幕間 真似事のこちら側
「ミミックって知ってる?奏多くん」
「みみっく?」
「そう、ミミック」
夏の夕暮れのアスファルトは照り返しがじりじりとしていて、遠くにゆらゆらとしたものが見えます。それは陽炎って言うんだって、この間パパが教えてくれました。
「それ、なあに?」
一緒に帰っているのは、4年生のハルキくんです。さっき僕が一人で歩いているところを見かねて、一緒に帰ろうって声をかけてくれました。名札には、4年2組の下山春紀と書かれています。
「似せる、とか真似る……擬態って意味をもつ英語」
「ぎたい?」
「うーん様子や姿を似せること、かな?」
「物真似とか?僕ね、しんちゃんのものまね得意なんだよ!」
「道路でやるのは危ないから。やらなくていいよ」
そうやって、ハルキくんは僕のズボンを掴みました。なぁんだ、こんなだだっ広い田舎、誰も見ていないのに。
「で、みみっくがどうしたの?」
「ああ……そう、彼らはねえ。例えば宝箱とかに姿を変えて、獲物を待ち構えてるんだよ」
「獲物?」
「ああ、宝箱を開けようとした勇者のことを、こう、待ち構えてわぁ!と大きな口を開けて、食べちゃうの」
ハルキくんは、僕を食べるような真似をしました。でも彼の口の中に、僕は入りきりません。
「こわいなぁ」
「そう、そして……食べた後に、その勇者のふりをして……冒険するんだよ」
「勇者は?」
「勇者はもういないんだ。ミミックがね、ミミックっていうのはそういう化物を指す言葉でもあるんだけど、勇者のふりをして勇者の代わりに街の平和を守るんだよ」
「へぇ……」
なぁんだ。じゃあ、痛いのは勇者だけじゃないか。……勇者はかわいそうだけど、それ以外は宝箱が一つ消えちゃうだけだ。怖いけれど、別にどうってことないや。なんならパワーアップだってしそうだ。ゲームなら。
「ねえ、奏多くん」
「なぁにハル」
がぶり
「あら、奏多おかえり」
「ただいまママ〜」
「ほら、手を洗って。おじいちゃんとお兄ちゃんに、挨拶してきなさい」
「はぁい」
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