鉱石オタク
スタンウェル鉱山では『ボーナス!ボーナス!』そう言って、鉱石を掘り当てることを楽しんでいるらしい。楽しく仕事できるのは良いことである。たとえ、それが報酬のためだとしてもだ。
「いやぁ、ほんとに皆さん、毎日、やりがいがあるって言って、仕事してますよ!」
「久しぶりね。レイン、山の調査をありがとう」
「いえいえいえ!お礼なんて逆に申し訳ないです。お給料を貰えて、山で鉱石をじっくり調べられるとか、助かります!」
相変わらず低姿勢の彼は私のお礼の言葉に恥ずかしそうにモジモジする。
そして持ってきた石をテーブルに大事そうに置いていく。
「なんだ?これ?魔石じゃないよな?」
リヴィオが黒い石を手にとって見ている。白っぽい石、砂色の石、緑がかった石などレインは並べていく。
「あのっ……丁寧に大切にその子たち、扱ってあげてくださいよ?」
その子たち??リヴィオは何かを察して、そーっと元の位置へ石を戻した。
「この石は山の頂上にいたトップルちゃん、こっちは川の下流にいたエバーリバーくんで……」
「ちゃん!?くん!?……そ、それ、ホントの石の正式名称ではないわよね?」
「そうです。でも名前つけてあげるとニコニコ笑ってるんですよ!この子はグリーンベルちゃんって呼んであげてください」
見えるの!?表情が!?
私は言葉を声に出して、それ以上突っ込んで聞く勇気を持てなかった……。
「えーと、セイラはこれでなにするんだ?」
リヴィオは鉱石を愛おしそうに撫でているレインからスーーッと目を逸らし、私に聞く。
「スタンウェル鉱山にある石を岩盤浴に利用し、鉱山温泉の目玉にできないかと思ってるのよ」
レインがニコニコと嬉しそうに私の話を聞いて笑う。
「セイラさん!良いところに目をつけられて……鉱石ちゃん達も役立つことを喜んでますよ!」
こ、鉱石の気持ちもわかるの!?リヴィオはそれ以上レインに聞かないことにしたらしい。私に尋ねる。
「そもそもガンバンヨクってなんだ?」
「えーっと、温められた石の上に寝て、サウナより暑くないところでジワジワと汗をかくのよ。すごくリラックスできるわよ」
『サウナ』と聞いてパッと嬉しい顔になった。彼がひそかにサウナにハマっていることを私は知っている……。
「へーっ!それはいいな!オレ、試してみたいな」
「サウナほど湿気もないから、ゆっくりと寝転んで居られるし、石の種類によって効能も違うから、自分の体に合う効能の石を見つけるという楽しさもあるわ」
ウンウンと頷くリヴィオ。金色の目が期待している彼は初めて見た。
「岩盤浴には筋肉をほぐしたり、血行をよくしたり、冷え性を改善する効果もあるから……」
「身体を鍛えた後に入りたいなぁ。早く設置しよーぜー!!」
珍しく浮かれ気味のリヴィオを見て、私も嬉しくなる。髪飾りのお礼をずっと考えていたのだが、思い浮かばなくて……本当はサウナ好きのリヴィオが喜ぶんじゃないかな?と思って作ろうと企画した岩盤浴なのだ。それについては口には出さない……温泉旅館としても悪くないことだし、さりげないお礼だ。
「お風呂を広げて、一角を改装し、併設してみるわ。好評だったら、将来的に鉱山温泉の目玉にしようと思って」
レインは手に持っていた石を眼鏡の奥の目でじっとみつめて言った。
「いろんな石の種類で用途があれば、魔石が取れなくなった貧しい山の民も少しは楽な生活ができますよね?」
「そうねぇ。何かしら、お役に立てると良いのだけど。……もう1つ頼んでいたやつも今日、早速、お客様にお出ししてみるわ」
「は、はいっ!」
一度来られて気に入ってもらえたのか、コパン夫妻はニヶ月に一回は宿泊されている。とても優しい夫妻で、私達にいつも感謝の言葉をかけてくれる。
「いつもありがとうございます」
私は食事の席で挨拶へ行く。老夫婦は朗らかにいえいえと笑い、場は和やかな雰囲気であった。
「本日、お料理を1つサービスさせて頂きました。新作で、良ければ感想など頂ければと思います」
石のプレートの上でジュワジュワ音をたてて焼けるお肉と野菜。
「あらまぁ!石で焼いているのね?凄いわねぇ」
目を丸くし、驚きを隠さずに言うコパン夫人。
「石は熱くなっておりますのでお気をつけ下さい。焼けたらタレを漬けてお召し上がりくださいね」
私の説明を聞きながら、焼き具合を楽しそうに見ている。
「ほー!これは面白い器の発想ですねぇ。初めて見ましたよ」
肉汁がポタポタと落ちてくる。タレに着けるとジュッといい音がした。美味しいですよ。美味しいですねと夫妻は互いの顔を見てニコニコする。
「石のこんな使い方があるとは知らなかったね」
「本当ですね。ここのお料理には驚かされてばかりですねぇ」
コパン夫妻はこの石の皿が気に入って、家にも欲しい!と言うが、まだ試験的なので、また商品化し、売れるようになれば渡すことを約束した。
お正月遊びの時も思ったが、このコパン夫妻はなかなか遊び心がある。このお皿は一般家庭では使いにくい気がするので、家で食べるならステーキ皿の鉄板のようなものの方がいいだろうか?
「おやおや、悩ませてしまったね」
私の表情を見て笑うお爺さん。
「あ、いえ、大丈夫です。お家でもお楽しみ頂ければとは思います!」
「無理しなくていいのよ?ごめんなさいね、つい……面白いものがあると欲しくなってしまって……」
申し訳無さそうに言うコパン夫人。
「孫達にも食べさせてあげたいわね」
「そうだね。それはいい考えだよ。きっと喜ぶよ」
「みんなで花葉亭に来るのもいいわねぇ」
「誘ってみるかい?」
二人の会話も盛り上がっている。スタッフがお酒足りますか?と尋ねると、少しくださいと追加し、ほろ酔い気分で楽しそうであった。
私も歳を重ねていき、こんな夫婦のようになれたら良いなと目を細めて微笑んだ。
…誰と!?私は結婚しない主義だったはずだ。そんなほのぼの夫婦の未来を思い描くなんてどういう気の迷いよ。廊下を歩きつつ頭の中でグルグル考えが巡る。
レインのいる部屋へ行くとリヴィオしかいなかった……考えていたことが顔に出ていた気がして、思わず赤面し……開けた扉をバンッと閉めた。視線が合わせられない。しばし間を置きたい。
「は!?なんだ!?その反応!?」
内側にいるリヴィオの方は意味がわからず、困惑している。
「何してんの?」
リヴィオが首を傾げながら扉を開けた。私はコホンと咳払いし、なんでもないわと言うと部屋へと入り直した。
「…あのなぁ。変だぞ?」
「な、なんでもないわよ。それよりレインはどこへ?」
「風呂へ行ったぞ。サウナの話をしていたら、はいってみたい!と走っていった」
なるほど……リヴィオはサウナの普及に一役買っているなぁ。
私はテーブルの上の石を触って見る。気の所為かもしれないが、ほのかに温かく感じる。岩盤浴、楽しみだ。
「前から思っていたんだが、あのコパン夫妻、どこかで見たことねーか?」
ん?この質問は聞いたことあるような??
「そういえばジーニーにもそう聞かれたわね」
私は記憶を辿る。しかし覚えはない。
「お客様としては新年にいらした時が初めてだと思うのよ。私の記憶に無いというなら……学園時代かしら?それともリヴィオとジーニーが会ったことあるんじゃない?」
リヴィオがオレもあんまり人の顔、覚えねーしなぁと呟いている。
「身なりは良いわね。どこかの貴族なのかしら?品も良いし、仕草も優雅なのよね。スタッフが言うには王都周辺に住んでいるみたいなんだけど……」
どっかの貴族かもなとリヴィオは言う。
「社交界にオレもジーニーも少しは出ていたから、その時にでもチラッと見たんだろうな。感じの良い夫妻だが、あまりグイグイ前へ出るタイプじゃねーしな」
「私はあんな夫妻の雰囲気、好きだわ」
「オレもコパン夫妻は嫌いじゃねーけど……フーン。セイラはあんな夫婦になりたいんだな。オレも悪くないと思うぞ」
私の手から石が滑り落ちてカツーンと音を立てた。
その瞬間、バタバタと廊下を走る音。バンッと勢いよく扉が開き、汗だくのレインが入ってきた。
「ちょっ!ちょっと今!石を落としませんでしたか!?」
私がえっ!?ごめんなさいと拾う前にバッとレインが拾う。
「ああああ!かわいそうに!グリーンベルちゃん!!痛かったでしょう!?気をつけてくださいよおおおお」
聞こえたの!?石の音が!?地獄耳すぎない!?手の平に入る大きさの石を落とした音が聞こえたの!?走ってくる足音からして扉からかなり離れていたと思うのだが。しかも部屋はある程度防音になっているのだ。凄すぎる。
えーと……ごめんなさい!と焦って謝罪する私。いや!そもそもリヴィオも悪いでしょ!?と助け船を求めて見ると、リヴィオはレインに言った。
「レイン、おまえ、ありえねーっ!!………サウナの後に水風呂に入ってねーだろ!?やり直してこーいっ!」
……えっ!?そっち?……サウナに厳しい。
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