第25話
僕は休み前の放課後まで無事モブとして過ごし、家に帰宅する。
帰宅して自転車屋に行くと、ユキナとメイとヒマリがテーブルに座ってお茶会をしていた。
僕は自転車の整備をこなす。
だがメイがつぶやいた事で話がおかしくなる。
「唐揚げが食べたいなー」
「唐揚げか、いいな」
父さんも乗っかる。
「材料さえあれば、私が作れますよ」
ユキナの話にメイが反応する。
「そう言えばお姉ちゃんとヒマリってどっちが料理がうまいのかな?」
全員がメイを見た。
「お兄ちゃんどう思う?」
僕!
そんなキラーパスはダメだよ!
ヒマリとユキナが僕の顔をジト目で見つめる。
「それは、両方食べてみないと分からないよ」
僕は無難に切り抜けた。
ベストチョイスな言葉だと自分でも思う。
「お兄ちゃんそれだよ!お父さん!買い出しに行ってヒマリとお姉ちゃんの料理対決をしようよ!」
「は、はははは、メイ、冗談はいけないな。今日はユキナに作ってもらおう」
ヒマリは僕が『ユキナ』と言った瞬間にほほが膨らんだ。
そして父さんが悪い笑顔を浮かべた。
メイはたくさん唐揚げが食べたいだけだろう。
父さんは僕が困るのをにやにやして楽しみたいんだ。
父さんとメイの思惑が嚙み合った。
「シュウ、いいじゃねーか。面白そうだ。俺もたくさん唐揚げを食べたい」
「お兄ちゃん!ルールどうする?」
「ぼ、ぼく!僕は賛成してないよ」
「あら、私とヒマリさんが作るなら変な物は出さないし、良いと思うわよ」
「わ、私も良いと思うわ!」
ヒマリとユキナは何故か張り合っている所がある。
そして父さんはもう母さんに連絡してるし!
「よし、今日は唐揚げ対決だ。シュウ、スーパーに向かいながらルールを決めてくれ。頼んだぜ。審判」
父さんはにやにやしながら車を出しに行って店を閉める。
僕たち4人は車でスーパーに向かった。
ヒマリは車に乗る前に『ユキナさんは手ごわいわ』と呟いていた。
「シュウ、ルールはどうするの?」
ユキナはやる気満々だった。
「そ、そうだね。料理は唐揚げとサラダ、それともう1品は自由でユキナとヒマリ以外の全員で判断しよう」
僕が発言した瞬間、ヒマリが驚いて僕を見たような気がした。
「シュウが審判だ。審判はシュウだけでいい」
「審判はお兄ちゃんがやってよ」
「そうね、それでいいわ。シュウだけに判断してもらいましょう」
「うん、いいよ……唐揚げとサラダともう1品」
ユキナとヒマリは頭をフル回転させている。
「は、ははは、嫌だなあ。これただの遊びだよね?本気じゃなくてもユキナの料理はおいしいよ」
またヒマリが僕を見た。
何だろう?
「シュウは私の料理あんまり食べた事ないよね?」
「唐揚げは、無いけど、あれ?ヒマリ怒ってる?」
「怒ってないよ。聞いてみただけ」
ガチだ。
これガチ勝負じゃないか。
空気が変わってるし。
父さんとメイは楽しそうだけど、ヒマリとユキナは本気だ
スーパーに着くと、父さんが2人にお金を渡す。
ユキナとヒマリがカートを押して真剣に食材を揃え始めた。
父さんが僕の背中を叩く。
「頑張れよ」
そして笑った。
「お父さん、ジュースも買おうよ」
「おう、今行く」
なんだろう?今日から休日なのに心がざわざわする。
僕が審判っておかしくない?
僕だけ?
どっちが勝っても嫌なイメージしか湧かない。
買い物が終わり家に着くまで落ち着かなかった。
家に帰るとユヅキと母さんがテーブルを2つくっつけて、飲食店でバトル会場を設営していた。
「シュウ君、今日は唐揚げね。私も丁度食べたいと思っていた所なのよ」
「ふふふ、今日は楽しくなりそうねえ。そう思わない?シュウ?」
ユヅキと母さんは笑っていたが、母さんはユヅキと違う楽しみ方をしている。
「私とヒマリさんは料理を始めるわ。皆は座って待っていてね」
こうして料理バトルが始まる。
僕たちがジュースを飲みつつ待ち、母さんだけはお店の後片付けをしていた。
僕は落ち着かずホールで2人の様子を見守るけど、エプロン姿の2人は似合っている。
美人は何を着ても良く見えるのか?
「出来るまで時間がかかるから、シーザーサラダを先に食べていてね」
ユキナ先輩が先にサラダを出す。
ユキナは、先に出す事を考えてボリュームのあるシーザーサラダを出したんだ!
考えている。
対してヒマリは唐揚げと一緒に食べた時にさっぱり感を出すため、シンプルなサラダを作っていた。
どっちも料理になれているけど、ユキナの方が手際が良く感じた。
それでも先にユキナがシーザーサラダを出したため、ヒマリの方が少し早く唐揚げを揚げ始めた。
どうしよ?どっちもレベルが高いように見える。
嘘をつくとばれるし困ってしまう。
どっちかが勝てばもう片方を負けにする事になる。
僕は席に戻ってシーザーサラダを食べる。
おいしい。
勝負無しだったら楽しかったんだけどな。
こうして、料理が終わり、対決開始の時を迎えた。
僕は1品ずつ判定していく。
ヒマリとユキナが僕を真っすぐに見つめる。
他のみんなはおいしそうに料理を食べながら様子を見ていた。
「まず、サラダだけど、これは互角だね。ヒマリの唐揚げと一緒に食べる為のさっぱりサラダも、ユキナの先に出して皆を待たせないためのシーザーサラダも甲乙つけがたいよ。
次に唐揚げだけど、正直これは、どっちも料理は上手で後は好みの問題だったけど、僕はユキナの唐揚げの方が好きだよ。
でも、ユキナは僕の好みを知っているから、そのままジャッチするのは違うと思う。
ユキナの半歩リードかな。
最後の3品目だけど、ユキナはコンソメスープで、ヒマリはカットフルーツだったけど、唐揚げを食べていると、さっぱりした物が食べたくなるんだ。あっさりしたコンソメスープも悪くは無いけど、フルーツのさっぱり感でヒマリが半歩リードだよ。
今回の勝負は引き分けだよ」
ヒマリもユキナもほっとした顔をしていた。
「嘘はついていないようねえ。面白くならなくてがっかりだわあ」
「母さん!子供を疑うのは良くないよ!」
「だって、さっきからどうやって切り抜けようか必死だったじゃない?」
「母さん、おかしなことを言うのはやめよう。今は食事を楽しむ時間だよ」
周りにいたお客様が声を上げる。
「私にも食べさせてくれない?」
「シュウ君の判定を確かめたいわ」
母さんは唐揚げセットの販売をし、お持ち帰りを望むお客様も現れて、大量に作った唐揚げは全部なくなった。
「ユキナだけじゃなく、ヒマリも料理がうまいんだな」
ヒマリは僕の言葉で嬉しそうに笑った。
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