第12話 私の考えが甘かったようです

「ジェーン、そこを通してもらえますか?でないと、あなたと戦う事になるのだけど…」


私は少しですが護身術の覚えがあります。ジェーンはメイドの中では一番パワーがありそうなので、戦いは激闘が予想されました。…ところが、


「わたくしはエレーヌ様をここに留めるようにというご命令はいただいておりません」


と言うとジェーンは正門の前から退きました。


(ジェーンがしゃべった!)という驚きと、その答えの意外さに私はダブルでショックを受けています。


「じゃあ…私、行くね?」


私は正門を押し開け、遂に、屋敷の外に脱出しました!


「わたくしの立場上、協力はできませんが、どうぞご無事で」


ジェーンは深々と頭を下げました。


 * * *


私は草原を駆け回りました。なんと清々しい気持ちでしょう。


考えてみれば、生まれてから一度も草原を思い切り駆け回った経験がありません。そういった意味では、確かに私は何かの呪縛から解放されたのかもしれないと思いました。


私が逃げ出したと知ったコーディは、おそらく追っ手をよこすでしょう。とりあえず近くの村で身支度を整えるとして、その後どうやって逃げ切るか具体的なプランはまだ未定でした。


 * * *


日が暮れて辺りは暗くなってきました。屋敷から延びる道は一本道です。ダルトンはいつも歩いて屋敷にやって来ていたので、この道を歩いて行けば、ほどなく村に着くだろうと思っていました。


しかし、それは考えが甘かったようです。このまま月明りを頼りに進み続けるか、野宿するか…

どちらも私には経験がなく、不安感だけが大きくなっていきました。


ふと気付くと、前方から明かりが近づいてくるのを発見しました。


(しまった、コーディが来たんだわ!)


私はとにかく身を隠そうと考え、道を外れて草原を走り続けました。しかし、足元の見えない暗がりを走るのは無謀な行為でした。

不意に足が宙を蹴り、私は崖から転げ落ちていきました。


 * * *


しばらく気を失っていたようです。幸い崖の高さは大したことなく、かすり傷程度で済んだようです。

しかし立ち上がろとした私は、やっと治ったばかりの右足首を、ふたたび挫いてしまった事に気付きました。

我ながら呆れるしかない事態に、私は何だかおかしくなって笑い出しました。


「誰かいますか!」


崖の上から声がします。 


「もしやエレーヌ様ですか?庭師のダルトンです!」


(ああ、まだ運命に完全には見捨てられてなかった…)


「はい、ここです!私はここにいます!」


私は力の限り叫びました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る