ラブラブ大作戦

 『ラブラブ大作戦』を発動することとなった。そのきっかけは先日のハリーの誕生会に公爵家に招待されて行った時のことだった。


 なんと招待客ではない白百合の姫を連れてルイーズが乗り込んできて、私を無視し、リヴィオにリリーを紹介したのだった。リヴィオは怒って出ていったが、ルイーズはリヴィオが照れているためと周りに言いふらし、リリーも顔を赤らめていたのだった。


 私は決めた。傷が広がる前にさっさと事をおさめてしまおうと。


 ジーニーが私の欲しがっていた資料、諜報活動の情報を私にくれる。す


「とうとうやる気になったか」


「助かるわ。始めるわよ!」


 パラパラと紙をめくる。……うん。思っていた通りだ。


 リヴィオは公爵家のハリーとオリビアのところへ行き、作戦を説明し、協力してもらえるよう頼みに行っている。


 トトとテテも協力は惜しまないのだ!と申し出てくれた。

 

 王家、公爵家、フォスター伯爵家、お客様として縁ができた貴族達、さらに家電やお店の数々で商売の縁ができた人達。


 私とリヴィオは仲良く連れ立って、招待される様々なパーティに旅館の仕事に響かない程度に出席しまくった。


「おや?あの噂はデマでしたかな?」


 リヴィオが紳士的な笑みを浮かべて答える。私の肩を引き寄せ、仲良しアピールを忘れない。


「世間で言われているものでしょう?婚約者一筋なのに……どうして噂が出たのかと驚きましたよ。セイラより素晴らしい女性はいませんよ」


 ハハハッと爽やかに笑い、好青年ぶりを見せる。相手もそうですよね!と相づちを打つ。


 私とリヴィオは優雅に皆の前でダンスを披露する。


「セイラ様の佇まい、仕草!本当にお美しいですわ!」


「ダンスの優雅なステップ。素晴らしいですわー!」


 私は心の中でガッツポーズをした。淑女になるための勉強がここで役立つなんて!


 優雅にパラリと扇子を広げて微笑む。ゆっくりとした落ち着いた口調で話す。


「とんでもないですわ。でも褒めてくださり、とても嬉しいですわ」


「あの……リヴィオ様との婚約破棄は嘘だったんですね!?」


「私達、以前と変わらない仲ですのに……なぜそのような噂をたてられ、誤解を招くようになったのかわからないんです。とても悲しくて、心が苦しくなりますわ」


 悲しそうな目をし、頬に手をやる。演技するとたいていの女子は、憧れのお二人です!大丈夫ですわ!わたくしたちも皆に話しておきますから!と励ましてくれた。


 リヴィオは常に紳士的で帰るときまで崩さない。手を差し出し微笑む。


「セイラ、疲れていないかい?」


 キラキラとイケメン王子様タイム。労る優しげな彼を演じている。


「え、ええ……気遣ってくださって嬉しいですわ」


 私もリヴィオの目を見て微笑む。手を重ねて、馬車へ乗る。


 「はー、めんどくせー」


 ………馬車に乗ると足をあげて、キラキラが消えるリヴィオ。私が半眼になっていることに気づくと、あ、もう少し演じてほしかったか?とニヤッと笑った。


 この作戦は噂を消すのに大いに役立った。あまり社交界に出なかったが、大事なことなのねと実感した。


 貴族の噂話は乗り合い馬車より早い。


 カムパネルラ公爵家の三男のリヴィオ=カムパネルラはセイラ=バシュレを大切に扱い、二人は仲睦まじく、結婚間近という話にとってかわった。


 それで引き下がるルイーズではなかった。私達の行くパーティーにリリーとその取り巻きを送り込んできたのだった。


 これも私は予想済みで、むしろこの時を待っていた。再びやられる気はないわ!鋭い目で相手を確認する。取り巻きあわせて3人。


「リヴィオ様。嬉しいですわ。こんなところで会うなんて運命でしょうか?先日お会いしましたわよね」


 リリーが頬を赤らめて言う。返事をしないリヴィオ。私が隣にいるのに、彼女もなかなかの小芝居上手である。しかしルイーズの策にのり、それに加担し、私に害をなしたという報いを受ける時が来たのだ。


 パチンッと私はセンスを音を立てて閉じて目を開く。リヴィオへの合図。彼はスーッと私から離れて違う人と談笑を始めた。取り残されたのはリリーと取り巻き。


「まだ諦めませんの?育ちが悪いと頭も悪いのかしら?」


「エスマブル学園では首席でしたよ。スミス男爵家の娘さんですね」

 

 私に嫌味を行った娘がギクリとした顔になった。低い声で話をしていく。


「一代で商売を成功させたお父様、お元気ですか?私がこう言っていたとおっしゃってください『コロンブス』の海運の契約は切らせてもらうと」


 え……?とぽかんと口を開ける。


 もう一人の取り巻きにも告げた扇子の先をビシッと向けた。


「確か、あなたはホワイト子爵家のお嬢様ですね。私のところでとれている魔石の売却、そちらから購入していた小麦の取り引きは停止ということをお伝えください」


 ま、待ちなさいよ!と言うが私は無視した。リリーが侮辱されたと気づいて顔を怒りで真っ赤にしている。


「身分が自分たちより下の者に良いように扱われて悔しいですか?しかし人の道ならぬことをすると、こうして報いを受けるのですよ」


 ニッコリと私は微笑む。


「こんな成り上がってきただけの人に……」


 美しい顔が歪む。


「さて、エバンス家には相応の報いをさしあげますわ。どうぞルイーズ様に泣きついてくださいませ。彼女にどうにかする力があれば?ですけど。私の会社のすべての取引き、コロンブス、カムパネルラ公爵家、フォスター伯爵家、エスマブル学園に関する事業を停止します。追って書類をお送りしますね」


