猫はこたつで丸くなり、夢を見る
シン=バシュレ……お祖父様の日本再現率はすごかった。早速、こたつをトトとテテと一緒に開発した。
私は見逃さなかった!部屋にこたつが置いてあったことを!お祖父様の日本への望郷の念はすごかった。できたら生きている間に……話したかったな。少し寂しい気持ちになった。
雪がちらつく日にこたつは最強。ホカホカと温かい。
「は〜……幸せだなぁ」
……と気が抜けたことを言っているのは私ではなくリヴィオ。こたつの設置を試しにしてみた執務室。リヴィオが完全に猫になっている!『黒猫』が丸〜い背中になっている!ちょっとかわいい。
「トト〜。ミカンとって〜」
「無理なのだー。動けないのだー」
トトとテテまで!!ダラダラとしている。……生産性がこたつによって奪われている。
「これは兵器になるんじゃないか?」
ハッ!と気づくと……なんとジーニーまでもが虜になっている。
「あの…みなさん?」
私だけ執務室の机で仕事をしている。なんか理不尽じゃないかな?
「なーにー?セイラー?」
テテが、眠そうに言う。
「ちょっとー?もしもーし?仕事しないのかな?少し試してみるだけだったでしょ?」
「こたつから離れるなんて無理だ」
猫属性の彼に聞こえていたようだが、やる気なし。
ジーニーはこたつの上に仕事を持っていってしている。しかたないとつぶやきながら……。
「それで、世界の真実とやらはなんだったんだ?」
学園の仕事のため留守番していたジーニーが尋ねる。リヴィオが立ち回りをしたことについては『黒猫』だから仕方ないねと言っていた。理解ありすぎる。
「隣国があって『コロンブス』は王家の密命を受けて貿易してるみたい。祖父もここの大陸で手に入らないものはそこで手に入れてたみたいで………」
「行くなよ」
ゴロゴロしてるリヴィオが私に瞬殺で釘をさす。
「ま、まだ何も言ってないじゃないっ!」
「おまえ……お米少なくなってきちゃったって言ってなかったか?」
ギクッとする。大事に食べでるんだけどね……。
「トトも食べてみたーい」
「このお寿司というのも美味そうだな」
こたつの上のレシピノートを勝手にみる人達……。
「皆で行く!?」
シーンとする室内。やはりだめですか。
「そこまで命かけられるか?むしろ種を手に入れて、栽培方法とかを調べてここで収穫していけばいいんじゃないか?」
な、なるほど!ジーニーの提案に私は頷いた。賢い!種をもらってくればいいわけね。ゼキ=バルカンに頼んでみよう。
うまく作れるかわからないが、その時は天才庭師トーマスに相談してみよう。
私はこたつ組にお茶を淹れる。湯沸かしポットを今年の冬に作ったが、便利だった。いつでも熱いお茶が飲めるというのは良い!
コポコポといい音をたてて、急須の中へお湯が入っていく。ふわりと香るお茶の匂いが漂う。
『ありがとう』
四人の声がハモる。動く気のない人達の集いになっている。
「お風呂行く?柚子風呂にしてあるんだけど?」
「柚子風呂ってなんなのだ?」
「良い香りのする柑橘系の実をお風呂にいれるのよ。すごーくいい匂いで癒やされるわよ。後、体も温まるし!」
『行く!』
やっとこたつから引っ剥がすことに成功した。旅館の一室に置いてみようと思ったケド……これはやめようかしら。お客様が出てこれなくなったら…と、私は考える。
5人で薄っすら雪が積もっている道を歩いていく。なんでもないような日。私はこんな時間が一番好きだ。
「うわーい!」
ドボーンとお湯に飛び込む。他にお客様がいなくて良かった。トトとテテは柚子をかき分けている。
私は一つ手に持ちギューと潰してみた。なんとなくエキスが出る気がする。……子供じみたことをしてしまった。
「はー、癒されるー」
私が足を伸ばしてゆったりしていると、トトとテテが柚子を頭の上に乗せて、私の横へ並ぶ。
「ここから……女同士の話をするのだ!」
「するのだー!」
はぁ!?トトとテテはいつも発明のことで頭がいっぱいかと思っていた。
何の話をするつもりなのだろう?
「セイラはリヴィオとどうなのだ?」
ザブッと私は置いていた肘を滑らせた。慌てて体勢を整える。ザバザバと暴れるようになる私。
「あぶっ!あぶなっ!」
……危うく溺れかけた。
「動揺しすぎなのだ」
ま、まさかトトとテテからそんな質問くると思わなかった!日本の料理についてとか外の世界についてとか……質問するなら、そっちじゃないの!?普通は!?お、女同士の話をするの!?
