第13話 私は村で暮らしはじめました
次第に明けてゆく夜道を、ダルトンは私を背負って歩いていました。
「村にコーディ様の使者が来て、エレーヌ様がいなくなったと…」
「それで私を探しに?」
「はい。夜道は危険です、エレーヌ様に何かあったらドレスを贈った私の責任」
「そんな事ありません。私が勝手にドレスを盗んだ、コーディにはそう伝えてください」
「コーディ様には、エレーヌ様は見付からなかったと…そう伝えますから、私の家で静養してください」
コーディは領主の息子、私を匿ったりしたらダルトンはどんな罪に問われるか分かりません。
「そんな事をしたら、ただでは済まないでしょう?あの事を気にしているなら、もう大丈夫ですから」
そう言いつつ私はあの事を思い出して顔が赤くなりました。
「ええと…あの時は一瞬の出来事だったので、ほとんど…いえ、まったく見えませんでした。本当に」
ダルトンは不器用な気遣いを見せました。
「これ以上あなたに面倒をかけるわけにはいきません。どうぞ私をコーディに引き渡してください」
「そうはいきません月光の姫君。屋敷の窓から覗く月光に照らされたあなたを見付けた時、私は分不相応にも恋をしてしまったのです。
どうかお願いです、あなたを助けさせてください!」
突然の告白に私は驚きましたが、嬉しくもありました。
私は黙ってダルトンの背中に頬を押し付けました。
* * *
私はダルトンの家で暮らし始めました。
ダルトンは村長の息子で村人からの信頼も厚く、よそ者の私もダルトンのお陰ですんなりと村に溶け込む事ができました。
村の生活は質素ですが過不足なく豊かで、私の心を癒してくれました。
ダルトンは相変わらず屋敷の庭園を手入れしに行っていますが、コーディは部屋に閉じこもって出てこないそうです。
もちろん私の知った事ではないのですが、不思議なもので申し訳ない気もしました。
「コーディって領民からはどう思われているのかしら?」
あんな訳の分からない屋敷を作るくらいだから嫌われているに決まってる、そう思っていました。
「この村は少し前までろくに農作物が取れず、とても貧しかったんです。
コーディ様は独自の研究でトナン地方の土壌改善と治水工事を進め、全ての村で飛躍的に収穫量をアップさせた。
だから、領民はみんなコーディ様を尊敬しています。コーディ様は我々の英雄なんです」
(聞かなきゃよかった…)こんな話を聞いたらコーディに同情してしまう…
「でも、だからといってエレーヌ様を屋敷に閉じ込めていい事にはなりません。私は自分の行動に後悔していませんよ」
力強いダルトンの言葉は私を勇気づけてくれました。
* * *
あれから一年が過ぎました。私は村で過ごしています、でもダルトンのプロポーズにはまだ答えていませんでした。
実家に手紙を書いて全てを説明すると、両親は理解を示しながらも家に戻る事を許しませんでした。
ハバロッティ家は伯爵の一族とはいえ、一地方を任されている領主ランバート家に抗議できる立場にはなかったのです。
私とエドワードの婚約は王家側から正式に解消されており、ハバロッティ家と王家の関係は微妙になっていました。
なので、その元凶となった私を家に向かい入れる事はできなかったのです。
エドワードは私の事をどう思っているのだろうか?会って話がしたい、でも今更それが許されない事は分かっています。
両親からはそれなりの金銭を贈られたので、どこかの町で悠々自適に暮らす事もできたのですが、私は村での農作業が嫌いではありませんでしたので、いまだにダルトンの家の仕事を手伝いながらお世話になっていました。
近頃は私の事を村長の息子の嫁と思っている村人が多いようです。
ダルトンの気持ちは分かっています。私はこのまま村長の娘になるのも悪くはないかも、などと思いはじめていました。
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