第39話

 ヒマリの荷物の運び込みが終わると、20時過ぎになった。

 母さんがみんなを飲食店に呼び、家に住む全員がテーブル席につく。


「美人四天王が全員ルームシェアしてくれて嬉しいわねえ。シュウ、そう思わない?」

「美人ばかりだねえ。所で母さん、何を考えているの?」


 僕は母さんの目を見る。


「もう、シュウは考えすぎよ。食事にしましょう」


 母さんは僕の質問を受け流して食事を始める。

 隣に座る父さんと楽しそうに話をする。


「母さん、僕の話を聞いて欲しんだ」

「あら、早く食べないと食事が冷めるわよお」


「食べながら話すよ。母さん。もしかして、僕が卒業すると同時に、僕が美人四天王の誰かと結婚して、子供を産むことを期待してないかな?」

「ふふふふ、何を言っているのかしら。もう、考えすぎよ」


「昨日、高校を卒業する時に僕が誰を好きか選ぶ話になったんだ」

「話は聞いているわ」


「その時がきっかけで思ったんだ。父さんも母さんも高校にいる間は妊娠させないようにと言ったけど、高校卒業したら僕が誰かを妊娠させて欲しいんじゃないかって。


 そこから色々考えたんだよ。

 父さんと母さんは子供が出来ないって言ってたよね?

 子供が出来ないならどうするか?

 僕と誰かの子供を産んで孫が出来ればいいと、母さんなら考えるだろうね。

 メイは男が苦手で彼氏が出来る気配が無い。


 となれば消去法で僕と誰かの子を産んでもらうのが都合がいいよ。


 今までの行動もおかしいと思っていたんだ。

 まるで僕と誰かがシテしまいそうになる状況を作り出しているように思えるんだ。


 母さんは僕が興味ありそうな、性格も見た目も良くて、健康な女性、母さんや父さんとの相性も良い4人をルームシェアさせて、僕が卒業と同時に誰かを選んで結婚するよう誘導しているんだ。


 母さんと父さんから教わった事だけど、美人に見える人は何が他の人と違うかの話をするよ。

 答えは美人に見える人は健康で子供を産みやすい人の事なんだ。

 僕たち男はそういうのを本能レベルで見極めているって父さんと母さんが言ってたよね?


 例え僕と1人の関係がうまくいかなくても他の3人の誰かと結婚して、すぐに子供を産むように仕向けているって思ったんだ」


 僕は水を飲み、食事を摂りながら父さんと母さんを見た。


「もう、考えすぎよお」

「それなら、僕がもしこの中の誰かと結婚する事になっても、しばらく子供は必要ないよね?まだ二十歳にもなっていないのに子供を生むのは早いって考えるのが一般的だからしばらく待つよ」


「それは良くないわ」

「子供はいらないんだよね?ならすぐに必要無いよ。今の時代高校卒業と同時に結婚して子供を産むのはこの田舎でも早いって思われるよ」


「この日本は今危機に瀕しているわ。奨学金を使って大学を卒業して、奨学金を返済する頃には30前後になっているわ。真面目な子は奨学金を返してちゃんとしてから結婚しようと考える子が多いわね。でも、そうすると、子供を産むのに苦労するわ。今の状況や価値観は子供を減らすためにあるような物よ」


「なるほど、でも僕は大学に行かないよ。奨学金の話は気にしなくていいよね?」


 母さんとはきっちり話をする必要がある。

 母さんは感覚で話をするから、すぐ話が逸れるけど、ここはきっちり話をしておく。

 そして父さんを見つめる。

 父さんならまず初めに結論を言う事が多いし、僕と話が合いやすい。


「分かったわ。認めるわあ。母さんはかわいい孫が欲しいと思っているわ。だから高校を卒業したらすぐに子供を作って欲しいのよ。また赤ちゃんを可愛がりたいのよ。もちろん子育ての為に全力でサポートするわ」


