第11話 兇変(1)

ルーン魔術を学び始めてから一週間が経ち、ハデスからスキルについて習う日が訪れた。


だがしかし―――


「今日は………わた…しがスキルに…ついて……教える……」

(いや何があった⁉)


兜越しでもわかるほどハデスは眠そうにしていた。


「だ、大丈夫か?」

「問題……ない………」

「問題しかないだろ!!…てかお前にしては珍しいな。仕事中に眠そうにするなんて」


ハデスの発言にオーディンは鋭いツッコミを入れる。


(この様子だとここ一週間のうちに何かあったんだろうな…)

「すまない……少し顔を洗ってくる……」


ハデスはゆっくりと上層に向かって歩いて行った。

その歩き方は今にも倒れそうな程弱々しい。


「アイツが顔洗いに行ってる間に昨日までのことをおさらいだ」

「あ、あぁわかった…」


顔を洗うと聞いて勇輝はふと思った。


(そういやハデスの素顔見たこと無いな~)


そんなことを考えながらハデスが来るのを待っていた。

しかし一向にハデスは来ない。


「来ないな」

「そうだな。真面目なアイツがサボっているとは思えないしな~」

「すまない……遅れた……」

「だいじょ…うぶか⁉」


その素顔は突如としてあらわになる。

勇輝がハデスの声がした方向を見ると、そこには一人の青年(?)が立っていた。

その顔は男である勇輝でさえ美しいと思うほどの顔立ちであった。


「ハデス…?」

「そうだがどうした……?」

「何で……普段兜被ってんだ…!?」

「それはどういう意味だ……?」

「……そんな…イケメンな顔しときながら、兜で隠すとか…宝の持ち腐れ過ぎんだろぉー!!」


彫刻や絵画で表現される美しい顔と同じくらいの美形であり、自分の顔を比較的普通の顔立ちだと思う勇輝にとっては、嫉妬してしまうような代物であった。


「そうか、お前はハデスの顔を見たことが無かったな。こいつはギリシャ領の神の中でも一二を争う美貌の持ち主なんだぜ」

「マジかよ……」


その美貌に勇輝は呆気に取られる。

勇輝は戦闘面でもそうだが、ハデスに遺伝子レベルでも負けた気がした。


「何で普段は隠してんだ…?」

「隠しているつもりは無かったんだが……。この兜は緊急時にすぐ対応できるように…いつも被っているんだ……」

「緊急時に?どういうことだ?」


そう言って再び兜を被る。

そしてハデスの兜の目の部分が緑に光った。

すると途端にハデスの姿が見えなくなる。


「何だ!?」

「魔力を流し込むと、透明化することが出来るんだよ……この兜は……」


気が付くと背後に兜を脱いだハデスが立っていた。


「す、すげぇ⁉」

「で…本題に戻っていいか……?」

「お、応」


ハデスは何事も無かったようにスキルについての説明を始める。


「まずスキルのシステムについて説明する……。スキルは基本的に三つの種類がある……。一つ目は魔力系と言って、魔術や魔法をスキルのシステムに落とし込み、魔術的儀式を短縮して発動するもの……。二つ目は発動者自身、または発動者の所有する物に発動する強化系……。三つ目は周りの素材を用いて新たなものを生成する作成系だ……」

「ちなみに魔力操作の中でも錬金術と錬金法だけは魔力系じゃなくて、作成系に分類されているんだ」

「錬金術と錬金法も、魔術と魔法の違いと同じって考えていいのか?」

「それの認識で構わない……。また先程言った三つの他にも、もう一つだけ種類が存在する……」

「何なんだそれは?」

「混性系だ……」

「混性系?それは具体的にどんなものなんだ?」

「混性系は魔力系、強化系、作成系の三つのうち、二つ以上特徴を合わせ持つスキル……。またはそのどれにも属さないスキルのことを言うんだ……」

「つまり混性系は特異的ってことか?」

「そうだな……。まぁ、此処からは実際に見ながら説明しよう……」


ハデスが人差し指で空に円を描くと、ハデスの前にホログラムの様なものが浮かぶ。


「何だそれ?」

「スキルボードだ……。君も私がやったみたいに出してみてくれ……」

「やり方は簡単。空に円を描くだけだ。まぁ慣れてきたら、手を使わずに出せるようになる」


オーディンに言われた通りに、勇輝は空に円を描く。

すると勇輝の前にもスキルボードが現れる。


「これがスキルボード……か?」


勇輝は思わず目を擦る。


「どうかしたか?」

「い、いやなんでもない…」

「説明を続けるぞ……。スキルボードには、それぞれのスキルがレベルごとに分けられている……。それをレベルの低い順に、基本ノーマルスキル、固有ユニークスキル、概念エクストラスキル、超越グランドスキルと言うんだ……」

