第38話

 僕は学校が始まる直前までユキナと校門前で手をつなぎ学校に入った。

 教室に入るとみんなに囲まれる。


「ユキナ先輩といつから付き合っていたんだ?」

「最近付き合い始めたばかりだよ」


「何でモブのフリをしてたの?」

「今まで髪をセットしていなかっただけだよ。これからはそういう誤解をされないように髪をセットして登校するよ」


「ユキナ先輩のどういう所が好きなの?」

「頭が良くて優しい所かな」


「ユキナ先輩と普段何してるの?」

「付き合ったばかりだからこれからだよ」


「ユキナ先輩はモブのイケメンを知ってたの?」

「どうして校門の前で手を繋いでいたの?」


 話が長い。

 僕はユキナとの昨日の話し合いを思い出す。



 昨日僕の部屋でユキナと今日の事について話し合った。


「明日は校門の前で私とシュウが手をつなぎましょう。学校が始まる直前まで続ければみんなに2人の関係が浸透するわ」

「そんな事をしたら、スマホで撮影されるよ」

「撮影してもらうのよ。シュウ、こういうのはね、隠さずに皆にPRした方がいいわ。そうしないと長引くわよ」


「恥ずかしい。絶対恥ずかしい思いをするよ」

「それは私も同じよ。でも、こうしないと長引くわよ。シュウは注目されるのを嫌うわよね?でも、こうした方が後が楽よ。更にシュウのモブ偽装も明日から解除しましょう」


「手を繋いで、モブモードも解除するのは抵抗があるよ」

「でも、ずっと偽って生きていくのは苦しいわよ」


 確かに、下手に隠しても何回も『前髪上げてよ』と言われるだろう。

 隠せば隠すほど見たくなるのが人の心理だ。

 ならオープンにした方がいいというのは分かる。


 それに、明日モブモードを解除しないと、解除するタイミングがつかめないまま高校を過ごし、色々言われ続けて卒業まで過ごす事になるだろう。


「分かったよ。後は、質問の回答だね」

「そうね、隠さずに、シンプルに答えた方がいいわね」

「僕もそう思う」


「ふふふ、本当に付き合っているようね」


 僕はユキナにドキドキしながら話を進めた。




 そして朝になると、僕は髪をセットして身だしなみをチェックする。


「シュウ、少しだけネクタイが曲がってるわ」


 そう言ってユキナが僕のネクタイを直した。

 ユキナの石鹸の香りで僕は興奮した。




 僕とユキナは学校の校門前でお互いに向かい合う。

 そして両手で手をつなぐ。


 始業時間の1時間前からそうしていた。

 最初は通りかかる生徒は驚いてそのまま通過していく。

 でも、だんだん人だかりが出来て、人の輪が大きくなった。


 1回だけ学校の先生が話しかけてきたけど、すぐに校舎に戻っていった。

 田舎の学校の校門に入る前だったのが良かったのだと思う。


 学校が始まる少し前になるとユキナは手を振って駅の方に歩いて行った。


 ユキナを見送り教室に入ると僕は今みんなに囲まれている。

 でもすぐに先生が入って来る。

 その為に、ギリギリで教室に入ったのだ。


「早く席につきなさい!ほら早く!」


 こうしてホームルームが始まった。

 その日は質問を受け続けた。




 そして、僕は疲れて学校から帰宅した。

 家に戻ると父さんが話しかけてくる。


「車に乗ってくれ」

「何かあるの?」


 父さんではなくヒマリが車に乗りながら答えた。


「今日から私もルームシェアでここに住むの」

「……え?」


 ヒマリが僕の左の席に座る。


「あれだ、北街の不審者に声をかけられてな、危険だからここに住むことにしたって話だ」


 父さんは車を走らせながら言った。


 ヒマリが黙って僕の左手を握った。

 いつものヒマリなら絶対にしない行動だ。

 僕はヒマリを見るけど、ヒマリはそっぽを向くように窓を見続ける。


 僕とヒマリは無言で手をつなぎ続けた。

 朝はユキナと手をつなぎ、夕方はヒマリと手をつなぎ続ける。


 ここまで手を繋いだのは、人生で始めてかもしれない。





新作投稿のお知らせ


『ゲーム序盤で死ぬモブ炎使いに転生したので、主人公に先回りしてイベントをクリアしたらヒロインが俺について来た』


本日投稿します。

よろしくお願いします。

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