新婚さんの家探し!?

 ジーニーは学園があるので帰っていった。私とリヴィオは残って求人募集と、家電製品の売出し用の新店舗の家と王都用の家探しだ。


 まずはニホンで言うと、ハローワーク的な雇用局へ行き、雇用条件を記入し登録した。ここは手続きをするだけで、スムーズに済んだ。


 次は久しぶりに会うことになった……。


「お久しぶりでーすっ!」


 新聞記者のジェシカが挨拶した。社内がガヤガヤ賑やかなので、声が必然的に大きくなる。


「新聞に広告や求人を出すことを教えてくれてありがとう」


 いえいえっ!と愛嬌のあるオレンジの目をチカチカさせて楽しそうに言う。


「スポンサーゲット!って感じです。王都新聞も他社に負けられません。けっこう新聞社はありますからね」


 ジェシカ作の『サニーサンデー!春の新作アイスパフェ!今なら10ポイントでサニーちゃんのグラス付き』の広告と『求人募集!今、話題のナシュレ領であなたも楽しく働いてみませんか?移住も好評の声が多数!』など書かれた原稿に私は目を通す。


「お、お茶をどうぞっ!」


 カタカタとお盆を持つ手を震わせながらお茶を持ってきてくれた。リヴィオは薬でも盛ってんのか?と失礼極まりないことをボソッと言うとヒィッとおかっぱの可愛い女の子は飛び上がる。


「彼女をいじめないでくださいよっ!緊張してるんです」


『なぜだ?』『なぜなの?』


 私とリヴィオの声がハモる。ジェシカが目を丸くした。


「公爵家とバシュレ家ということや起業して成功していると……世間ではちょっとした有名人なんですよ!?」


 そ、そうなの!?私とリヴィオは顔を見合わせた。知らないところで噂というものは広まっていくものだとは思うが、そこまでとは思わなかったのだ。

 おかっぱの可愛い娘は一礼し、頬を赤らめて去っていく。


「さて、雇用条件とサニーサンデーの広告はこんな感じでいいですか?」


 原稿を渡して見せてくれる。ジェシカは仕事ができる感じで、かっこ良くテキパキとしていた。

 ……一度だけお茶を原稿に、こぼしかけて、ギャッと言った以外は問題なかった。


「じゃあ、これでお願いします」


 私が頼むとわかりましたっ!とはりきって返事をするジェシカ。

 これで求人募集はできた。

 次は……と。


「新居探しの前に昼飯食べよーぜー!腹減ったー」


「そうね。もうこんな時間なのね」


 リヴィオが行きたいお店があるんだということで、ついていく。

 着いたところはニホンで言うとマック的なお店だ。『クイーンバーガー』と看板が目立つように大きく書かれている。


「確か、このお店は学園都市にもあったわよね」


 賑やかな店内、テラス席があり、広く感じる。パンに具を挟み、手で食べる軽食的な食べ物が売られている。


「山盛りポテト1つ、ローストビーフと玉ねぎのを1つと揚げたチキンとキャベツのを1つ。冷たい炭酸水」


 うーんと……と私が悩んでいると先にリヴィオは手慣れた感じで注文する。


「慣れてるわね」

 

「オレとジーニーは学生時代、よく行ってたぞ」


 なるほどーと納得する。私はあまり行ったことがない。長く学園都市にいたが、数えられるくらいかもしれない……あまり外でご飯を食べず、ほとんど食堂だった。


「イカリングとタルタルソースのを1つと冷たいお茶をお願いします」


 かしこまりましたー!と明るく笑顔で店員さんが注文を受ける。

 私とリヴィオはテラス席の隅に座った。


「あまり私は行ったことなくて……手で持ったりかぶりついて食べるのが、はしたないとか言われるし」


 本音ではなく、一般常識的なことを言う私。


「……なんだ。だから断わられたのか。覚えてるか?オレが誘ったこと」


「そうだった!?覚えてないわ」


 マジか…と微妙な顔つきするリヴィオ。トトとテテにはよく誘ってもらったけどなぁ。でもあの頃の私なら行かなかったこともわかる。『めんどくさい』と一蹴していただろう。リヴィオとジーニーに関わると目立ちすぎるし、他の女の子たちから攻撃されたくない。


「今なら、いいのか?この店に来たが?」


「淑女ではあり得ないけど、良いでしょ。商売にはリサーチも大事なのよって言い訳できるもの」


 本当はそんな問題じゃなかったので、クスクスと私は可笑しくて笑う。淡々と過ごしていた学生時代とは私は随分と変わった。旅館業をしてから、人にも目を向けることができるようになってきたことが大きい。


 何よりも!マック的な物をずっと食べたかったから、実はこのお店のチョイスはかなり嬉しい!