「これは…固有ユニークスキルなの…か?」


勇輝はハデスとオーディンにスキルボードを見せる。

それを見てオーディンとハデスはその場で固まった。


「何じゃこれ⁉」

「これは……⁉」


オーディンとハデスが驚くのも当然だった。


何故なら―――


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 ■■■霧grade 1

 遽?峇蜀?↓荳?黄縺ョ髴ァ繧堤匱逕溘&縺帙

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┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「これ…スキルとして成立してる?」


とても読めたものではなくそれを見てハデスは首を傾げる。


「すまないが私にはわからない……。だが少なくともスキルボードにある以上…スキルとして成立しているはずだ……」

「ろくでもないスキルじゃないといいんだが」


オーディンは苦笑いを浮かべ、勇輝を見る。


「…一回使ってみていいか?」

「わかった…許可しよう……。スキルの使い方については―――」

「スキル名を口にするだけだ。上達すれば無詠唱で使えるようになるんだがな」

「わかった…」


瞳を閉じ、深呼吸をする。

そして勇輝はスキル名を詠唱した。


「grade 1!!」


その一節を口にした途端、先日冥界を包んだ霧が勢いよく勇輝から放出される。


「ハデス‼️」

「あぁ、わかっている……」


ハデスはいち早く行動し、勇輝を囲うように結界のようなものを張った。

そのおかげか 前回のように霧が広がることはなく、勇輝の周りで霧は留まる。


「これが…原因!?」

「みたいだな……」

「スキル由来のものだったわけか。その霧を仕舞うこと出来るか?」

「いや…わからない!?」


オーディンは軽々しく聞くが、勇輝にとっては難しく感じる。


「イメージするんだ……。自分が霧を閉じ込める箱だと……」

「箱!?」

「箱でなくてもいい…自分なりに霧を抑えるイメージをするんだ……」

「イメージって言っても―――」


刹那、勇輝の頭の中に一つのイメージが湧く。

それは開かれた禍々しい銀色の門だった。

その大きさは見上げるほど大きく、異様な威圧感を放っている。


(何でこんなイメージが…幻覚か!?)


わけがわからないが、勇輝はハデスが言うようにその門を閉じることを考える。


(閉じろ―――閉じろ!!)


