第37話

「ごめんなさい、話が長くなってしまったわ。シュウ、お話があるのよね?」

「そうだね。今僕はラブレターが来たり、クラスの女子からスマホの連絡先を交換するよう言われて明日まで待って貰ってるんだ。それで、ユキナに付き合って欲しいんだ。ユキナの恋人として僕を選んでください」


「シュウ、とても嬉しいわ。でも、私が一番好きで選んでくれているのかしら?」

「そ、それは、正直、ここにいる4人が好きで、誰が1番か分からない」


「ふふふ、正直に答えてくれて嬉しいわ。でも、付き合っているフリじゃなくていいのかしら?


 今のシュウの状況では、先生であるユヅキと恋人になることは出来ないわ。


 妹のメイとそういう関係でいるとも言えないわね。


 そして、学校でメイと並んで人気のあるヒマリさんを選んでも、男子から嫉妬されるわ。


 でも私は学校を卒業しているのだから、ヒマリを選ぶほど被害は多くないわね。

 シュウにとって私を選ぶのが最も効果的なのよ」


「利用する形になってごめん。でも、ユキナをよく思っているのは本当なんだ」

「そこを責めているわけじゃないのよ。私はむしろ都合がいいと思っているわ。でも、シュウの答えは、高校の卒業の時に聞きたいわ。きっとシュウのお母さんもそう考えている、と思うわ」


「母さんの考えが分かるの?」


 ユキナは首を横に振った。


「あくまで予想よ。本当に何を考えているかは分からないわね。それに話が逸れているわ。今は明日のシュウの事よ。私と付き合っている事にしましょう。いいわよね?」

「よろしく、お願いします」


「ヒマリさん、本気を出しましょう。ヒマリさんが本気を出せば、私は選ばれないかもしれないわ。違うわね、ヒマリさんが本気を出さなくても、私じゃない誰かを選ぶ可能性は高い。でも、私はそれでも、今の優位を半分だけ貰ってシュウと付き合っているフリをするわ。少しでも、シュウと一緒にいたいのよ。シュウが卒業するまでの短い間だけでもね」


 ヒマリは真剣な顔でユキナの話を聞いていた。

 ユキナは顔が真っ赤になり、手で顔を仰ぎながら食事を黙々と摂っていた。



「今日は私が先にシャワーを使うわ。体が熱くて落ち着かないのよ」


 食事が終わると、ユキナは珍しく一番乗りでシャワーに向かった。

 それまでずっと顔が真っ赤で、何度も手で顔を仰いでいた。




【ヒマリ視点】


 ユキナさんはやっぱり凄い。

 私はユキナさんのようになりたいと思っていた。


 何でもできて、頭が良くて、優しくて、でも少し可愛い部分もある。

 そんなユキナさんが本気を出すと言った。


 私は、私も遠慮や恥ずかしさを言い訳にして逃げていた。

 ユキナさんはその気になればシュウと付き合って結婚することが出来たのに、私や皆に胸の内を明かして、シュウを気遣って、私も気遣って、その上で本気を出すとみんなに告白した。


 ユキナさんは本当に優しい。

 だから、だからこそ、私は本気のユキナさんが怖い。

 シュウの心を、ユキナさんだけものにできそうだから。


 ユキナ先輩は、私に気を使わず、私に何も言わない方が有利だと分かっていて、それでも私に言った。

 ユキナさんは、シュウを恋人にしてそのまま結婚することが出来た。

 でも、そうしなかった。

 そうしたいと思ったはずなのに、独占しなかった。


 ユキナさんに余裕があるわけではない。

 自分が選ばれないかもしれないと言っていた。

 私なら、告白するならシュウを独占しようとしていたと思う。


 私も、頑張ろう。


 私から動こう。


 前に進もう。


 その日はみんな普通に過ごして就寝した。




【次の日の朝】


 私が目を覚ましてリビングに向かうと、シュウとユキナさんは手早く出かける準備を整えていた。


「シュウもユキナさんも準備が早い」

「今日は学校よ、ふふふ、皆に私とシュウが付き合っている事を印象付ける必要があるわ」


 そう言って2人は早く出かけて行った。


「メイとユヅキ先生は2人が何をするか知ってる?」


 2人も首を傾げていた。

 

 私が学校に向かうと校門の前に人が集まっていた。

 人の輪の中心にはシュウとユキナさんがいて、2人は手をつないでいた。


 ただ、手を繋いで見つめ合っているだけ。

 

 2人とも顔が赤く、ずっとお互いに手を握ったまま止まっている。

 そしてシュウは髪をセットし、背がすっと伸び、モブ偽装を解除していた。


 それだけで周りのみんながスマホでその様子を撮影する。

 これで、ユキナさんとシュウが付き合っている事は学校中に広まるだろう。

 シュウに告白する者もいなくなる。


 私は、シュウのお母さんに連絡を取った。

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