【真夏のお嬢さん】

 パラソルの下で私は皆の楽しそうな様子を眺めている。手には氷を入れた果実ジュース。優雅に見えるが退屈だ。


 つい先程かわした会話はこうだった……。


「セイラの恰好可笑しすぎるのだー!」


「ミイラ?なのだ!」


 トトとテテは私の姿に笑って、身軽な水着姿で浮き輪を抱えて走ってザブザブと海の中へ入っていく。


 幅広の帽子、アームカバー、サングラス、肌を露出させないドレス。この人誰!?怪しすぎる!という状態である。


「セイラ、本当にそこで待っているのか?いいのか?」


 ジーニーもしっかり水着を持ってきていて、海パン姿、ティシャツ姿で立って確認するように尋ねる。私はコクリと頷く。


 リヴィオだけは苦笑した。


「母さんとマリアに言い含められてしまったらしーぞ。結婚式の白いドレスに日焼けは厳禁だってな。まだまだ先だから大丈夫だろって言ったんだが……」


「なかなか日焼けはとれないって言われて、海水浴は危険すぎるみたい」


 私は日本に売っていた日焼け止めクリームがあれば!と思ったが、真夏の強い日差しには負けてしまうかなと嘆息した。どちらにしろ手に入らないけど。


 ジーニーまでそんな理由かと笑って、海へ行ってしまう。リヴィオは我慢しすぎんな。オレは気にしないぞ!と優しいことを言ってくれるが、お客さん達にとって日焼けした花嫁はアウトだろうなとさすがの私も察する。


 ザザーンと波が寄せる音に混じって、トトとテテのキャッキャというはしゃぐ声がする。


 時間がしばらくたつと、海水浴場には他のお客さんもやってきて、賑わい出し、人が増えてきた。


「おい!ジーニー!あそこの小島まで競泳しようぜ!」


「いいだろう。久しぶりに勝負するか!!」


 二人が燃えている。ギラギラした太陽の下で皆、元気だなぁ。


 暇な私は日傘をさして海の家を見て回る。


 網の上でジュージュー焼ける海鮮類ととうもろこし。これは美味しそう!でも砂糖醤油つけるともっと美味しくなるかも。

 あっちはサンドイッチやソーセージ、ポテトなどが売ってる。お昼用だろうか?買っている親子連れが見える。


 貝殻のアクセサリーや写真立て、オルゴールなどが売られてる店もある。貝殻のスプーンを手にとって見る。

 

 暑いなーと思い、もう一杯、果実ジュースの炭酸割りを買った。一口飲むとシュワシュワと口の中で弾けて涼しくなった気がした。


 お嬢様にあるまじき!と言われそうだけど、この恰好では誰だがわからないだろう。

 

 ふと、この暑さでアイスクリーム店……サニーサンデー三号店、出店したら売れるんじゃないの!?と思いつく。


 私の商人魂がメラッとした。うん。いいかも!

 海辺の旅館はプライベートビーチでリゾート風にする予定だけど……夏限定サニーサンデー出張店!とかどうかしら?


 ブラブラ歩きの効果は商売の方に効果が出たらしい。


 もともと、ただ海水浴に来たわけではなかったのだ。海辺の旅館のビーチをどのようにするかリサーチしに来たのだ。本来の目的を覚えているのは私しかいないけど……。


 しばらく考えていたが、戻っていく。遠くで競泳しているジーニーとリヴィオ。いい勝負しているなぁ。抜きつ抜かれつしているのが見える。


 トトとテテは砂浜で職人並の精巧なお城を作り、人を集めていた。


「お母さん、見てみて!お城、本物みたい」


「ほんと!すごいわねぇ〜」


「あんたら芸術家さんかね?」


『発明王なのだ!』


 トトとテテは集まってきた人々に手に腰を当て、堂々と言い放った。


 そろそろお昼かな?と思い、テーブルにお弁当をセットして待つことにする。


 青い澄み切った海からジーニーとリヴィオがあがってきて、どっちが勝ったか話しながら歩いている。

 ……と、思ったら砂浜の途中で女性達に話しかけられた。


 あ、なんか、このパターンはデジャヴだ。どっかでみた。


「どこから来たんですか!?」


「わたしたち、かっこいい人達だなぁって見てたんですよ」


「よかったら一緒に遊びませんか?」


 ……ナンパされてるやん。


 可愛い女の子たち3人に声をかけられているリヴィオとジーニー。私は次のセリフも予測できた。学園ではよくある光景であった。懐かしさすらある。


「悪いけど、急いでるから。またね」


 にっこりとジーニーは笑ってかわす。リヴィオは………そっぽを向いて無言。

 か、変わらないわねっ!半分呆れてしまう。そう。大抵はジーニーが好青年を装ってお断りするのだ。リヴィオはめんどくささ全開で対応を拒否。ジーニーのいないときなんて、まるで何事も起きていないとその場の人を認識せず無視していくのだ。


