第30話

「シュウは自分だけ仕事したって顔してるわねえ、ふふふ、おかしいわね」

「母さん!仕事したんだよ!」


「そうだけど、子供みたいな顔して、ふふふふふふ」


 メイを見ると、楽しそうに肉を焼いて食べていた。

 ユヅキも意外とたくさん食べてる、いや、ユヅキの素はそういう感じだった。


 僕は日陰に椅子を移動してそこで休む。

 

「お疲れ様ね」


 ユキナが椅子を持って来て隣に座った。


「ユキナ、今週は疲れたよ」

「ふふふ、メイは嬉しそうにお肉を食べているわ」


 ユヅキとメイの横で焼き肉を食べるヒマリは僕とユキナをちらちら見ていた。


「ユキナは食べないの?」

「皆が落ち着いたら食べるわ。その時に一緒に食べましょう」

「肉が無くなるかもよ」

「それでもいいわ。今は2人でのんびりジュースを飲んで話をしましょう」


 ヒマリの母さんが声をかける。


「ごめんねえ。私急に用事が出来ちゃって、ヒマリをよろしくね」


 そう言って車で帰っていく。


「ヒマリ、定期は持ってる?」

「うん、大丈夫」

「良かった」


 きゅうが食べすぎてうとうとし、ユヅキとメイがお腹を膨らませてこっちに来る。


「お兄ちゃん席変わって」

「私も休みたいの」


「ユキナ、行こう」


 僕のユキナは焼肉を食べに行く。


「2人で何話してたの?」


「ヒマリ、大したことじゃないよ」

「そう、大したことじゃないのよ。それよりヒマリさんはあまり食べていないようね」

「どんどん焼こうか」


 僕は一気に肉と野菜を網に投入する。


「ユキナさん、前はシュウの写真を見て誤解しちゃってごめんなさい」


 僕が風邪を引いたときの事か。


「いいのよ。ヒマリさんをからかおうと思ってやりすぎてしまったわ。こちらこそごめんなさい」


「その、本当にシュウとユキナさんは何も、そういう関係じゃないんですよね?」

「そうね。ただ、私は風邪を引いたシュウに湯豆腐とゼリーを食べさせて、タオルで体を拭いただけよ」


「そ、それだけですか?いつもはどうです?」

「他には、そうね。お揃いのパソコンを買って、シュウの部屋で夜遅くまで話をして、朝早くシュウの部屋に行ったり私の部屋にシュウが来たり、シュウの言えない趣味を私が知っていたり、シュウから仕事のアドバイスを貰ったりするくらいかしらね」


 母さんはまじめな顔をしていた。

 いつも笑っているのに様子がおかしい。


「ねえ、ヒマリちゃんユキナちゃん」


 きゅうに母さんが話を始める。


「シュウと結婚したい?」


「え?」

「私は」


「ヒマリちゃん、ユキナちゃん、もっと急いだ方がいいわ。そうしないと、シュウと結婚することは出来ないわ。ユキナちゃんは意味が分かるわね?」


「……はい」

「どういう、ことですか?」


 ヒマリがまじめな顔で母さんに聞く。


「ヒマリちゃんもユキナちゃんも今ビリ争いをしているのよ。今日お母さんは見ててすぐ分かったわ。焼き肉の準備が出来た瞬間にお肉を食べるメイとユヅキ先生、そして遠慮してあまり食べないヒマリちゃん、それと後から食べるユキナちゃん。


 積極性が違うのよ。

 4人とも魅力はあると思うの。

 魅力にそこまで差は無いわ。


 残るは積極性なのよ。

 メイとユヅキ先生の方が積極的で、ユキナちゃんとヒマリちゃんは遠慮や恥ずかしさで前に進めないのね」


「わかり、ます」


 ユキナが頷いた。


「え?え?」

「ヒマリちゃん、ごめんなさいね。状況が分からないと意味が分からないわよね。今からこの家の秘密を話すわ。家の中に来なさい」


「はい」


 ヒマリは母さんの真剣な顔で家の中に向かう。


「ヒマリに、言うの?」


 僕とメイがした事だけじゃなく、ユヅキと僕がシタ事も言う気だ。


「お母さんね。ズルは良くないと思うの。知ってる人だけ得をするのは良くないわ。何でもペラペラしゃべるような不誠実な子なら言わなかったけど、ヒマリちゃんは約束は守る良い子よ」


 メイやユヅキ、そしてユキナにも聞こえるように言った。

 そして黙っていた父さんも話し始めた。


「これはなあ。父さんと母さんで話し合って決めた事だ。俺も納得している」

「とう、さん、も?」

「そうだ」


 僕は何も言えなくなり、家の中に入っていくヒマリと母さん、そして後から家の中に入っていく父さんを見送った。


「ひ、ヒマリさんが本気になったらまずいわ」


 ユキナが小さくつぶやいた。

 こうして微妙な雰囲気のまま焼肉は終わった。




 その後、ヒマリの元気がなさそうだったけど、母さんがヒマリを抱きしめた。

 心配した父さんと母さんがヒマリを送っていった。


 夜になると、ユキナは小説のアイデアを思いついて自室にこもった。

 僕も自室にこもる。


 母さんの考えが分からない。

 父さんも納得しているのがもっと分からない。

 何なんだろう?


 ガチャリ


「お兄ちゃん大丈夫?」

「大丈夫だよ」


 ガチャリ


「メイちゃんもシュウ君も大丈夫?」

「大丈夫だよ」


 ベッドに座る僕の横に2人が座った。


「皆で少し横になりましょう。そうやって座っているとずっと考えちゃうわ」

「そうだね」


 僕はシングルベッドに横になる。

 横にはユヅキとメイがいる。

 シングルベッドで密着度が高すぎて興奮してしまう。

 更に2人とも体温が高い。


「ちょ、ちょっと、興奮してしまうよ」


 僕が起きようとすると、2人が絡みついてくる。


「お兄ちゃん、起きると考えすぎになるよ」

「シュウ君、目を閉じてゆっくりしましょう」

「体が熱くなってくるんだ。クーラーをつけよう」

「このままでいいもん!」


「シングルベッドだと密着しすぎて辛いんだ。性欲を押さえるのがつらいんだ」

「ねえ、シュウ君、私のお部屋のベッドは広いよ。私の部屋に来る?」


 ユヅキが耳元でささやく。


「お兄ちゃん、最近シテないよね」

「本当にシテしまうんだ」

「もう3人全員シテるし、コンドームもあるよ」


「本当にもう、無理なんだ。体が熱くて、はあ、はあ、体の中も外も熱い。我慢できなく、はあ、はあ、なるんだ」

「おにいちゃん、今日の昼は焼肉だったし、夜も焼き肉だったね」

「シュウ君、昼だけじゃなく、今夜は熱帯夜みたいだよ?」


 ガバ!


「水のシャワーを浴びてくる」


 僕は2人を振り払ってシャワーに向かった。


「な、なんとか、なった。何とかなったんだ」


 僕は、欲望を押さえた。

 抑え込んだんだ!


 ガチャ!


 メイとユヅキがシャワーに入って来て、それから服を脱いでいく。

 2人はコンドームを咥えていた。


 もう、無理だ。



 ◇



 チュンチュンチュンチュン!


 僕は、ユヅキの部屋で目覚めた。

 僕の隣には、ユヅキとメイがいる。

 耐えられなかった。


 メイとユヅキが同時に来るのは、無理だ。

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