カムパネルラ公爵家を攻略せよ!
そう……乗り越えなければならないことがある。
珍しく私の私室にメイド長のメリルとメイド達が集合した。
「よろしいですか?今日はお嬢様にとって大切な日です!心してかかりますよ!」
『はい!メイド長っ!』
「さあ!ドレス部隊はそちらへ!」
『了解です!』
「お化粧部隊!動きが遅いですよ」
『はいっ!準備完了です!』
ここ……作戦司令部ですかね?
私が湯浴みから出てきて鏡台の前に座ると屋敷内のメイドたちがザッザッザッと勢ぞろいした。気合がすごい。
今日は公爵家へ婚約者として認めてもらうために挨拶へ行くのだ。リヴィオは婚約者として紹介したいと言う。そのママ理由にはロマンチックな要素はなく、婚約者候補を断り続けているそうでめんどくさいんだよなーと言う理由のみだ。彼らしい理由だ。
「はぁ……公爵家とか敷居高すぎて……反対されないかな?」
ドレスを着せて貰いながら、不安になっていると、メリルが笑う。
「ホホホ!お嬢様もふつーの女のコなのですね!」
「ほんとですねー!そんなセリフが出てくるなんて!」
……今まで普通ではないイメージだったってことなの!?
髪の毛を巻いてくれているメイドがクスクス楽しげに笑う。
私は生まれてきて初めて、淑女としてフル装備仕様となった。
日本のゲームのステータス画面を見れるなら魅力値68くらいには上がってる気がした。
メイドさん達の頑張りによるところが大きいとしみじみ思う。
失礼のないようにしなくちゃ!せっかく皆頑張ってくれたんだし、私が台無しにしないようにしなくては!
手袋の手で扇子を持つ持ち方にも気をつけ、ゆったりと歩くよう心がけた。
階段を降りていくと黒っぽい服に金糸の刺繍が入り、髪の毛を固めてきっちり正装したリヴィオが立っていた。
手をスッと私に伸ばす彼は紳士だった。かっこいいイケメン……そして手慣れている。
リヴィオは魅力値90はあると見た。私、負けてない?悔しいけど、負けてそう。
「それ母さんからもらったドレスだろう?似合ってる。綺麗だ」
どうしたのー!?セリフまで魅力的なイケメンになってるの!?
「うわっ!」
動揺して私はズルっと階段から落ちかける。危ない!とリヴィオが体を支えてくれる。
「なっ、なにしてんだ!?」
「きゅきゅきゅうに、聞き慣れないこというからよっ!」
リヴィオが半眼になる。私は態勢を整えて立つ。
「おまえ……恋愛耐性がないっていってもなぁ……もうオレらは良い歳だぞ。貴族の娘、息子たちなら、けっこう小さい頃から婚約者とかいたりするしな…って!なんで赤面してんだあああ!?!?」
リヴィオの変身ぶりに翻弄されてる私に、先が思いやられるんだが……と呟きつつ、リヴィオは馬車に早く乗れとエスコートしてくれる。お嬢様!がんばれー!と屋敷の者たちが応援する声に見送られた。
「カムパネルラ家は行ったことあるし、家族にも会ったことあるし、なんで、そんな緊張してんだ??」
「前とは立場が違うわ。今はこ、こここんやくしゃとして認めてもらうために行くんだもの。私、淑女としても女としても、どっちも自信はゼロなのよっ!」
私は今の気持ちを正直に言う。
「これが……エスマブル学園の首席だったと誰が信じるだろうか?」
余裕あるリヴィオはふざける。くっ……後で見てなさいよっ!と八つ当たり気味に睨む。
「変なナレーションいらないわよっ!」
「はいはい……大丈夫だって。万が一、アーサーにでも反対されたら殴っとく」
「ちょ、ちょっと!それはしないでっ!」
