女王陛下の頼み事

 女王陛下から頼み事をされた。


「実はこの秋にゼキ=バルカン達が隣国の使者を連れて帰ってくるのだが、どうだろう?温泉旅館を味わってもらうというのは?」


「隣国の要人を招くということですか?」


 そんな大役、私にできるだろうか?引き受けることに躊躇し、隣にいたリヴィオが陛下に尋ねる。


「オレはゼキ=バルカンと隣国の者たちと会ったことがあるが……陛下、どなたがいらっしゃるのですか?」


「大神官長と言っておった」


『大神官長!?』


 私とリヴィオの声がハモる。なぜそんないきなり大物が!?地位からして偉そうな人が来るの!?


「こ、光栄ですが、何か事件を起こしては国同士の問題となりますので……私には……」


 ダラダラと汗が出た。女王陛下がそうか……と残念そうに言う。

 その横でハリー=カムパネルラ宰相が口を挟む。


「次の船の出港までの半年は滞在することになるだろう。この国の良いところを見てもらいたいのだ。何か問題となることがあれば、こちらでも力を貸すことを約束する」


「妾も旅館のオモテナシは気に入っておる。隣国の客人もきっと気にいるであろう。城にずっと滞在するのも飽きるであろうし、帰るまでの間楽しんでもらいたいのじゃ」


 『頼む』そう二人にそう言われて……私とリヴィオはとりあえず了承してしまったのだった。


「なんだか責任重大なことを頼まれてしまったわね」


「大神官長か……あちらの王に謁見したときに嫌な感じのやつはいなかったから、そう頭を悩ませるものじゃないさ。大神官長はその時はみかけなかったから、どんな人かはわからない。いつもどおり、オモテナシしよう」


 リヴィオから励まされて、ハッと思わず顔を見た。


「若旦那らしくなっちゃって!でも本当にそのとおりだわ!いつもどおり……ね」


 確かに私は誰であろうと心を込めて、いつもどおりのおもてなしをするだけだ。


 王都の銀行に用事があり、ナシュレへ帰る前に寄る。


 VIPルームに通されてお茶がだされ、しばらくお待ち下さいと言われる。


 部屋を用意されるなんて、偉くなっちゃったなぁと私はしみじみ思い、それを口にするとリヴィオがサラッと言う。


「オレは個室しか入ったことない」


 ……お坊ちゃんめーっ!


「それにしてもずいぶん遅いわよね」


 ティーポットからおかわりのお茶を注ぐ。リヴィオが、あ、オレも!と言って暇潰しにお茶のおかわりをした。


「書類を持ってくると言ってからずいぶんたつわよね」


 二人で二杯目のお茶を飲み干した後、さすがに様子がおかしいことに気づいて立ち上がる。


「オレから出る。セイラは後ろから来てくれ」


「了解」

  

 私とリヴィオは気配、足音を消す。


 ガタン!ガタガタと音がする。人の声。


「順番に解放する!いいか?人質は残れ!」


 これは……まさか事件!?


 リヴィオがめんどくせーと呟いた。私もドアの隙間から覗き込む。


 縄に縛られた銀行員の人達は残されて、お客さんと思われる人達は外へ出されていく。


「早く!金を詰めろ!!」 


 は、はいっ!とお姉さんが鞄に札束を詰めている。

 紛れもなく銀行強盗だ。こんな事件に出くわすとは……。


「どうする?助けるか?」


「助けない選択肢をリヴィオは選ばないでしょ?」


 なぜ、聞いた?リヴィオの性格上、一択であろう。思わず飛び出して行かなかったのは成長だろう。


「とりあえず裏口からセイラを逃したいな」


 私はリヴィオの過保護さに半眼になった。


「さすがに私も一緒に助けるわよ!?……どう考えても、素人の強盗には勝てると思うわよ」


「それを油断と言うんだ!相手が魔法を使ったり……見ろよ。剣もちらつかせてる!何かあったらどーするんだ!」


「一人で逃げれないわ!援護くらいするわよ!」


「いいから!セイラは下がってろよ!」

 

 言い争いしていると、強盗3名のうちの一人が私とリヴィオの覗いていた扉を開いた。


「何、話してんだ!めちゃくちゃ聞こえてるぞっ!」


 私とリヴィオはその瞬間、二手に分かれる。ダンッとリヴィオはカウンターを蹴って、しなやかに跳んだ。人質と強盗の間に入る。

 私は間合いを取り、術を詠唱する。


「お前たちは何者だ!?」


「VIPルームのお客様よ!」


 私の言葉と同時に術が発動した。光の網が包む。


「魔法!?な、なんだこれ!とれないっ!」


 慌てる覆面の男は蜘蛛の糸のように網が絡みつくため暴れるが、余計に体に巻き付いて身動きがとれなくなる。


 一方のリヴィオは人質の前にいる帽子を深く被った男の腕を掴み、体を反転させて捕獲し、頭を抑えて眠りの術をかけ、意識を失わさせた。その動きは無駄なく流れるようで、何が起きたのかわからないほど……一瞬の出来事だった。


 私に下がってろと言うだけあって、以前よりもさらに強くなってる気がした。


 鞄にお金を詰めさせていた、マスクをつけている男に二人で挟み撃ちをする。


 私とリヴィオに向けて、剣を振り回してくる。大振りに振り回すあたりが素人である。


「ち、近づくなっ!」


 銀行員に手を伸ばして、剣を首に当てる。助けてー!と叫ぶ声。


「こいつがどうなってもいいのか!?」


 私とリヴィオの動きが止まる。それに満足するマスク男。


「そ、そうだ!そのままだぞ……ふん。貴族か……良いご身分だな!」


 ジリジリと人質を連れたまま、動いていく男。


「逃がすかよ」


 リヴィオがそう言うと、パチンッと指を鳴らして完成した術を発動させた。男の影がゆらりと動き、影の主人であるマスク男を羽交い締めにした。


「自分の影が動いた!?ぎゃあああ!!」


 影が剣を振り上げた。


「剣を放さないと自分の影に斬られるが、それでもいいのか?」


「ひいいいい!!」


 ガシャンと剣が床に放り投げられ、人質もポイッと捨てられた。


 私とリヴィオは顔を見合わせて頷いた。そして銀行員さんたちを見て、無事ですか?と聞こうとした瞬間、場の雰囲気に気づく。


 ………ん?あれ?


「あのぉ……すこく言いにくいんですが」


 人質だった人が申し訳無さそうに口を開く。


「これ、訓練なんですよ。すいません担当の者が言ってませんでしたか?」


『訓練ーーーっ!?!?』


 私とリヴィオの声がハモった。


 担当していた人が言い忘れていましたとすごく謝ってくれた……また入り口の扉にも訓練あります。と日付と時間が書いてある張り紙を帰りにみつけたのだった。


「アハハハハハ!」


 執務室に爆笑する声が響いた。珍しく、ジーニーが涙がでるほど笑っている。


「笑いすぎだ」


 リヴィオが不機嫌そうにしている。私達、知らなかったのだから仕方ないと思うの。


「それだけ動揺してたんじゃないのか?隣国の要人とやらを旅館に受け入れることができるか?とか」


 そうジーニーに言われると……そうかもしれないと思える。続けて彼は言う。


「重い頼み事だが、それだけ陛下に信頼されているんだろ。やりがいあるじゃないか」


 それもまた、緊張を生む原因なのよー!と思ったが、引き受けてしまったからには精いっぱいしようと思うのだった。



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