第6話 遅くなった事をお詫びします
夜中の王都にあるウルカン邸。雨の降る音が騒がしい。
「貴様ら俺を誰だとおも・・・・ぐぁ!!」
胸倉を掴みかけてきた貴族の横顔を思いっきりぶん殴る。
「ぁ、貴方!!」
「お、親父!」
倒れる貴族当主、その顔は突然の事で理解が及ばないようだ。手続き上その身に何が起こっているかぐらいは教えてやろう。
「王命である!ロジャー・アール=ウルカン、荒廃した領地を顧みることなく遊興三昧に耽り領主としての立場を忘れた振る舞いにより・・・爵位没収の上国外追放とする!!」
―――――
3日前。エアド邸にて。
「エアド公、宰相ご就任誠におめでとうございます!」
「ああ、君が職務に励んでくれたお陰で事が進んだよ・・・護衛君まで来てくれてありがとう」
「め、滅相も御座いません・・・ただただ喜ばしい事でございます」
これより一週間前、王城にてクロン・デューク=エアドの宰相就任が決定した。私達は憲兵隊なので王城の就任式には任務がない限り参加出来ない。なので後から報告を聞き手紙にて来訪を告げて駆けつけた次第だ。
またもや貸衣装の明るいブルーのドレスにて身を包んでいる。護衛たるスラクはスーツの着こなしも貴族への言葉使いも少し慣れてきたようだ。
「そうそう、この地位に就いたからにはニコライ・ガルナノの勢力など私の権力で簡単に追放してくれる・・・君の復籍も時間の問題だ」
「お言葉は嬉しく思います、しかしロジャー・アール=ウルカンだけは私の手で決着をつけたいと思います」
この時が来るのを十年近くも待っていた。今更自分の手を汚さず他人の手で処理などはさせない。私から屋敷と領地、貴族としての身分を奪い去ったアイツはこの手で始末しないと気が済まない。
「ははは、怖いご令嬢だ・・・元よりその答えを待っていたよ、そんな君にはこれを渡しておこう・・・受け取りたまえ護衛君」
「はっ、失礼します・・・隊長、どうぞ」
書類を受け取ると内容を確認する。それはロジャーがウルカン領でむやみに税を上げて贅沢三昧している収支報告書だった。今これが用意出来たという事は宰相になる前から秘密裏に調査していたのだろう。
これで正式にロジャー・ウルカンを捕縛する事が出来る。ようやくこの手で復讐が出来る、そう思うと歓びで手が震えてきた。
しかし今はその手を抑えて平静に努める。
「私が一番望んでいたものです・・・益々エアド宰相閣下への忠誠をお誓い致します」
「頼もしい限りだ・・・今後とも私を支えてくれたまえ」
「隊長へのご配慮、このスラク・・・決して忘れません」
「うむ、君にも期待しているよ護衛君」
―――――
倒れたロジャー・ウルカンを抱き起こしている奥方が喚き散らす。その昔ロジャーが私達を前にして屋敷と領地を自分達のものだと主張した時にいた女だ。
「な、何を証拠に・・・警備兵は何をしているの!ここに賊がいるのですよ!早く叩きだしてしまいなさい!!」
ロジャーの奥方はふくよかな体型にもれず声だけは大きい。ここが王都のウルカン邸である以上騒ぎを起こすと任務に支障をきたすので現実を知らせてやる。
「お屋敷の警備兵達なら我々憲兵隊を見た瞬間に逃げ去りました・・・我々には到底敵いませんので正しい判断をしていますね、警備兵としては失格ですが」
私の知らせた事実を聞き奥方は茫然としている。ようやく起き上がったロジャーの隣には子息がいる。彼も私を屋敷から閉め出した時にいた・・・成長した姿をみると私と同い歳ぐらいか。
「くそ・・・見たところ女兵士と仲間がたったの3人・・・このままで終わってたまるか!!」
「親父・・・俺も戦うぜ!」