物騒な!!本気でしそうなので、私は青ざめる。馬車が走る中で私とリヴィオはいつもどおりの会話を繰り広げたのだった。
「ようこそ。久しぶりだね」
「まぁ!!可愛らしくしてきたわね。そのドレス。やっぱり似合うわね」
ハリーとオリビアが出迎えてくれる。二人とも朗らかだ。客室へと案内してくれる。
客室にはアーサー、レオン、マリアが揃っていた。テーブルには所狭しとお菓子やサンドイッチなどの軽食が並べられ、お茶会の用意をしてくれてある。
「みんなが一堂に会するのも何ヶ月ぶりだ?さて、時間がもったいないから……」
ハリーが機嫌良く言った後、スッと宰相の顔になった。
私は……その瞬間、悟った。これはお祝いの意味を持つ席だけではないと。
ハリーと私の視線がぶつかり合う。
「お茶会の前に結論だけ言う。セイラ=バシュレを婚約者として選んだのは家の問題児である愚息としては、よくやったと褒めてやりたい!!」
なんでオレを落とすんだよとリヴィオが文句を言う。
「婚約は許そう。むしろこの三男坊をお願いする!カムパネルラ家としても悪い話ではない……だが、君ならわかるだろうが……」
私の扇子を持つ手が震える。でも私の覚悟を聞かれてるのだろうと理解する。
オリビアが心配そうに優しく、自分の手を重ねる。
私はジッとハリーを見据えたまま動かず、声を出す。
「私の存在がカムパネルラ家に害がおよぶときにはもちろん……身を引きます」
「はぁ!?」
リヴィオがガタンッと立ち上がる。カムパネルラ公爵がリヴィオ!と制する。アーサーが座れ!と一喝した。
「リヴィオ、反対しているわけではないのだ。セイラ=バシュレは普通のお嬢さんではない。王家、コロンブス、自分の事業……様々な関わりを持っている。今後も続けていくのだろう?」
「はい」
私は迷うことなく、返事をした。ハリーもだろうなと頷いた。
「もし君のしていることで、王家に害を為すようなことや不都合があった場合、宰相であるわたしは君の味方ができない」
むしろ敵になる可能性もあると示唆する。
「その時は許してくれ」
「はい。大丈夫です」
リヴィオが私とカムパネルラ公爵のやりとりを見ていてきっぱりと言い切る。
「その場合はオレも縁を切ってくれ」
アーサーがその言葉に珍しくニッコリと満面の笑みでリヴィオに笑いかけた。
……が、言うことは辛辣だった。
「大丈夫だ。おまえとはいつでも縁を切ってやる」
「アーサー!調子にのんなよ!」
「おまえが騒ぎ起こすたびに何度こっちは迷惑被ってると思ってる?」
「そんなに迷惑かけてねーよ!」
レオンが柔らかく微笑みながら二人のやりとりを見て言う。
「相変わらず、アーサー兄さんとリヴィオは仲が良いなぁ〜」
「二人ともなにしてるのかしら?」
末の妹、マリアが呆れている。
オリビアがもうっ!二人ともやめなさい!と諌めた。
「だけどカムパネルラ家にとっては君のような聡明な娘と縁を持つのは嬉しいことなんだ。これは嘘ではない。これからよろしく頼むよ。君があの殿下はなく、うちのリヴィオを選んでくれて本当に良かった!」
カムパネルラ公爵がニッコリ笑った。
「さあさあ!お茶にしましょう!」
そのオリビアの一言に給仕係がやってきて、軽食を取り分けてくれたりお茶をいれてくれたりと世話をしてくれる。いつも自分でしているので、慣れない私はしてもらうたびにお礼を言ってしまう。
「バシュレ家には挨拶に行ったのかい?」
『…………』
ハリーに聞かれて私とリヴィオは顔を見合わせた。
……えーと、乗り込めーっ!ってこと?
