少年たちの反撃
佐藤陽斗
第1話 笑い声と影
霞玉丸(かすみたままる)は、はじけるような笑い声で目覚めた。
その笑い声は遠くから、うすぼんやりしている暗い処から聞こえてきた。ズキズキする頭のなか目をこらすと、そこには粘土を乱暴にこねて作ったような無造作な丸いベッドが据え付けられており、霞笑子(かすみしょうこ)がその上で大の字に固定されていた。腕や足には土くれががっちり盛られているようで、彼女はまったく動けないらしい。しかし、笑子は高らかに笑い続けている。
「あ、やだ。バカ。どこさわってんのよ。やめてったら! あははは……」
霞笑子の笑い声は独特だ。
やがて頭がはっきりしてくると、霞玉丸はその嬌声を耳ざわりに思い始めた。何たってその笑い声は、生まれた頃から何度となく聞かされているのだ。
笑子は妹。双子の妹だ。だから、文字通りにその笑い声を産まれたときから聞いてきたと言ってもいい。正直、好きな声ではない。玉丸はその笑い声をどうにか無視しながら、周りを見回した。
どうやってこの場所に来たのかは全く思い出せない……というより、知らない間に誰かにここへ連れて来られたようだ。どうやら自分も妹と同じように壁に縛り付けられているらしい。まるで金縛りにあったように、自分の手指さえもがぴくりとも動かせない。
自らの状況に気づくと、途端にパニックの波が襲ってきた。
「ど、どうなってるんだ、これ?」
体中にどっと汗が吹き出す。幾らか力を込めるものの、壁はびくともしない。
首から上だけは自由らしく、何とかまわりを見回すことができた。暗い部屋。広さはさっぱりわからない。笑子が縛られているベッドまわりだけが、どこからか照らされている明かりでぼんやり浮かび上がって見えるだけだ。
どうしてこうなったのだろう? 玉丸は自分がどうしてこんな悪趣味な壁のインテリアの一部にさせられているのか、必死に思いをめぐらせるが……さっぱり分からない。いったい何があったんだ。
「あっ何よ。そんなとがったモノ出して。私、先端恐怖症なのよね。ヤダ。そんなもの近づけないでよ。あははは……」
笑子のベッドのそばに、いままで見えなかった“影”が増えた。今まで気づかなかったが、笑子のそばにはすでに何者かが立っていたのだ。あまりにも風景に同化しているので、分からなかったのだ。
パニックから恐怖へ。玉丸の動けない体を汗が伝う。
その影はゆるやかに動き、妹のそばに近づいていく。
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