「こういうこと、学園のときも他の生徒はしてたのだ」
「我々は忙しくてそれどころではなかったのだ」
だけど!と二人は声を揃えた。
「セイラの髪飾り……そしてリヴィオが前よりもすごーく優しくなってるのだ」
「知ってるのかー?セイラの護衛のためにリヴィオはかなり頑張って鍛えてるのだ」
はあ!?どこで!?私の知らないところで!?私は目を丸くした。そういえばこないだ強くなっていると感じた。
「リヴィオなにしてるの?」
「ジーニーに頼んで、学園で度々、演習しているのだ。それも一対一ではないらしいのだ……けっこうむちゃしてるらしいのだ」
「こないだ……傷をつけて帰ってきたのだ……すぐ回復魔法かけてたのを見てしまったのだ」
……知らなかった。私はリヴィオとずっと行動を共にしているわけではない。たまにフラリといない日があると思ってはいたのだ。
「セイラのためじゃない……とリヴィオなら言うのだ」
確かにと私は頷いた。リヴィオの性格上、そんなこと絶対に認めないだろう。
「私の気持ちは……」
私はトトとテテの言葉に狼狽えてしまった。
「顔に……出てるのだ」
「もう、あとは言葉にするだけなのだ!」
「ふ、ふたりとも……応援してくれてるの?それは??」
トトとテテはガーネットのような目を楽しげにキラッと光らせた。
「セイラを見るのがおもしろいだけなのだ!」
「答えのでないことは嫌いなのだ!いい加減だすのだー!」
二人かからかう……と、同時に心配もしてくれてるのだろう。
私は学園にいても淡々と過ごし、仲の良い友達とキャッキャ言うタイプではなかった。誰にも必要とされない、愛されない……そんな空虚な思いをずっと抱えて、日々過ぎていくのを待つばかりだった。今となれば、もっとお祖父様と話したり自分がやりたいと思うことを自分からみつけに行ったりすれば、よかったのだと思う。
「できるなら過去に戻ってやり直したい……」
『は!?』
ブクブクと私は肩まで浸かる。トトとテテがなんでそんな結論になったのだっ!?と騒ぐ。
柚子をもう一つ私はお湯の中から、拾って手の中で弄び、はぁ……とため息を1つついてから香りを楽しんだ。
トトとテテは工房に帰り、ジーニーは早めにお風呂から出て、仕事があると言って帰ったらしい。リヴィオと二人で雪明りの中を歩いていく。
月の夜に歩いたことを思い出す。そうだ。私はあの時、気持ちは決まっていたのだ。リヴィオに気づかれないように返事をした……つもりだった。
「あのね……」
「なんだ?」
静かな冬の夜。
小声で言ったはずが、自分の声がやけに大きく聞こえる。
「や、やっぱりなんでもないデス」
無理!無理よ!前世は日本人。言葉にするのは苦手なんです。察してください文化よ!
何だそれと首を傾げるリヴィオ。
「こたつや柚子風呂も日本のものなのか?」
「そうよ」
へーとリヴィオが言う。
「オレが『コロンブス』に入って、セイラにとってきてやるよ。お望みの品を……次の航海に行ってくる」
……え!?私の思考が止まった。
「いやいや…いいです!危ないから、行かないで!」
慌てて思考を起動する。
「欲しい物あるんだろ?」
「我慢できないものではないのよ!?そんなわがままじゃないもの!」
「たまにわがままでもいいさ。ずっと我慢してきてるだろ。オレ、ほんとは知っていたんだ。学園の休暇に入るとき、みんなを見送ってきたセイラがいたことを……小さい頃からずっと寂しいんじゃないかと思っていたが、何もできなかった」
そう言ってリヴィオは私の頬にかすかに触れた。カァっと頬がほてる。
「えーと……」
言葉に詰まる。嬉しいのか恥ずかしいのかよくわからない感情だ。もっと言葉にして、うまく伝えられる自分なら良いのに。
……私には愛してもらえる自信がない。それがこんなに臆病になる。
『黒猫』はきまぐれだ。そしていずれ人はいなくなる。深入りしないほうがいいのだといつも傷つかないように、心のどこかで警鐘が鳴らしている自分。
「戻れるなら時間を戻したい。辛い思いをしていると気づいていた……何もできなかった。ごめんな」
こんなこと言える人だっただろうか?
リヴィオの吐く息が白い。
ここ数年で随分と大人びてきた彼は…まだ大人になれない私の幼いところを認め、待っている。
「リヴィオは悪くないわ!私がっ…………」
そこで途切れた。私は気づくと……こたつでうたた寝していた。リヴィオも幸せそーな顔で寝ていた。
え?どこからどこまでが……夢だったのだろうか?
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