「ポテト食っていいぞー」


 店員さんがおまたせしましたー!と持ってきてくれた熱々の揚げたてポテトを私にも勧めてくれる。カリカリのポテトが山盛りになっていて香ばしい香りがしてくる。


「ありがとう…こ、これは!似てる。マックポテトだわ」


 手に持ってジッと見た。ふとあることに気づく。マックポテトと細さと形が似てる!口に入れると、揚げた芋の味がふわりとし、時々カリッとした部分があり、美味しさを増してくる。塩加減も良い。


 リヴィオが、あっちの世界の店かーとポテトを食べつつなんでもないことのように言う。


「美味しい!偶然なのかしら。ポテトの形の美味しさは万国共通?そんなことあるの??」


 疑問を残したまま、首を傾げる。ニホンではいろんなお店でポテトの種類があり、形がそれぞれ違う。その中でも、マックポテトが私の好みだった。この世界で再現率高めのフライドポテトを食べれるとか!ラッキーだった。ハマりそうだわ。エスマブル学園時代の私に言いたい!損してるよ!と。

 ガサガサとリヴィオは包んである紙を取り、すでに一口目を噛じる。


「料理長が作る料理はもちろんうまいんだが、たまに食いたくなるんだよなぁ」


「わかるわ」


 深く頷く。

 私もイカリングとタルタルソースが挟まったパンを食べる。揚げたてのイカリングが熱々で卵と玉ねぎ、マヨネーズ味のソースと合う!美味しすぎる。


「このお店、ナシュレにも来てくれないかなぁ」


「誘致してみればいいんじゃないか?」


 リヴィオも乗り気だ。このままナシュレの街が発展していけば誘致できるかもしれない。


 学校帰りに友達とマックに寄って話し込みすぎて、遅くなり母親に叱られた事があったなぁ。あれはあれで楽しかった。


 私とリヴィオは不動産会社の人と一緒に王都の物件を見て回る。細身のひげをはやした男は明るく愉快そうに話す。


「はじめまして〜!担当させてもらいマース……いいですネ!幸せなオーラ出てますヨー!」


 幸せオーラ?なんかの能力者なの?人に見えないものが見えてるの!?お腹もいっぱいだし、確かに満足してる。幸せではある。

 ハイハイ!と急き立てられ、笑顔でコチラどーぞー!と言われる。用意してくれた馬車に乗り込み、出発した。


「どうですー?この家は築10年。そーんなに古くありませんし、お庭もついてお買い得ですヨ!」


「小さくないか?」


 リヴィオが言う。確かにこじんまりとした一軒家だ。これでは従業員達も泊まろうと思ったときに不便だ。


「もう少し部屋数ほしいわね」


「あっ!そーでゴザイマスね!やはりお子さんがいると、お部屋がいりますヨネ!」


 お子さん?あっ!そうね。お子さん連れの従業員もいるかもしれない。私はハイと答える。


「こちらはどうですカー!?部屋数もアリマスヨ。キッチンも広めに作られていてお料理もしやすいデス。大通りにも近いデスからお買い物にも便利デース!愛を育むのにふさわしい家じゃないデスカー!?」


 2軒目は2階建ての家だった。

 ん??愛って言った?なんの愛だろう?

 室内を見ていたリヴィオは首を傾げる。


「なんか……やっぱり狭いよな?」


「ええええっ!?コレもですカー!?これ以上となりますと、お金がカーナリッ!かかりますが、大丈夫デスカ!?!?」


「いくらくらい?」


 指で3本……いや、無茶じゃないかな。まさかそんな値段でお屋敷を買えるとは思ってない。私は手を広げて、もう片手をつけて、6本にすると相手は目を丸くした。くるりんとなってるひげがピーンと伸び、驚きの声を上げた。


「ヒエッ!?わ、わかりマシタッ!」


 3軒目に来たときにようやく私達は違和感を感じた。


 リヴィオが思っていたより小さい屋敷だが、まあまあだなと言うと相手がポツリと言った。


「新婚さんが住むには大きすぎると思うんデスガ…」


『新婚!?』


 私とリヴィオの声がハモる。それは私達のことですか!?


「先月、ご結婚されたマクレガー様ですヨネ?お二人とも美男美女ですし、可愛いお子様が産まれることデショウネ!出産される予定のお子様と過ごす家を捜してるとお聞きシマシタ」

 

 固まる私とリヴィオ。結婚!?こ、こども!?!?そそそそんな予定ないですけども!?!?

 混乱しつつある頭の中を整理し、深呼吸して気持ちを落ち着かせてから声をかける。

 ……そうだ。名前違ってたわ。


「あ、あの……もしかして、なんですけど……」


「なんでショウ?旦那様はこの家の大きさでご満足いただけマシタカ?もー!お子様何人いてもオッケーですネッ!奥様は他にご希望やこだわりなどアリマスカ?お二人の愛の巣にはピッタリ…………」


「ちょっ!ちょっと待て!不動産会社の名前って……」


 リヴィオが驚いて、相手の言葉を遮る。おずおずと遠慮がちに自分の会社の名前を口にしてくれた。


 数秒の間。


「お店間違えてるーーっ!!」


 私は叫んだ。

 公爵家の馬車を降りて、お昼を食べた『クイーンバーガー』から歩いて来たのだ。私とリヴィオは喋りながら、看板を確かめずに不動産会社に入った。


………新婚さんにはさすがに見えないでしょうよ!と思いつつ、間違えたことを謝った後、仕切り直して予約してあった会社で無事に物件をみつけたのだった。





 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る