「シュウ、あまりきつく言うな。母さんも子供が出来なくて悩んでいるんだ」

「母さんの子供が出来たら孫はいらないのかな?」


「そうはならないわあ」

「どう転んでも孫は欲しい。それが父さんと母さんの願いだ」


 今まで黙っていたメイが口を開く。


「ねえ、私とお兄ちゃんは兄弟なのに結婚するのはおかしいよ。お兄ちゃんと3人の話だよね?」


「あら、話していなかったわねえ。メイとお兄ちゃんは義兄弟だから結婚できるのよお?」

「そうなの!」

「そうだぞ。シュウと結婚出来る」


「確かに黙っていたのは悪かったわね。この中でシュウと結婚したくない人は手を上げましょう」


 誰も上げない。


「母さん、その聞き方はずるいよ」

「シュウの言う事は分かる。では、シュウと結婚したい人は手をあげてくれ」


 4人全員が手を上げた。


「シュウとの子供が欲しい人は手をあげてくれ」


 4人全員が手を上げた。


「父さん、母さん、致命的な問題があるよ」

「なんだ?」


「僕が誰にも選ばれない事も考えられるよね」


 父さんと母さんは笑い出した。


「ふふふふ、面白い事言うのねえ」

「くくく、その考えになるとは思わなかった」


「はあ、面白い。ねえ、シュウはユヅキ先生、それとメイとシテるわね?」

「そうだね」

「それなのに、まだ4人寄って来てシュウの取り合いになっているのよ?そこまで美人四天王全員がシュウから離れたくないのよ」


「でも、うまくいかない可能性はあるよ」

「シュウ、そうなってから考えればいい。今はそれ以前の問題だ。シュウが誰を選ぶかだ」


 全員が僕を見た。


「シュウ、今選べないのは分かるわ。でも、全員いる今、シュウが4人に対してどう考えているか知りたいわ」

「僕の考えを言うと、失礼な答えになると思うよ」


「それでもいいわあ。今のシュウの気持ちを言いなさい」


 母さんがまじめな顔で言った。


「正直4人全員魅力があって、誰と結婚できても幸せになれると思うよ。メイでも、ユヅキでも、ユキナでも、ヒマリでも、誰と一緒になれても幸せで、誰が1番かが決められない……差が、無いと言った方が今の僕の考えに近い、うん、差が無いが今の僕の気持ちだよ」


 どう考えてもクズ発言だ。

 でも、皆に嘘はつきたくないと思った。

 ここは、本当の気持ちを言おうと思えた。


「良かったわ。私にもチャンスはありそうね」


 そう言ってユキナはコーヒーを飲む。

 でもその手は少し震えていた。


「わ、私も頑張れば行けるかもって考えていいのよね?」


 ヒマリが僕に問いかける。

 きっと自信が無いのだろう。


「そうだね」


 ヒマリはほっと胸を撫でおろした。


「お兄ちゃん、今日は誰と一緒に寝る?体の相性も大事だよ?」


 メイの発言で急に場の空気が変わった。


「今日は一人で寝るよ」

「ふふふ、シュウ、主導権はあなたに無いのよ。誘惑されたら絶対に耐えられないじゃない。ふふふ」


「か、母さん、そんな事……」

「そんな事無いって言えるかしら?もし、シャワーを浴びていて、裸のユキナちゃんとヒマリちゃんが入ってきたら我慢できる?」


「耐えられないかもしれない」

「耐えられないのよ。ユキナちゃん、ヒマリちゃん、良かったわね」


 母さんは、ユキナとヒマリをけしかけている。

 でも、僕は何も言えないまま食事が終わった。



 僕はすぐに水のシャワーを浴びて自分の部屋に入る。

 気分が高ぶって抑えられなくなりそうだったからだ。


 ガチャリ


 美人四天王が入って来る。


「どうしたのかな?」


「「……」」


 全員が無言だ。


 そして、椅子に座る僕を取り囲む。


「なに?」


 メイが僕の口にキスをした。

 息が苦しくなるほど、キスが長い。



「はあ、はあ、な、なに?」


 今度はユヅキがキスをする。

 下を入れて、長いキスをした。

 メイの時よりキスが激しい。


 キスが終わるとすぐに口を開く。


「え?だから何なのか分からないよ」


 ヒマリが僕の上に乗ってキスをする。

 ヒマリは真っ赤で、それでも頑張って舌を入れてキスをする。

 ユヅキの時より、僕にまたがっている分、体の密着度が高い。


「はあ、はあ、待って。なにがなんだか、分からないんだよ」


 ヒマリのキスが終わると、ユキナが僕の太ももの上に乗ってキスをする。

 ユキナのキスは優しいけど、手で体を撫で回すように触って来る。

 うまい!


「待って、くれないか。はあ、はあ、なんなんだ?」


「誰のキスがうまいか勝負したよ。お兄ちゃん、むらむらした?」


 僕は全員を部屋から追い出した。

 あ、危ない、あそこが元気になる所だった。




 やっと静まった。


 ガチャリ


「お兄ちゃん、誰が良かった?」


 メイがドアを開けて覗き込む。


「……ヒマリと、ユキナかな」

「どう言う所が良かったの?」

「……体の密着度が良かった」


「そっかー」


 バタン


 扉が閉められた。


 な、何なんだ?

 メイはそう言う所があるから分かるけど、4人全員が来るのは予想外だよ。


『シュウ、主導権はあなたに無いのよ。誘惑されたら絶対に耐えられないじゃない』


 母さんの言葉を思い出した。

 僕に、主導権は無い。


 誘惑されたら絶対に抵抗できない。

 僕は思い知った。







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