 それから……と付け加えた。


「女王陛下も人の物を奪うような狐は傍に寄せたくないと仰ってましたよ。王城への出入り、考えさせてもらうとのことです」


 顔が一気に青ざめる。


「な、なんで!?陛下まで!?」


「実は陛下とは懇意の仲なのです。成り上がり者でも国のために尽くす者を陛下は聡明な方ですので、目をかけてくださってます」


 有り難いことですと私は本心から言う。


 リヴィオが終わったか?と言ってそばに来て、私の腰に手を回して自分に寄せる。


 ちょっ!ちょっと!!密着しすぎ……と思ったが、作戦中だということが頭をよぎる。赤面しそうなのを我慢して、私は甘い恋人ごっこを続ける。


「え、ええ」

 

 動揺を隠しつつリヴィオにすり寄る。そんな私を優しく見下ろすリヴィオ。


 くっ……耐えれない。人前で恥ずかしすぎる!日本人の記憶が私に無理!レベル高すぎるわ!と告げている!


「悪いな。オレはセイラ以外は考えられない。さっさと家に帰って父親達に報告しろ」


 私にベタベタくっつきながらそう言う。


 ふぅ……と思わず、私は終わった後、外に出て、こっそり汗を拭ったのであった。

 

 ……不慣れすぎる。


「オレはラブラブ大作戦を継続してもいいなぁ」


 声が後ろからしてビクッとなった。私の動揺に気づいていた人がいました。


「人前ではしたくないわっ!私らバカップルかーーーっ!?」


「バカップル?なんだそれ?人前じゃなかったらいいんだよな?」

 

 思考停止した。電池切れです。


「なんで止まるんだー?」


 ひらひらと私の顔の前で手を振るリヴィオはとても楽しそうだった。


 王都の店を視察するため街にいると、少しリヴィオが離れた瞬間にゴロツキに絡まれた。ガラの悪い人達だ。


「おい?一人か?」


「こっちへこい!貴族の娘、金持ってんだろ?大人しくしてろよ?」


 手を伸ばしてきた瞬間、私は相手を睨みつけて、叫ぶ。やや棒読み。


「キャー!こわーい!」


 私にだまれ!うるせえええと言って掴みかかってきた。動きから、戦闘に関して全くの素人。


 スッと軽く避けて足払いをする。地面に転がったところを上から容赦なく踵を落とす。グエッと言う声。


「だれかー!たすけてー!」


 そう言いつつ、驚いてる男に、飛び蹴りをかますと吹っ飛ぶ。そのまま私はくるりと体を反転させ、もう一人の逃げようとして男が見せた背中をドスッと蹴った。

 

 全員を足のみで倒す。


「手を汚したくないのよね。これからクイーンバーガーでお食事なのよね」


 苦悶の表情を浮かべる男たちを上から見下ろして私は冷笑した。集まった野次馬達から『かっこいい!』と拍手がおこる。リヴィオが来たが、口を開く前に私は首を傾げる。

 

「まさか私に街の単なるゴロツキをけしかけないわよね?これは……ただの偶然ってことでいいわよね?」

 

「聞き出すか?」


「お腹空いたし、お昼ご飯にしましょ」


 さすがにそれは無いわーと思いつつ、お昼を優先させた。後から警備隊に聞いた話では……誰かに雇われていたということだった。


 いや、いくらなんでも、これで脅しになるって思ったの!?さすがに私、エスマブル学園で戦闘術も学んだ身だし……街のゴロツキには負けない。これで負けたら授業料が無駄になるでしょう!?


 旅館の夜は長い。仕事が一段落した頃だった。

 

 カンカンカンカンと拍子木の音が響いた。来た!


 私は素早く音の方へ走る。姿を捉えた瞬間、叫んで魔法を発動させる。


「火の用心っ!マッチ一本火事のもとおおおおお!」


 私は火を付けようとしていた黒尽くめの男の火を消すため、水圧最大の水魔法でふっ飛ばした。火が消えるついでに、水に押されて流される男。言葉一つ残せずに倒される。


 リヴィオが着くのはえーなと言う。私に先を越されて面白くなさそうである。


「フッ……私の勝ちね」


「勝負してねーし!!」


 火の見回り当番のスタッフにありがとうとお礼を言う。全員、首に拍子木を下げている。


「ひいい!?今のは何だ!?」


 悲鳴をあげて、立ち上がり逃げようとする黒尽くめの男に光の網の術を発動させて拘束する。


「こ、こんな魔法まで使えるやつがいるとは聞いていない!!」


「さあ!ちゃきちゃきと貴方の雇用主を吐いてもらいましょうか?」


「喋ると思うのか!?」


 私は冷笑を浮かべて言う。


「喋りたくなるようにしましょうか?いろんな魔法あるから試してみる?」


 手にパリパリッと氷を纏わせる。ぎゃああと夜の闇に叫び声が響く。


「女将、性格変わってません?」


 スタッフが腕を組んでいるリヴィオに聞く。肩をすくめて彼は言ったのだった。


「まだ学園時代のセイラの三分の一だな……」


 雇用主を吐かせて警備隊に突き出してやった。思った通りルイーズにお金で雇われていた。


 ジーニーが情報が役だったなーと満足げに呟く。エスマブル学園諜報部の者をルイーズの屋敷に送り込んでいる。


 あっちの動向は筒抜け。旅館を潰すために放火する計画があることを知り、火の用心の見回り隊を作っていたのだった。


 拍子木懐かしーとカンカンっと鳴らしてみた。いい音だ。


 さて、私の予定ではそろそろルイーズが私にコンタクトをとってくるだろう。



 

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