第29話
僕の風邪が治り、リビングでくつろぐとメイが急に言った。
「焼き肉、食べたい」
3人全員がスルーする。
でもメイは諦めない。
「お兄ちゃん、焼き肉食べたい」
「我慢しなさい」
「いいも~ん。お父さんに言うから」
メイはスマホを操る。
『シュウ、うまく処理してくれ』
父さんからすぐに僕に連絡が来た。
「メイ、父さんから僕に連絡が来たよ」
「ほらやっぱり、皆焼き肉を食べたいんだよ」
「違う違う!面倒で僕に投げたんだよ」
「ここいいんじゃない?」
「高いから店は無しだね」
「え~!」
「高いし!あそこは特別な時に行く所だよ」
「お父さんかお母さんにお金を出して貰おうよ」
「どっちもそういうコストには厳しいからね。やるなら、父さんのバーベキューセットを借りて、肉を買って来て家でやる事になるよ」
「ユヅキもお姉ちゃんも焼き肉食べたいよね?お店で焼き肉食べたいよね?」
「私は、店に行くより家でやった方が落ち着くわね」
「メイちゃん、私が連れて行ってあげようか」
「はいユヅキストップ!そういうのはダメですうううううう!」
「メイ、店は諦めよう」
「……お兄ちゃんお店のこの動画、おいしそうだよね?」
「そうか、行きたいなら自分の小遣いで行きなさい!」
この時はすぐに話が終わった。
その時はメイのいつもの気まぐれだと思っていた。
【次の日の学校】
「ねえ、ヒマリ、一緒にお店の焼き肉に行きたいよね?」
「どうしたの?」
「ダメだ!メイは昨日からそれを言ってるんだ。甘やかすのは良くない」
僕は最後の手段を使う。
手を後ろに回して3馬鹿にサインを送る。
すぐに3馬鹿がやってきた。
「お、丁度いい所に来たね。メイがどうしてもお店の焼き肉を食べたいって聞かないんだよ」
「ふむ、モブよ。花園への招待傷み入るでおじゃる。金の問題は我らが何とかするでおじゃる!メイ殿、お金の心配はご無用でおじゃるよおお!」
ガリの発言でメイがヒマリの影に隠れた。
「うむ、その素晴らしい肢体は肉によって作られる。我らが不審者から守りつつ、完全なる安全を保障しつつ店に招待しよう」
マッチョの発言でヒマリが胸を隠した。
「心配いらねーよ!俺が最高の店に案内してやんよ」
ブタに怯えてメイとヒマリが小さく悲鳴を上げた。
「ブタの紹介する店なら間違いないね。メイ、焼き肉のお店に行きたいかな?」
僕にとってはどっちに転んでもいい。
メイやヒマリが3馬鹿の良さを知って打ち解けてもいい。
そうなれば僕は英雄に認定される。
それか、メイが発言できなくなってもいい。
どちらに転んでもお兄ちゃんの勝ちなんだよ。
くっくっく!
さあ、選べ!
妹よ!
「ずるい」
「ん?」
「ずる過ぎるよ!!!」
メイが大声を出して自分の教室に帰っていった。
「所でヒマリ、僕や3馬鹿とお店の焼肉に行く気はあるかな?」
「ひい!わ、わ、私、用事があるの」
ヒマリが逃げて行った。
3馬鹿はショックを受け、そしてゾンビのように蘇る。
「モブよ。いい夢を見させてもらったでおじゃる。美女が肉を口に入れる瞬間を生で見られるチャンスでおじゃった」
「すー!はー!空気が違う。四天王の空気、美味だった」
「汗をかきながら肉を食べ、赤くなった顔を見たかったぜ」
「お前ら、まず変態紳士から紳士にジョブチェンジしようね」
さらっと口から出る発言が怖すぎるんだ。
周りを見て欲しい。
女子が一斉にこっちを向いて警戒態勢を取っている。
何回言ってもずっと変態紳士なのかな?
3馬鹿も能力は高いんだけどな。
でも僕は勝った。
完全勝利で家に凱旋した。
【放課後の自宅】
自転車屋に向かうと、メイが父さんにおねだりする。
「お父さん、お店の焼き肉が食べたい」
父さんは僕を向いた。
「シュウと話し合ってくれ」
「だって、お兄ちゃん」
「ダメだ!メイにもお金の教育が必要なんじゃない?」
「シュウ、教えてやってくれ」
「え?僕が?」
父さんは僕の両手に手を置いた。
「シュウ、お前には俺のお金の教育すべてを教えた。インプットしたら次は?」
「く、それは!」
「シュウ、インプットしたら次は何だ?答えてくれ」
「く……アウト、プット」
「そうだ、よく分かっているな。頼んだぞ」
「丸投げ、だと!」
「はっはっはっは!頼んだぞ!メイに教えられたら大したもんだ。はっはっは」
「お兄ちゃん、お母さんと話をしに行こうよ」
「メイ、父さんが無理なのに母さんを説得するのは無理じゃないかな?」
「いいから!いくよ!」
メイは思いっきり僕の腕を引っ張った。
「お母さん!お店の焼き肉が食べたい!」
「シュウ、何とかしなさい。私今仕事中なのよねえ」
うわ、仕事中じゃなくても面倒になって投げるでしょ?
メイはこうなるとしつこいからな。
子供のように同じ事しか言わなくなってキリがない。
その後もメイはユヅキやユキナに同じことを繰り返し、休みの直前まで抗争は続いた。
結果、家で焼き肉をする事になった。
当然片付けと買い出しは全部僕だ。
しかもみんなからどの肉が好きかの聞き取りも会費も全部僕が調整した。
幹事じゃないか。
更にヒマリとヒマリのお母さんも出席する事になり、また聞き取りをして、すべてまとまる頃には学校が終わり、休日になっていた。
僕は55リットルのバックパックを背負って北町のスーパーまで行こうとした。
「シュウ、乗せていく。スーパーだよな?」
「そうだね。仕事はいいの?」
「もう一段落ついた」
僕と父さんは無言で車の室内を過ごし、景色が流れる。
「シュウ、お疲れ様。小遣いだ。メイには言わずにしまっておけ」
父さんは僕に5000円を手渡した。
そして僕は、買い物を終えてその日はゆっくり休む。
【次の日】
今は休日の10時半。
いい天気だ。
春なのに昼には気温が30度を超えるらしい。
僕は家の裏庭で炭に火をつけ、炭のコンディションを整える。
炭が落ち着くと、野菜を切って冷蔵庫に入れ、折り畳みの椅子と机を外に運ぶ。
机の上に食器を置き、準備はほぼ整った。
11時になるとメイときゅうが集まり、12時にはみんな集合した。
「「カンパーイ!」」
僕は乾杯と共に一安心して椅子に座った。
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