第3話 妹は激怒した

 なぜセリヌンティウスは死ななければならなかったか。


 私が聞いた話はこうだ。


 私の結婚式の準備をするため、十里離れたシラクスの市に出掛けた我が愚兄メロスはそこで邪智暴虐の王の噂を聞いた。


 疑心暗鬼に駆られた王は無闇に人を殺すという。それを聞いた兄は「呆れた王だ。生かして置けぬ」という迷言を言い残し、王宮に乗り込んだらしい。


 まあ……ここまでは百歩譲ってさすが私の兄だと言ってあげてもいい。私の兄たるもの邪悪には人一倍敏感であってもらわねばならない。


 しかし問題なのはその後だ!


 兄はあっさり捕まって殺されかけたところ命乞いをして一時的に許され村に帰ってきた。人質として竹馬の友セリヌンティウスを残して。


「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい」


 以上は兄が王に言ったという言葉であるが……ヒドすぎるっ!可哀想なセリヌンティウス!!


 兄は約束を守る気などこれっぽっちもなかったに違いない!!


 そもそも兄が3日でシラクスと村を往復できるはずがない!!


 笛を吹き羊と遊んで暮らしていただけの兄に十里を往復してその上結婚式まで挙げさせるバイタリティがあるはずもないのだ!!


 確かにあの日、兄は急いで村に帰ってきた。


 あれ、お兄ちゃんにしては結構帰ってくるの早いな〜とは思った!!


 しかしあれは一刻も早く王宮から逃げたかっただけだ。実際帰ってきた兄は結婚式が終わるまでぶっ倒れていた。


 結婚式の佳境でちょっと起きて人を疑うことはどうたらとか、なんかいいことを言っていた気がするが忘れてしまった。


 結婚式の次の日の朝、兄は姿を消していた。もしかしたら一応王宮に戻ろうとしたのかとしれないが、体力がもったはずがない。


 王も王だ。


 なぜよりにもよって兄を信じたか。見た目で気付け!ブヨブヨの腹を見て気付け!疑うべきやつを疑え!!


 まあ、そもそも帰ってくるはずがないと思って兄を開放したのだろう。


 そうなるとやはり可哀想なのはセリヌンティウスだ。あの人だけは兄を信じていたに違いない。……いや、断われ!!人質断われ!!


 お人好しな人、そういうところに私は惹かれたのです。まあ昔の話ですけどね。


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