第4話

数日経ったけど、私の心はまだ晴れない。

あれからゲームも開けていなくて、趣味なんて他にないし部活にも入っていない私は、突然できた放課後の暇な時間を教室で過ごすようになった。


昨日のドラマとか、メイクとか、流行に疎い私にはついていけなくてちょっと気後きおくれしてしまうこともあるけど、家で開けもしないゲームアイコンを見つめて深く考えるよりもずっと楽しいのだ。


私は自販機で買ったイチゴミルクを手に皆の話を聞く。


ドラマに出ているイケメン俳優、新しく上映される映画。


学校の近くに新しくできたパンケーキ屋さん。


隣のクラスの恋愛事情。


昨日と大して変わりない話題。空になったイチゴミルクのストローをがじがじと噛んでいた時、なんだかそわそわとしている一人が言った。



「実はさ、私彼氏できたんだよね」



一瞬静かになった教室。そしてすぐに驚きの声が響く。


「昨日告られて…」なんて顔を赤らめながら続けるその子を見つめるけど、私はしばらく何も言えなくて。


ただ、いいなあ。と思った。

それだけ。


飛び交う質問と祝福にはにかんだその子と目が合って、私もにっこりと笑いながら「おめでとう」と言う。


羨ましい。いいなあ。



それからはやっぱり二人の馴れ初めの話で持ちきりだった。

ぼんやりとしつつもその子の話に耳を傾ける。


「かっこいいけど笑顔はすごい可愛くて、なんか…好きかもって思ったんだよね」


「そう思ってからは名前呼ばれるだけで照れちゃうし、見てるだけで幸せになるし、私今恋してるんだなぁって思った」


「理想のデートって話あるでしょ。私も遊園地とか水族館とか思ってたんだけど、実は好きな人とならどこ行っても楽しいんだよ」


「おしゃれとか興味なかったんだけど、可愛いって思ってもらいたくて色々頑張っちゃった」



隣に座っていた子が「メイクの仕方訊いてきたのってそういうこと!?」と叫んだけど、私は全く別のことで頭がいっぱいだった。


だって、今の話、全部私もそうだったから。


笑顔の彼を見る度に改めて好きだなと思うし、あの声で名前を呼ばれると嬉しいし、彼とならきっとどこまででも行ける。

たとえ実際には彼の視界には入らないとしても、やっぱり可愛いと思われたくてメイクを勉強した。


一緒だ。全部私と一緒。


なんだか無性に彼に会いたくなって、堪えきれずに立ち上がる。


なんて言ったのかは覚えてない。

用事を思い出したとか、確かそんな感じだったと思う。


とにかく彼に会いたくて、あの優しい笑顔が恋しくて、ひたすらに走った。

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私の恋 雪うさぎ @snow_0025

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