【薄切りポテトと秋の夜】

 ジュワッと油が音をたてた。薄切りのじゃがいもがあっという間に揚がって行く。手早くすくい上げて油からあげていった。


「何作ってるんだ?」


 ヒョコッとリヴィオが屋敷の調理場に顔を出した。コック長と私はニヤリとして手招きした。素直にくるリヴィオ。


「なんだなんだ??」


 私は食べてみてとリヴィオの口にパリッとなった薄切りじゃがいもをヒョイッと入れる。


「……っ!?」


 パリパリと食べるリヴィオ。私とコック長は反応を見守る。


「これは!?フライドポテトじゃない!?塩加減が良い!なんか癖になるぞ!!」


 もう一枚と食べていく。ハマったらしい。


「ポテトチップスよ!」


「新しいお菓子だそうです。面白いですよね。じゃがいもをこんな薄切りにするなんて、考えられないことですよ!」

 

 コック長もハマったらしく、そういうとパリパリ食べている。


 私は食べる速度に負けないように、次々と揚げていく。


「どーしても食べたくなっちゃって……」


 ふと、思い出してしまったのだ。秋の夜長の読書中に食べたいと……一度ポテトチップスのスイッチが入ってしまうとだめだった。袋入りのが簡単に買える世界ではないため、地味にスライサーで削って揚げている。


 これ販売できるんじゃない?できないかな?定期的に食べたい私はぼんやりそんなことを考える。


「あれ?大神官長様は?」


「今日はジーニーと魔法についての話を二人でしてるぞ。だから任せた。……あんまり監視はいらねー気がするけどな。あれだけ強ければ護衛もいらねーしな。父さんに報告しておいたが、どうしても監視を続けたいなら誰か他のやつ送れ!と言っておいた」


 確かに必要としない気がする。早寝遅起き、図書館、銭湯、ゴロゴロ寝ている、散歩という生活スタイルができあがっている。たまにトーマスやクロウとお茶をしているのも見たことあるが、ほぼおじいちゃん的な暮らしを楽しんでいる。見た目若いけど……何歳なのかしら。


 宰相である彼の父、カムパネルラ公爵が後はどう判断するかね。


「無害な感じはするわね。これどうかしら?」


 リヴィオの口にもう一種類入れてあげる。


「ん??」

 

 パリパリと食べてニコッとした。こっちも美味しかったようだ。


「さつまいもか!!甘みがあるな」


「そうそう。こっちも美味しいわよ」


 ついでに、さつまいもチップスもしてみた。


「これも前世のあっちの世界の食べ物か?」


「そうそう」


「すげーなー。なんか色んなものがあるんだな」


「物は溢れていたし、1つのお店に入れば、大体の物が揃うわね」


 へーとリヴィオが興味があるのかないのか、適当な相槌を打っている。コンビニあれば便利なんだけどなー。でも経営は大変だから手を出さないことにしている。24時間営業は大変よね。


「あれ?コック長は?」


 私がクルッと振り返るといなかった。いつからいない??


「そーいや、どこいった?」


 ……ドアのところでメイド達とのぞいている。何してんだろ?


「コック長??」


 コホンと咳払いし、ドアを開いた。


「いえ、お二人の邪魔をしてはいけないと思いまして……」


『いやいやいや!?』


 そんな雰囲気じゃなかったわよ!?リヴィオと私は手をふる。


 しかし彼は悪戯好きな幼い頃と同じ顔をして笑っていう。


「セイラ、もう一回食べさせてくれてもいいんだぞ?」

 

「なっ!?なに言ってるのよ!?自分で食べなさいよっ!コック長もドアを閉めないで!」


 もうっ!と言いつつ、ポテトチップスを大皿にのせていく。


 ……実のところ、私的には甘い雰囲気ではなく、ポテトチップスにハマってる彼を見ると『黒猫』にチュー○をあげてる気分になったのは許してほしい。口には出さずにおく。


「でも久しぶりだろ。二人でこんな時間をとれるのは……」


 確かに、リヴィオと私は最近、忙しくて食事もすれ違いだった。


「同じ屋敷にいても、会わない日もあったわね」 


 コック長が自家製シロップの炭酸割り梅ジュースを持ってきてくれる。

 あっさりとした飲み物が欲しかったところだった。コック長さすがである。

 

「お二人共、働きすぎなんですよー」


 体に気をつけてくださいよとコック長が言う。


「オレは仕事を分けてる段階だな。そろそろ落ち着くさ」


 リヴィオはさすが宰相の息子であると言える手腕を発揮していた。領地経営の才能がある。仕事の分類化を行い、役所のような機関を作っていた。各種手続きもしやすくなり、領地の様子もわかりやすくなった。他の領地を治める人達の見本となるだろう。


 スゴイわと感心する私に肩をすくめて彼は言った。


「自分が楽するためにする仕事は全力でする」


「その原点がリヴィオらしいわね……」


 そう言ったけど、ポテトチップスをどうしても食べたくて商品化を目論む私もあまり変わらないかもしれない。


 ポテトチップスを一袋抱えて、仕事へ戻っていくリヴィオ。私も旅館の休憩室用に袋に詰める。屋敷の使用人たち用にも食べてみてと置いていく。後はトトとテテ用にも。


 ポテトチップスは思ってる以上にかなり好評だった。食べた人を虜にしている。


 休憩室に置いておくとあっという間に消えた。もうないですよー!と後から出勤したスタッフ達が残念がっていた。

 トトとテテもまた食べたいのだ!とわざわざ言いにきたほどであった。


 これは商品化かしら?毎回、薄切りして私が作るのは手間である。しかし、包装って難しいわよね?ポテトチップス専門店とか??


 そんなことを考えながら、旅館の仕事を終えて、月夜の道を歩いていく。


 夜露に濡れた草むらからリーリーチロチロと虫の音がする。


 時々、まったく違う世界の日本がこんな夜、ふと懐かしくなる。


「遅かったな」


 その声にハッと顔を上げた。迎えに来てくれたらしいリヴィオが立っていた。月の色に似た金色の目でこちらを見据えていた。


「迎えにきてくれたの?」


「ちょっと散歩していただけだ」


 フフッと私が笑うと手を差し出す。その手を取り、一緒に手を繫ぎ、歩く。


「リヴィオと私、思ったより長い付き合いよね」


「これからも続くだろ」


 そうね……と言いつつ、リヴィオに次の世も前の世も私は会いたい。会えると良いな。そんな想いは欲張りだろうか。


 月の光に照らされる白い夜道を二人で歩きながらそう思ったのだった。虫の音が耳に残った。

 

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