「いや、普通に挨拶とか、無理じゃね?」
「挨拶は受け入れないかと……絶縁状態なので……」
行くならドレスではなく、戦闘服で行かないとダメだろうなぁ。
なんとなく事情を知っているらしいカムパネルラ公爵はまぁ、いいかと苦笑した。
「もう!お父様ったら!!そんな質問とか嫌なことばかり言うのやめてよっ。セイラ様、一緒にお茶菓子を食べて、お話しましょうよ。マリア、すごーく楽しみにしてたのよ」
金髪碧眼の可愛らしいマリアは頬を膨らませる。ごめんごめん。と末の娘に弱いらしい父ハリーは何度も謝る。
「お姉さまとお呼びしても良いかしら?」
ソフィアにも昔、そう言われたことを思い出す。マリアは純真無垢な目をしている……ソフィアには初対面から睨まれた記憶がある。
「ええ。呼びたいように……セイラでもいいのですよ」
「じゃあ、お姉さまって呼ぶわ!マリア、今度、社交界デビューするのよ」
「可愛らしいですから、マリア様ならすぐに人気者になれるかと……」
「うふふふ。すごーく楽しみ!」
オリビアがお行儀のお勉強を真面目にしなさいよと母親らしく口を挟む。わかってるわと賢そうな彼女は自信を持って答える。
「また温泉に行きたいわ。伺ってもいいかしら?」
「もちろんです!」
オリビアが肌のツヤツヤ感と化粧のノリが違うのよ!と力を入れて話す。そして茶目っけたっぷりにオリビアがくれた私のドレスを見て言った。
「わたくしはあの頃からリヴィオがセイラを手に入れると思っていましたのよ。だから……このドレスを差し上げたのです。わたくし、なかなかすごいでしょう?」
「すごいです!!!」
正直に驚く。……母の勘だろうか!?当の私すら予想してなかった。
リヴィオは何も言わず、苦笑している。彼は予想していたのだろうか??
「君の発案する変わった雑貨も売れ行きが好調だよー!最近は提灯なんかもオシャレって言う人が多いね!伯爵夫人なんか屋敷に飾るとかで、買い込んでいったよ」
インテリアのお店をしているレオンが言う。
「領地経営をまかせておいて、みんな気楽なものだ」
ぶつぶつとアーサーが言う。リヴィオがアーサーが家を継ぐんだし。当たり前だろ!と言うとまた喧嘩が始まっていた。
こうして無事に?挨拶は終え、正式に『婚約者』として皆に紹介されていくことになったのだった。
「セイラの場合、挨拶はゼキ=バルカンなのか?」
「ゼキはリヴィオのことを認めてるから大丈夫じゃない?……じゃなければ、今頃、聞きつけてハリトを刺客として送ってくるわよ」
「間違いねーな」
苦々しくリヴィオは頷いた。
「疲れたか?……悪かったな。カムパネルラ家の事情を押し付けて……オレはセイラがカムパネルラ家や王家から敵対することになっても、家から縁を切られても、常に味方でいることを約束する」
「リヴィオ……ありがとう。そんなことにならないように気をつけるわ」
女性の起業家は少ない。私のように王家を相手にしている人はさらに少ない。
心してかかろう。守るものができることは嬉しいけど大変でもあるのだと実感した。
その夜、お疲れ様会として私は皆に『カレーライス』を振る舞った。
「これが噂のカレーライス!!」
屋敷の料理長が感動している。お祖父様にカレーライス知ってるか?と聞かれたことがあったらしい。今まで謎の料理だったらしい。
「テテは人参苦手だけど、これなら食べれるのだ!」
わかる!カレーはなんの具であろうが、包容力あるよね!わりとなんでも合うという不思議料理!!
「この味……辛いけど癖になるな」
リヴィオはそう言って、おかわりしている。お祖父様のレシピで作ったが、少し本格的で辛口かもしれない。私はどちらかといえば『♪リンゴとハチミツ〜』と歌われていたカレー粉派なんだよね。ド庶民です。今度、リンゴすりおろして入れてみよう。
「香辛料集めるの大変だっだろ?」
ジーニーは水を一口飲み、そう言ったが、リヴィオは首を横に振る。
「いや、なんかゼキ=バルカンが熟知してたぞ?カレーライス食いたい言ってたな」
そっか……今度、ゼキが来たら食べさせてあげよう。
「はー!辛くて美味しー!この煮込まれてる具がサイコー!じゃがいもの大きめなのが好きなのだー!」
トトはスプーンで具を切って、パクパクとカレーは飲み物ですというくらい食べている。すごく気に入ったらしい。
カレーライスは万人に愛されるわね。
今日、淑女に変身し、苦手なことを頑張った私はカレーライスを作ってガッツリ食べ、ストレス解消したのだった。
こうやって、みんなでご飯を食べる……そんな幸せがずっと続きますように。
そう願った。
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