第23話

 僕はその日は普通に過ごし、次の日の学校の放課後となった。


 すぐに教室を出ようとすると3馬鹿が寄って来る。


「モブよ、最近付き合いが悪いのではないか?」

「マッチョ、今日は新しい自転車が納入されるんだ」


「それは仕方がないでおじゃるなあ。今は春、自転車屋が忙しいのかもしれぬ」

「自営業の親が居ると大変なのかもな」


 クラスの女子3人が声をかけてきた。


「ねえ、モブ、前髪上げてみてよ」

「ごめん、今忙しくてね。家の手伝いがあるんだ」

「前髪あげるのなんてすぐでしょ?」


「女子、どうしたでおじゃるか?」

「話なら我らが聞こう」

「俺達暇だぜ!」


 女子3人の顔が引きつる。

 3馬鹿は女子を追い返すよう動いてくれた。

 3馬鹿は意外と気を使うのだ。


「すまん!じゃあな」


 3馬鹿が親指を立てた。

 まるで死地に赴く英雄のように見える。

 生き残ってくれよ。


 僕は家に帰った。

 父さんはすぐに声をかけてきた。


「先生の自転車は届いている。整備は任せる」


 僕は無言で頷き、無心で自転車を組み立てた。

 終わると他の自転車の整備を始める。


「シュウ君、ただいま」

「お帰りなさい。待ってましたよ」


 僕は接客モードで受け答えする。

 馴れ馴れしく話すのを見られたらまずいからだ。


「ミニベロはもう乗れる?」

「乗れますが、サドルの高さとか、調整しましょう」

「そうね」


 僕はサドルの高さやブレーキのグリップの位置を調整した。

 丁度調整が終わると、タイミングよくメイときゅうがいた。


「お兄ちゃん」

「クロスバイクの調整だよね。今からやるよ」


 メイは勘がいい。

 直感だけで生きている感じもする。

 メイように自転車の調整が終わると、ユヅキ、メイはきゅうを散歩に連れて自転車で走っていった。


 2人とも美人だけど、ここは田舎で治安がいいのだ。

 学校方面に向かわなければ生徒も声をかけてこないだろう。



 僕の自転車整備が終わる頃にメイとユヅキが戻ってきた。


「きゅきゅう♪」


 きゅうはたくさんお散歩が出来て機嫌がいい。


「メイさん、シュウ君、お部屋に戻りましょう」


 ユヅキは外では先生モードで接する。


 皆で家に戻る。

 家の中に入った瞬間ユヅキの表情が緩んだ。


「メイちゃん、汗かいちゃったから一緒にシャワーを浴びよう」


 そう言ってメイに抱きつく。


「うん、きゅうも一緒に行くよ」

「きゅう!」


 皆がシャワーに向かうと、コーヒーを淹れてリビングに座る。

 皆でシャワーか、いろいろ想像してしまう。


「ふふふ、皆と一緒にシャワーに入りたかったのかしら?」

 

 気づくと笑顔のユキナが居た。

 ユキナもコーヒーを淹れて僕の隣に座る。


「うん、入りたいと思った」

「そう、次は私と一緒に入る?」

「え?いいの!みんなが出たらすぐに入ろう!」


「え、じょ、冗談よ」


 ユキナは自分で言ったのに真っ赤になった。

 可愛い。


「僕は本気だよ!」

「ち、近いわ」

「ユキナは近いのは嫌?」

「い、いやじゃないけれど、でもぉ」


 きゅうがてちてちと走って来る。

 体を震わして水滴をまき散らす。

 シャワーを浴びるとたまにこれをやる。


「きゅう!ちゃんと拭かないと駄目だよ!」


 メイが入って来る。


「お姉ちゃん顔が赤いよ?」

「わ、私はシャワーを浴びてくるわ」


 そう言ってシャワーに向かった。

 一緒に入るのは無理か。

 入るって言ってくれたら、そのまま一緒に入ったんだけど。



 

 ユキナの後に僕がシャワーを浴びて上がると、リビングでユヅキがメイに甘えていた。

 メイの膝に頭を乗せてソファで横になる。

 そしてきゅうを抱っこしている。

 きゅうはドライヤーで乾かしてもらってもこもこ感が30%アップしていた。


「ユヅキのこの姿を学校の人が見たら驚くだろうね」

「見られてないから大丈夫よ」


「先生は甘えんぼだよ」


 そう言いながらメイはエチエチな絵を書いていた。

 皆に隠す気はないらしい。


「ふぁああ、私そろそろ寝るね」


 メイがきゅうを連れて自室に向かう。


「僕は小説の執筆をしよう」

「あら、私もここでするわ」


 そう言ってユキナも僕の隣に色違いのパソコンを並べる。


「そう言えば、前に投稿したシュウのラブコメの管理画面が見たいわ」


 僕はユキナに管理画面を見せた。


「2カ月くらいしたら、月5万円くらい来ると思うわ」

「結構伸びてるよ。僕の代表作になると思う」


 ユヅキがユキナにもたれかかる。


「皆しっかりしてるのね」

「先生もしっかりしてるわ。その気になればだけれど」

「いつも先生をやってると疲れるのよ~」

「気を抜ける時に抜いた方が、実力を発揮できるのかもね」


「ユキナはいつもしっかりしてるのね」

「家が厳しかったのよ。今は家族に感謝しているけれど、当時は嫌だったわ」


「コーヒーを淹れるけど、みんな飲むかな?」


「頂くわ」

「私の分もお願い」


 コーヒーを淹れて戻ると、ユヅキは僕の隣に来て画面を見つめる。


「ユキナもシュウ君も、凄いのね。私だったら考えて書くのは出来そうにないわ。どのくらい書くの?」

「決まりは無いけど、出版されている本は10万文字以上だよ」


「文字が多すぎてピンと来ないわね」

「400文字の原稿用紙で250枚分が10万文字よ」

「……無理ね」


「一気にやろうとすると無理だけれど、1日に4000文字を書けば、一か月せずに一冊分書き終わるわね」

「僕はそれ以前にストーリーを考える方がきついよ。頭にストーリーが浮かべば楽だけど、それまでがきついかな」


「ねえ、思ったのだけれど、執筆が進まないわね」

「僕もだ。ユキナとユヅキが隣に居たら、集中できないよ」

「小説のアイデアを出したり、相談するには人が居た方がいいけれど、執筆は一人でやった方がいいわね」

「そうだね。今日は皆休もう」


「皆寝ちゃう?もっと話をしよう?ね?」

「部屋に戻るよ」

「私も戻るわ」


 ユヅキは僕とユキナの服を掴んだ。


「さみしいなあ」

「ええ!ユヅキって一人暮らしだったよね?」

「一人暮らしは向かなかったのよ。今まで話せなかった分話したいわ」


「明日にしましょう」

「そう、明日だね」


 僕たちは自室に戻った。

 ユヅキは先生の時はしっかりしているけどさみしがり屋だ。

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