 これはこれでバランスのとれた二人なのだと学園のときと変わらず私も傍観者なのだった。


「お昼ー!お昼なのだー!」


「ん?なにしてるのだ?はやく二人共いくのだっ!」

 

 トトとテテが立ち止まっていた二人に声をかけると、女性達がかわいー!妹さん!?と言う。


「はあ!?この二人の妹なんてまっぴらごめんなのだっ!」


「失礼すぎるのだ!」

 

 リヴィオがその反応に納得行かなかったらしい。


「待て!聞き捨てならないぞ。それはこっちのセリフだろっ!オレだって嫌だ!」


 まだ続きそうだったが、ジーニーがこちらを見て、そろそろこのへんにしたいと私に視線を送ってきた。


 仕方ないとサングラスをチャッととる。大きい声で呼ぶ。


「そろそろお昼ご飯にしましょーー!」


 トトとテテはハッとし、ワンコのようにハーイと砂を蹴って駆けてくる。ジーニーとリヴィオも女性と離れて歩いてくる。


 何?あの女?的な空気の痛い視線が女性達から送られる……たいした美人でもないのに、なんなの?という声が聞こえる。

 まったく……学園でも海でもこんなことになるのねと一滴の汗が流れた。


 お昼ご飯をクーラーボックスから取り出す。サンドイッチ、冷たいフルーツゼリー、ゆで卵、ソーセージにちょっとすっぱいピクルス。水筒にはお茶。作成はもちろん!私ではなく……コック長です。


「これ、あそこの小島でみつけた。お土産だ」


 リヴィオが手を出せと何かをくれる。

 きれいなピンク色の貝殻だった。


「ありがとう。綺麗ねー!」


 太陽に透かすとキラキラと光る貝殻。ジーニーがいつの間に……と苦笑した。


 夕方、海辺の旅館にひかれた温泉に入る。内装などはまだだが、お風呂は入れるようになっている。天井は高めにしてあり、ガラス窓も大きく広々とした浴槽。窓からは海に陽が沈む景色が見える。


「ちょっと塩辛いのだ!」


「海のお風呂みたいなのだ」


 トトとテテが温泉に入りつつ、そう言う。二人は肌が少し赤いが、思ったより日焼けはしてないようだ。


「塩の温泉よ。体が暖まるし、殺菌効果もあるわよ」


 へー!と二人は確かにいつもよりポカポカするかも!と言う。

 チャポンと三人で顔を並べて入る。


「今日はお風呂で泳がないの?」


 トトとテテがクスッと笑う。十分泳いだのだっ!と。


「海の温泉も最高だな!景色がすげーいい!海を見ながら入る風呂とか初めてだった」


 リヴィオがキラキラ目を輝かせ、子どものように興奮して言う。ジーニーも柔らかい表情をしており、ウンウンと頷く。


「他の温泉と比べて、風呂から上がっても体の熱が冷めにくい気がするな」


「そうね…ナシュレ、スタンウェル鉱山、海の温泉はそれぞれに違った源泉だから、効能も様々で楽しめるわよね」


 面白いなー!また入りに来よう!と海の温泉も好評であった。旅館の建築規模が大きいので他の旅館よりも時間がかかっているものの、完成が楽しみだ。


「泳いだ疲れもとれたし……帰って、ビアガーデンだぞーーっ!」


「いつの間に!?なに!?約束してたの?」


「フッフッフッ。男スタッフ達で、今日は飲む約束してるんだ。ジーニーも来るだろ?」


 リヴィオの問いかけに、ああ、行くぞとジーニーも返事をする。


 夏を満喫してるなぁ。トトとテテは帰って寝るのだーと遊び疲れたお子様の電池切れ状態だ。


 私はもらったピンクの貝殻をしばらく執務室の棚に飾り、来年は海を楽しもうと決心したのだった。

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