ロジャーとその息子はこちらの申し渡しにひるむことなく立ち上がり・・・剣を向けた。身柄の拘束には本来前もって武器を取り上げておくのがセオリーなのだけど・・・見事にかかってくれた。
「ロジャー卿、貴殿は何をなさっているのかご理解していないようだ・・・アザヌ!」
「承知しました!・・・ふっ!」
「ぎゃぁあああ!ああああああ・・・・・っ」
アザヌのカギヅメがロジャーの奥方の胸部を貫く。引き抜かれた後奥方はゆっくりと倒れ込む。
「ば、バーバラぁぁ!!」
「ぉ、お袋・・・よくもお袋をぉ・・・ぁがぁあああああっ!!」
物も言わずにいたスラクのダブルソードがロジャーの息子を一刀両断する。
「キィィィィス!わが子まで・・・ぐわぁあああ!」
ガランドのモーニングスターがロジャーの左足を撃ち抜く。いとも簡単に骨が折れたようだ。
「我々憲兵隊には・・・武器を持って立ち向かってくる相手に対して正当防衛が許可されています、お覚悟を」
そう、私が敢えてロジャー達に罪状を告げる前に武器を奪わなかったのは・・・公然に処刑するためだ。私の家を簒奪した罪は領地と爵位の没収なんて軽い罰で終わらせられない。
ロジャーはその場に倒れ込み命乞いをしてくる。
「ひぃぃいいい!・・・分かった、武器は捨てるから命だけは・・・」
「・・・ふふ、あははははははははははは!」
「な・・・何が可笑しい?!」
「これが笑わずにいられるか・・・9年前これ以上に汚い手を使って私を陥れた貴殿がずいぶんと軟弱な事を言われる!!私は王国憲兵隊第8部隊隊長ガイタス、真の名は・・・マィソーマ・ウルカン!」
「ま、マィソーマ・・・まさか、生きていたのか!!」
「我が屋敷と伯爵家を簒奪したロジャー、今日こそ天誅を加える!!はぁああああ!」
ロジャーの胸板目がけてパルチザンを突き刺す!
「ぐふっ・・・あ、あの時追い出さずに始末しておけば・・・ぁぐっ!!」
串刺しにしていたパルチザンを引き抜き返す刀で首を刎ねる。これが私達を追い出し長年復讐を誓ってきた怨敵・・・余りの呆気なさに気弱になってしまいそうだ。
しかし今は私情に捉われている時ではない。しっかりと後始末をしないと。私の指示を待ちかまえている3人に向かい命令する。
「犯罪者は我々憲兵隊に対して武器を持ち抵抗したので正当防衛として処置した・・・各員、罪人の死体を処理した後、憲兵宿舎に帰投するように」
「了解です、屋敷の外で待機している兵を使います・・・おぅ、集合だ!」
私の命令を受けてガランドが待機していた憲兵隊員を集めて後処置をする。
「あら隊長、後処置があるのでしたら私もお手伝」
「構うんじゃない・・・では我々は先に戻っています隊長」
足を動かさない私に問いかけるアザヌをスラクが追い立てる。本当にいい仲間に恵まれたものだ。
処理の終えた屋敷の玄関ホールで跪き石の床に両手をつく。
「お父様、お母様・・・やっと仇を討つ事が出来ました、遅くなった事をお詫びします」
幼い頃から住んでいたウルカン領地の屋敷ではない上に、もう9年前の出来事なので悲しみは枯れてしまった。それなのに後から涙がこぼれる。そして思わず口から出た言葉。
「デルト・・・私、やったよ」
私にずっとついてきてくれた乳姉弟、戦闘が得意なタイプじゃないのに私を守ってくれた幼馴染・・・ホントはウルカン家を取り戻すまで・・・いいえ簒奪者ロジャーを処刑するこの日までいて欲しかった。
でもその彼も私の手で追い出してしまった今はもうそばにはいない。
ロジャーを処刑したところで派閥争いは終わった訳ではない。デューク=エアドに恩を返すべく戦わなければならない。
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