第18話

 ガリの家に着き、インターホンを鳴らすと家族が出迎えた。


「どうも、いつもお世話になっております」


 僕は母さんの作ったケーキを家の人に渡す。


「おお、いつもすまないね。さあ、上がって」


 ガリが廊下を走って来る。

 そして靴下でフローリングを滑り、僕の前できれいに止まる。

 動きがコミカルすぎる。


「くっくっく、来たておじゃるな。暗黒闇鍋の儀式は整ったでおじゃる!」

「うん、会費の1000円」

「ありがたく」


 ガリが僕の渡した1000円を受け取る。


「さあ、部屋に向かうでおじゃる!」


 部屋に入ると熱気が凄い。


「熱!クーラーは?てかブタとマッチョの汗が凄くない?」

「くっくっく、男の暗黒闇鍋は熱波の中で行うのが常識でおじゃる」


「ぶっちゃけただのチゲ鍋なんだけどな、ニンニク多めにすんぜ」

「「うむ」」


「大量の豚バラだけど、マッチョは大丈夫なのか?油が凄いけど?」

「うむ、問題無い。日々の鍛錬の積み重ねがあれば些事さじにすぎん」


 マッチョは油を普段控え、ボディビルダーのような食生活をしている。


「今日は豚の作るチゲ鍋でおじゃる」


「間違いないね」

「間違いないのだ」

「おめー俺が作るんだから旨いに決まってんだろ!」


 ブタの作る料理はすべてうまい。

 今まで外れた経験が無いのだ。


「ん?貝もエビも多いね!出汁が凄そうだ」

「くっくっく、モブよ、気づいたでおじゃるな。この暗黒闇鍋のテーマは出汁でおじゃる。ブタの厳選した食材で、最高の出汁を煮込んでいるのでおじゃる。そしてガツンと来るニンニク、更に辛く、それでいてまた食べたくなる辛味、ブタの作る料理に外れ無しでおじゃる」


「よだれが出て来た」

「へ、へへへ、待ってな、今極上のを用意してやんよ」


 まるで麻薬の売買のように悪い顔をしてブタが鍋を煮込む。


「それにしても熱くね?これ、涼しい中で食べてもおいしいと思うんだ」


「「カツ!」」


「モブよ!暗黒闇鍋道を分かっていない!この熱さの中で食べるチゲ鍋、そしてその後に更に大量の汗をかきデトックスすら促すこの環境が至高と言える!」


「サウナで良くないか?」

「バカ!おめえそれ言っちゃ駄目だろ!」

「モブはすぐに禁忌に触れるでおじゃるなあ」





 僕たちが馬鹿話をしていると、チゲ鍋が完成した。


「へへへ、出来たぜ。堪能させてやんよ!」


 ブタがチゲ鍋をみんなに盛って配っていく。


「「いただきます」」


「うまいでおじゃる!辛い、しかしながら後を引く辛さでおじゃる!」

「うむ、至高」

「出汁が効いててニンニクも効いてるのにしつこくなくてどんどん食べたくなる!」


 ブタは食べながら得意げな顔をする。


 ガリがお玉に盛った肉をマッチョが箸で奪って食べる。

 醜い争いが始まった。


「マッチョ、お玉ですくった肉を奪うのはルール違反でおじゃる。まだ肉はある。お玉に盛った肉を取るのは違うでおじゃる」

「ムウ、ついやってしまったのだ」


 ブタはお玉をガリから取り上げて自分の皿に盛る。

 濃厚出汁のチゲ鍋は出汁を優先するがあまり量は少なめだ。

 皆育ち盛りの男子高校生で食べる量も多い。

 パイの量が限られているのだ。


「あ、家族から電話だ」


 僕は部屋を出て電話に出る。


『お兄ちゃん暗黒闇鍋は終わった?』

「今しれつな競争が始まっているんだ。後でかけ直すよ」


『そっか~。それでねえ。ヒマリが今日遊びに来るから、夕方になったらヒマリに送って貰ったらって連絡が来たよ』

「うん、分かったよ。後でかけ直すね」


『ヒマリに昔着てた服を貰うんだあ』

「そっかー。後でかけ直すからな。今は切るよ」


『あ、そうだ。お姉ちゃんにパソコンを貰うんだあ。えへへへ」

「後でかけ直す」


 僕は電話を切った。

 部屋に戻ると、チゲ鍋は無くなっていた。


 3馬鹿が頭を下げてくる。

 3人は息の合った土下座を見せた。


 そして、土下座をしつつガリの手が僕の前に伸びる。

 そこには500円玉が佇んでいた。


「……よし、帰るか」


 僕は500円を財布に入れ、ガリの家を出て街を見て回る。

 夕方になってヒマリの家に向かった。




 ヒマリの家の前に行くと、ヒマリが出迎えた。


「もお、シュウ君が来るまで着替えて鏡を見て、落ち着かないんだから」

「え?僕の為にそこまでしてくれたのか。嬉しいよ」


「からかわないで!」

「ついついヒマリの母さんの話に乗ってしまったんだよ」


「さ、行きましょう。良かったわねえ。シュウ君と車に乗れて」

「お母さん!」


 僕とヒマリは後ろの席に座ったけど、ヒマリはずっと窓を見ていた。

 これは……そっとしておこう。

 からかいすぎた。


 でも、ヒマリの姿は絵になる。

 だからメイはヒマリをスケッチしたがるのか。




 僕は駅で降ろしてもらい、自転車で家に帰る。


 帰る途中できゅうの散歩をして走るメイを見つけた。

 休みで高校が閉まっている為、この田舎は安心してメイが出かけられるのだ。

 

「きゅきゅう♪」


 きゅうは小さな体で疾走する。

 何度もメイを追い越して戻ってきてはメイにまとわりつく。


「お兄ちゃん、お帰り」

「ただいま」


「きゅう、走って家に帰るよ」

「きゅう!」


 メイときゅうは僕を追い越して帰っていった。


 家に帰ると、母さんがこちらを見て笑う。

 また悪戯か?


「シュウ、メイ、食事にしましょう。食事は店で摂ってね」


 僕・メイ・ユキナ先輩・ユヅキ先生が同じテーブルに座る。


「あ、ヒマリだ!」


 ヒマリは母と一緒に食事を摂っていた。


「ヒマリもこっちに来てよ」

「そ、そうね」


 椅子を移動して僕たちのテーブルに座る。


 僕の右にメイが座り、対面にはユキナ先輩とユヅキ先生が座る。

 そして、僕の斜め左にヒマリが座った。


「まあ、美人四天王が揃ったわねえ」


 そう言って母さんは笑った。

 嫌な予感がした。




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