第2話 銀色たち


 増えた“影”はゆるりと霞玉丸の視界に入ってきた。音もなく笑子のベッドに近づくと、何やら銀色の大きくとがった「針」(大きい。警備員の警棒ほどだ。しかし外科医の使う手術用のメスに見えなくもない)を持ち上げた。

「あ、はは……」

 針は一筋の光を笑子に投げかけると、彼女の笑い声を消してしまった。針の先には“球”がついており、それは小指の爪ほどの大きさだった。

 それを笑子の耳に……同時に彼女をのせたベッドそれ自体も輝きだした。強烈な圧力のある光。それが部屋にいた“影”の姿を複数浮き上がらせた。玉丸は突然の光に目をしばたかせながらも、そこに笑子以外の人間が四人も存在していたことを確認した。

 ――いや、正確には人間ではない。かれらは大人ほどの身長だったが、人というには体のつくりがややアンバランスなのだ。首から上のサイズが、普通の人間よりもかなり大きいことからも明らかだ。まるで脳だけが肥大化しているかのように見える。

 おまけにかれらは、頭の先から足先までぜんぶが銀色で、奇妙なスーツを着ており、あろうことか全員が同じ身長だった。体格はひょろりと細く、虫を思わせる関節。人間ではない。

 “銀色たち” 

 霞玉丸の頭が、かれらをそう命名した。

 銀色たちはベッドの東西南北を取り囲むように立っているが、玉丸の存在には気づいていないようだった――と、いうよりもまるで無視している。

 銀色たちが興味深く見つめているのは一点のみ、笑子の引きつった笑顔をその大きな目で見つめていた。銀色たちの目は異様に大きく、彼らの顔の半分をしめるほどだ。しかし、かれらの目に瞳のような部分はなく、先ほど玉丸のまわりを包んでいた暗黒のような底なしが笑子の周りに八個並んでいた。

「あいつらは、いったい何だ……?」

 玉丸は他の“まともな”人間を探した。見つからない。気配すらない。まるで、ここは自分の住み慣れた世界から、完全に隔絶された世界のようだ。

「笑子! おーい笑子!」

 ようやくはじめて玉丸は妹に呼びかけたが、その声に笑子は振り向かなかった。彼女も不安で固まっているのだ。

 玉丸は動かせない首をぐるぐる回して、必死に壁より抜け出そうともがいた。しかし、壁は玉丸がインテリアの一部であり続けることを拒否するのを許してはくれない。それどころか目覚めたときより、壁の圧迫がさらに強くなったような気がする。

 光のなかで気づいたが、玉丸は寝間着姿のままだった。そのパジャマがいまや汗でぐっしょりだ。息苦しさが息苦しさを呼び、玉丸はこの悪夢が早く冷めるのを待った。

「……これは夢だ。すごくリアルで、最悪な夢だけど、僕はすぐに、目を覚ますんだ。手が壁に固まっているから、頬をつねることができないんだ。……夢が、現実になるなんて夢だ! だから、これは夢に違いない。……くそ。何を言ってんだ、僕は」

 玉丸はこの異常とも呼べる状況とともに、冷たい孤独が近づいてくるのを感じた。

 あいかわらず笑子は、玉丸に気づいている様子はない。顔は引きつった笑顔のまま固まっている。彼女の頬がどうやら濡れているが、それは兄としての玉丸にひどい無力感を味わわせた。

 しかし、玉丸の悪夢は再開された笑子の笑いでさえぎられた。

「あははは……!」

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