勇輝の中で門はゆっくりと閉じていく。

そして門が音を立てて閉じるとともに霧は四散し、門の幻覚は消えた。


「と…止まった」


霧を止めると同時にその場に座り込む。


「初めてにしてはよくやったな。おつかれ‼️」

「それよりハデス…何でこのスキルの止め方を知ってたんだ?」

「……君と似たスキルを持った者に覚えがあったんだ……。」

「そうか…ありがとう」

「感謝されるようなことはしていない……。それより君はそのスキルを制御できるようになるまでは、実戦で使わないでくれ……」


ハデスは静かに座り込む勇輝を見る。

その瞳は兜で見えないが、警告しているように感じた。


「何でか聞いてもいいか?」

「制御の出来ないスキルを、いざという時に使えば…最悪その身を亡ぼす……」

「わかった…それで?これから俺は何をすればいいんだ?」

「まず君は今、何の魔法が使える……?」

「身体強化と六大元素の弾丸ブラストは使える。弾丸ブラストは俺が使う魔法で唯一無詠唱で使えるの魔法だ」

「初級の弾丸ブラストを無詠唱で使えるなら幸先いい方じゃね?」

「そうだな……」


オーディンがそう言うとハデスは頷く。


「なら次は身体強化をスキルに落とし込むんだ……」

「どうやって?」

「まず身体強化魔法の発動過程を言ってみろ……」

「大気中の”火”と”地”の魔力マナを取り込み、体内で反応させる…だっけ?」

「そうだ……。その原理を理解しているなら簡単だ……。まずスキルボードの右下を見るんだ……」

「これか?」


スキルボードの右下には”+”の記号が書いていた。


「そのコマンドを押してから身体強化魔法を使ってみろ……」

「わかった」


勇輝は”+”のコマンドを押し、ハデスの指示通り身体強化魔法を使う。

するとスキルボードの基本ノーマルスキルの欄に、身体強化が追加された。


「おっ!追加された」

「混沌系のスキル以外はこのように登録すれば……新たにスキルとして使えるようになる……」

弾丸ブラストレベルのスキルが無詠唱で使えるなら、身体強化も無詠唱で使えるはずだ」

「そうか…。質問なんだが、固有ユニークスキルも極めれば無詠唱で使うことは可能なのか?」

「可能だ……。全てのスキルは共通して極めれば無詠唱で使用出来る……」

「でもスキルによっては、詠唱することが重要になるスキルもある。俺の持つスキルにもそのタイプのスキルがあるんだが、詠唱の一節を変えるだけで違う効果が発動するんだ」

「ほぉ…それでこれから俺は様々な魔法をスキルに落とし込んでいく感じか?」

「あぁ……これから基本的な魔法を教えていく……それを一つ一つスキルに落とし込んでいくんだ……。あと…それと並行して固有ユニークスキルを安定して扱えるようにその能力も解明する……。それがこの修行で行うことだ……」

「了解だ。いつでも俺はいける」

「そうか……ならば早速始めよう……」


そうしてハデスの修行の幕は上がるのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


一週間前、神殿の会議室には冥界の守護者たちが集まっていた。

広大な冥界の各地に配備されてる都合上、冥界守護者全員が集まることはめったにない。

しかし、その日は違った。


「これはどういうことだ!!」

「先程の謎の霧で一層から三層までの囚人が狂懐した件について早く説明を!!」

「皆さん落ち着いてください!!」


ペルセポネは守護者たちを宥める。


(私だけではどうしようも…ハデス様早く!!)

「そうかっかするなよ。緊急事態なんだから直に来るだろ」


そう言って一柱の神が騒ぐ守護者とペルセポネの間に割って入る。


「大人しく席に着いていようぜ」


その一言で騒いでいた守護者は渋々席に着く。


「ありがとうございます。失礼ですが貴方は…」

「俺はケルヌンノス。一応冥界最深部の守護者をしてる」

「一応?」

「いや~別のこと兼任しててあんまり冥界にいることが少ないから一応なんだよ」

「そうでしたか。これは失礼いたしました」

「気にするな。それじゃあ」


ケルヌンノスも席に着くと、そのタイミングで会議室の扉が開く。


「すまない……遅くなった……。ペルセポネ下がってくれ……」

「はい」


ペルセポネが退出したことを確認してハデスは話を切り出す。


「今回の一件のことだが―――」

「まず…あの少年は何だ」


ハデスの言葉を全身に包帯を巻いた男が遮る。


「何のことだ……」

「惚けるとは、お前らしくないな。ならばあの霧の発生源の少年のことを、どう説明する」


ハデスの沈黙に会議室に守護者達のざわめきが響く。


「訳あって上層部に行こうとした時、偶然見かけたんだが…お前はあの少年に修行を付けていたな」

「それがどうかしたのか……?」

「冥界の管理者が冥界の規則を忘れたとでもいう気か?」

「そんなわけが無いだろ……」

「つまり貴殿はわかった上で規則を破ったのか」

「管理者が意図的に規則を破ったということか!!」

「そのような横暴が許されるとでも!!」


ハデスに向けて怒号が飛び交う。

しかしハデスは全く動じていない。


「今回は特例だ……」

「何の権限が?」

神王しんおうからの命だ」

「何故あの色魔ゼウスが”冥界”のことに口を出す」

「私も事情については聞いていない……。故に今はその指示に従うまでだ……」

「…わかった。そう言うことにしておこう」


男はそう言うと再び口を噤む。


「本題に戻るが……今回の一件について、これ以上の詮索を禁ずる……。以上だ……。定位置に戻れ……」


それを聞き、守護者達は不服を感じながらも一人を残し会議室を後にした。


「何故残っている……ケルヌンノス……」

「特に理由はない」

「なら退室しろ……」

「いや…やっぱ一つ聞きたいことがあるんだが?」

「何だ……?」

「事情を聞いてないのは本当なんだろうが。その事情については察してんだ―――」

「ダマレ……」


ハデスの顔は兜で見えないがその殺意だけはケルヌンノスにも感じ取れた。


「お~怖い怖い。じゃあ俺帰るわ。でも…無理だけはしないようにな」


そう言ってケルヌンノスが退室する。

それ確認しハデスは溜息を吐く。

ふとハデスは自分の手を見た。


「失うには惜しいものが増えすぎたか……」


手は痙攣したように震えている。

震える手で兜の目元を覆うとハデスは呟く。


「また…始まるのか………」








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