていて、酔った姿を見たことない!


「そのお酒、度数高くない?」


「ん??美味しいのだ!」


「セイラも飲んでみるのだ!」


 少しだけともらったお酒は確かに美味しかった。高い度数のお酒特有の鼻に抜けるような香りはしたものの、苦手ではない。


「確かに美味しいわ!」


 トトとテテがドヤッとした顔で今日のためにお取り寄せしたのだ!と言う。


「気に入ってくれてよかったのだ!」

  

 また注いでくれる……ありがとうと頂く。


 しばらくしてジーニーとリヴィオが帰ってきた。サウナはやっぱりいいなー!とホカホカした顔だ。


「しかも風呂の後の酒は………ん?セイラどうした?」 


 リヴィオが私の顔を見た。


「いつもと同じでしょー?」


 ゴロンとリヴィオの膝に寝転がる。


「え!?」


「でもー……ちょっと眠くて……」


 リヴィオが何故か固まる。トトとテテが申し訳無さそうに話す。


「ちょっと飲ませすぎたみたいなのだ」


「性格が少しだけ変わってるような気がするのだ」


 ジーニーが少しか!?と慌てた声をあげる。リヴィオにくっついて私はぎゅ~とし、眠くてソファに横になったままだ。体を離して起こそうとするリヴィオをキッと睨む。


「今、最高にいい気分なのに邪魔しないで!」


「お、おいっ!?」


 リヴィオの焦っている声を無視して、私はフフッと笑って顔を近づける。


「ま、待てーっ!?」


 ガシッと自分の顔に近づいてきた、私の顔を掴む。


「誰か水をくれ!あと、冷やしたタオルだ!」


 ジーニーが楽しそうに爆笑している。


「アハハっ!なんなら、代わろうか?」


「代わるわけないだろ。ふざけるな!」


 狼狽しているリヴィオは最近では珍しい。なんでこんなに??私はウフフッと楽しくなって笑いながら言う。


「リヴィオー……可愛いわねー」


 ヨシヨシと頭を撫でてあげる。私にもしてほしいというと、濡れたタオルをペチャッと顔に当てられた。ソファに転がされ、寝かされてしまう。


「寝ろ!とりあえず寝て、酒を抜け!」


「ええ〜?じゃあ、チューは?」


「なな、何言ってるんだ!?こいつらの前でするわけねーだろ!?おい!?大丈夫か!?」


「じゃあ、ギューでもいい」


 リヴィオの服を掴み、スリスリする私の頭を撫でて寝させようと試みている。


「ど、とうしたらいい!?眠りの魔法使ったほうが良いかもな!?」

 

「おまえ……どれだけ酔っ払いに動揺してる?落ち着け。見てる方は面白すぎる」


 ジーニーが冷静に言う。


「セイラが甘えキャラに豹変するなんて知らなかったのだ」


「リヴィオ……ごめんなのだ」


 魔法を使うまでもなく、私は眠りに落ちていったのだった。


 パッ!と起き上がった頃にはもう夕方で、トトとテテはお風呂に行き、ジーニーももう一回、サウナへ行ったらしい。……と微妙な顔をしているリヴィオが言う。


「あれっ?私、なんで寝ちゃったのかしら?」


「はあ!?覚えてないのかよ!?」


「………トトとテテとお酒飲んでいたのよね?」


 無言のリヴィオ。シーーーンと静かになる。


 え!?なんかしでかした!?


 いや、でも今までお酒飲んでも、大丈夫だったし、それはないわよね。


「さーて、飲み直しますかー!」


 その私の一言にガタッと椅子からリヴィオは立ち上がり、慌てる。


「ケロッとして言ってんじゃねーよ!もう今日はやめておけ!」


「えっ……?」


 水とリンゴジュースのグラスを渡された。……やはりなにかあったのだろうか?


 ハーーーーと長いため息を吐いたリヴィオ。


 ガヤガヤと廊下からトトとテテとジーニーが帰ってきて、扉が開く。


「あー!セイラおはよーなのだー!」


「一緒に飲みなおすのだー!」


「この双子っ!反省しろよ!誘うなよっ!!」


 リヴィオの声にジーニーが爆笑。な、なんか楽しそうね?私はわけかわからないまま、冷たいジュースを飲んだのだった。


 たまには、あんなセイラもいいだろとジーニーにからかわれ、リヴィオはしばらく考え……コクンと頷いた。


「あんなセイラ??ど、どういうことなの!?ちょっと、教えてほしいんだけど!?なんで教えてくれないのよ!?」


 焦る私。


『なんでもない』


 二人の声がハモった。とりあえずお酒は当分控えようと思った……。


 酒を飲むなら、今後、オレがいる時だけにしてくれ!とリヴィオからかなり真剣に言われてしまった。間違いなく何かを私はしてしまったらしい。怖くて聞けずじまいとなった。

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