鬼刃と退職
「どうします?」
伊万里は大声で聞いた。
「どうしますって…鬼塚さんが断っちゃったもん。どうにもできないよ」
一華は呆れて言った。
「私、鬼塚さんを説得してきます!」
伊万里が何でも屋を出ようとすると
「皇ちゃん!丸腰で行くの?」
「え?」
「それならこれ持って行くといいよ!」
一華がそう言うと本郷が奥から鋸を出して来てそれを伊万里に渡した。
「鋸…まさか!鬼刃ですか?」
伊万里はびっくりしたような声で言った。
「ご名答。鋸の一番最後の刃は、鬼刃って鬼を轢き殺すのよ」
「え?いいんですか?こんなの持って行って?」
「いいの!今まで鬼塚さんが駄々をこねたりしたらこれ見せて説得してきたから」
「わ、わかりました」
「コンビニに行ったって言ってたからここから歩いてすぐのコンビニだと思うよ」
「ありがとうございます!行ってきます」
伊万里は元気良く言った後、走って何でも屋を出て行った。
伊万里は、近くのコンビニに着き、店内を一生懸命周りを見たが、鬼塚の姿はどこにもいなかった。
伊万里は、落胆してコンビニを出て行くと向かい側の向かい側の公園で野次馬を見つけ、見に行くと牛鬼の姿でベンチに座っている鬼塚を見つけた。伊万里はすぐ鬼塚の方に駆け寄った。
「鬼塚さん!考え直してください!」
伊万里はそう言うと持っていた鋸を掲げた。
鬼塚は、伊万里と鋸に気がつくと後退りをした。
「それはしまえ。頼む」
鬼塚からそう言われ、伊万里は近くのベンチに立てかけて置いた。
「すみません。鬼塚さん、もう一度東国原さんと話し合いましょう。確かに東国原さんがやった事は、よくないけど、とにかく依頼ですし、最後までやっていきましょう!」
鬼塚は人間の姿になり考える素振りをすると
「まさか新人に説教されるとは…」
「説得です」
「君の言っている事に一理あるけど…」
「やりましょう!最初の時を思い出してください!やる気満々だったじゃないですか!」
「そうだけど…」
「お願いします!やらなければ、鬼刃向けますよ」
「それは止めて。そうだな…最初はやる気満々だったなー」
「やりましょう!」
「どうしよう…」
「お願いします!」
「わかった!やるよ!やればいいんでしょ!」
「鬼塚さん!そうでなくちゃ!」
次の日、東国原杏は鬼塚に言われ、何でも屋に来た。そこで鬼塚は東国原杏に怒鳴った事を謝罪した。
「鬼塚さんの仰る通りです。私は相手が不愉快になるような事をしたのですから」
「改めて東国原さん、そんなに謝る事にこだわって何かあるのですか?」
「私今度学校の実習でアルバイトを辞めなくちゃいけないんです。だから押井さんに謝りたくて」
「なるほど…。わかりました。では、その押井さんという先輩に早く謝罪しなきゃですね」
「よろしくお願いします」
数日後、押井クミの勤務日に伊万里は東国原杏のアルバイト先であるスーパーへ行った。
周りを見ているうちに、押井と書かれてある名札をした女性を見つけた。
「押井クミさんですか?」
伊万里が緊張して聞くと
「はい、そうですが」
押井クミが怪訝そうに伊万里を見た。
「私、東国原杏の姉です。この度は、杏が押井さんにご迷惑をお掛けして大変申し訳ございませんでした」
伊万里は心を込めて謝った。
「は?ふざけないでください!ていうか、あなた東国原さんのお姉さんじゃないでしょ!見たらわかります」
伊万里は一瞬ドキッとしたが、素直に
「はい、騙してすみませんでした。実は何でも屋でして東国原さんの代わりに…」
「それ、迷惑です!じゃあ、私忙しいんで」
押井クミは帰ろうとしたが、伊万里は勇気を出して
「東国原さん、今度退職されるんです!だから、退職する前に押井さんに謝りたかったんです!だから、嫌いだって気持ちは抜きにして東国原さんの事許してください」
伊万里は頭を下げた。
押井クミは伊万里を見下ろすと
「そこまで言われるんならわかりました。東国原さんの気持ちだけは受け取りました。但し、今度は何でも屋さんを頼らないで私に直接言ってほしいです」
「ありがとうございます!」
数日後、何でも屋に東国原杏からメールが届いた。あれから東国原杏は押井クミに謝罪し、退職できたそうだ。
「よかったですね。ちゃんと伝えられて」
一華はメールを見ながら言った。
「うん」
鬼塚は頷いた。
「一時はどうなるかと思いましたよ」
伊万里は鬼塚を見て言った。
「悪かったよ〜。次からはちゃんとやるよ」
鬼塚は伊万里を見て笑いながら言った。
そして、壁掛け時計を見た鬼塚は
「さ、そろそろ準備しろ」
鬼塚がそう言うと、伊万里達は依頼人を迎える準備をするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます