温泉を発掘せよ!
「……で、なんで『コロンブス』でカレーライスを食べてくつろいでるのかなっ?もうすぐ航海へ行くから準備で忙しいんだな☆」
ゼキ=バルカンがそう言う。私は頭巾とエプロンをつけて、大鍋でカレーを皆に振る舞っていた。
リヴィオも便乗して食べている。航海以来、彼は『コロンブス』に馴染んでいる。
「うまいっす!」
「シンさんの味がします」
「な、懐かしくて、涙が……」
「航海頑張れそうっス!」
社員一同喜んでくれている。ゼキにもカレーライスをよそってあげる。『コロンブス』内はカレーライスの匂いが漂っている。
「はい。カレーライス食べたいって言っていたので……いかがですか?」
ゼキはパクリと一口目を食べて目を輝かせる。
「シンの味によく似てるが、少し甘めだね。でも美味しいよっ☆………ありがとうと言いたいところだけど、何か聞きたいことか頼みたいことがあるんじゃないかな?」
さすが!するどい!!
「実は聞きたいことがあります!……お祖父様と温泉に入ったことがあるんですよね?」
「そうだね☆ナシュレへ行ったときはたいてい入っていたよ☆」
「その時、お祖父様は温泉を掘ることについてなにか話していませんでしたか?」
ゼキはカレーライスを食べながらしばしの沈黙。
温泉発掘……さすがに私だけの知恵では限界があった。ここは私より聡明な祖父の力を借りれないかと思ったのだ。
「あー……そういえば。温泉は地面のどこを掘っても出るって言ってたなぁ」
「えええー!?どこを掘っても??」
「うんうん。たしか……このお湯の出る泉をどうやって見つけたかを聞いたんだっけなぁ………」
一生懸命思い出そうとしてくれてるらしく、ゼキはとーーーおい目をしている。
「何メートルとか深さについては話してませんでしたか?」
「あ!そうだ!『1000メートルの深さまで掘ればどこだってでるさ』と言っていたんだな☆」
なるほどと私は腕を組む。さすがお祖父様だわ。
……しかしせ、1000メートル!?!?スケールが大きすぎるわ。
私の魔法で1000メートルまで掘れるかな?色々な地、土の魔法を頭の中でうまくいきそうなものがないかしばし考える。
まあ、行けそうかもしれない。
「役にたてたみたいだね☆」
「はい……ありがとうございます」
じゃ、心置きなくとニッコリ笑うと、二杯目のカレーライスを食べるゼキだった。
「なんで?そんなこと聞いているんだい?」
「陛下に王都にも温泉がほしいと言われたので……」
「へええええ!それはスゴイねっ☆」
ほんとに……半ば趣味のように始めた温泉がまさか女王陛下のお気に入りにまでなるなんて思いもよらなかったことだ。
「シンの葬儀のとき……本当に悪いと思った。君があまりにも呆然とし、抜け殻のようにいたから。でもまぁ、突き放すようだけど、そこで終わるならそこまでだったんだろうねって思ってたしね」
ゼキ=バルカンはクルリッとスプーンを回した。船に乗っているときの彼のようにまじめな顔をしている。
「あいつが変えたのかなぁ?」
何故か不本意そうな顔をしたゼキはカレーライスを食べているリヴィオを見た。
前世の記憶もそうなのかもしれないけど……リヴィオもまた私に影響を及ぼしていると言っても過言ではない。
あれ?そういえば言ってなかった!!
「あああ!そうでした!あの……婚約を……」
シマシタと言おうとしたがゼキが知ってるよっ!と言葉を遮った。
「だいたいねぇ……最初にハリトと戦ったときにはもう気づいていたよ☆」
「はやいっ!」
ゼキが驚いている私を見て笑う。
「年の功だよ。あんなに必死でお互いを守ろうとしていたのに気づかないわけがないだろう?それにさ、君のために船に乗り込んで『外』へ出て航海してみようか……なんて、なかなかできるもんじゃない……幸せにおなりよ☆『コロンブス』にも欲しい人材だったけどねっ☆」
ありがとうございますと私は礼を言った。
「米の輸入については今回の航海でたのんでくるよ☆後、もろもろの食材も……うん。カレーライス美味しかったしね☆安定して食べれるといいね☆」
二度、私はお礼を述べて『コロンブス』から出ていった。
航海の無事を祈って……。
「どこの土地にするんだ?」
「そうねぇ……」
地図を見たり景色をみたりし、二人で海岸をゆっくりと歩く。
もうすぐ春がくる海は穏やかな波で、このままいつまでも眺めていたい気持ちになる。春の優しい日差しにキラキラと水面が光っている。
「春の海、ひねもすのたりのたりかな……ね」
「なんだそれ?」
「今日のような春の海の情景を読んだ句よ」
「なるほど」
前世のやつかとリヴィオは言う。春の日差しに眠くなっているらしく欠伸を一つする彼。前世の記憶があることを彼にだけ言ってあるが、特に追求することもなく、普通に受け入れているようだ。
「今から、その穏やかな海を騒がしくするんだけどね」
「は??」
私は指で四角いファインダーを作り、景色を確認。カメラで撮るように片目を瞑って覗き込む。
小さく城が見え、街から少し離れた場所。自然も残り……うん。この辺りがいいと思うな。
私は魔力を集中させる。1000メートルか……かーなり深いよね……。日本では掘る機械があったんだろうけど。ちょっと不安になった。
「ちょっとリヴィオも力を貸してくれない?地下深ーーーく掘りたいのよ」
『黒猫』は半分寝てたらしく、ああ……と眠そうな目をしている。ややめんどくさそうだ。
春の日差しって眠くなるよね。カレーライスでお腹もいっぱいだしね。
まぁ、私が手を貸してほしいのはリヴィオの魔力なんで寝てても良いけどねとニヤリと笑う。……手を繫ぎ、魔力を増幅させる。
「さー、行くわよ!」
気合いを入れた私の声が届いたらしい。
「あっ!まさかっ!今かよーーっ!」
リヴィオがハッと眠気がとんだらしく叫ぶが、すでに魔法が発動する。
地面、奥深く亀裂が入っていく。
「離れるわよ!来るわよっ!」
私とリヴィオはダッシュでその場を離れた。その瞬間、ザアアアと湯気が出ているお湯が吹き出した。
「うまくいったわ!」
「おいっ!……一気に目が覚めたぞ」
適当だったけど、できるもんねと私は満足気に頷いた。霧のようにこちらまでお湯が微かにかかる。少し塩の味がする。
「陛下に温泉作れと言われたものの……源泉をみつけられるか不安だったのよねぇ」
「不安は分かるけど……どうすんだ?これ??」
吹き出る温泉を指差しリヴィオは呆れたように言うのだった。
ポタポタと髪の毛から雫が落ちてきて、私は前髪を横に分けてフフッと笑った。リヴィオの手前、余裕をみせたが。……このあと、どうするか考えてなかったあああああ!!!
街からも見えたらしく、しばらくこの温泉が吹き出したという話題は王都でも騒ぎになったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます