第7話 ・・・全くの茶番劇だ
1ヶ月後、シャンゾル王国王宮にて。
宰相エアドの宣言が声高らかに響きわたる。
「憲兵隊第8部隊隊長マィソーマ・ガイタス、貴殿の出自を9年前に行方不明となっていた先代領主ソーマイト・アール=ウルカンが一子・マィソーマ・ウルカンと認め貴族籍を復帰させる!
そして先日に杜撰な領地経営にて爵位没収となったロジャー・ウルカンをウルカン家の簒奪者とみなし、マィソーマ・ウルカン嬢を正統後継者とし襲爵とする!現在空白となっているウルカン領主として王国に忠誠を誓うよう!!」
「はっ!」
宰相の宣言が終わると同席していた貴族達から拍手が送られる。私は晴れて爵位を襲爵し「マィソーマ・カウンテス(女伯爵)=ウルカン」に戻る事ができた。どれだけこの日を待っていた事か。
「マィソーマ・カウンテス=ウルカン、国王陛下がお呼びである・・・御前へ」
言われるままに国王陛下の御前まで進め頭を下げて跪く。陛下が私に呼びかける。
「顔を上げよ、カウンテス=ウルカン」
許可が下りたので顔を上げる。シャンゾル王国現国王ハイベルク・ロイヤル=シャンゾル、その人となりは公平公正な性格で家臣の意見に耳を傾けて慎重に吟味して政策を行う堅実派。良く言えば人に対して謙虚であるが悪く言えば臣下を暴走させがちなようだ。
悲しげな面持ちで陛下が語る。
「9年前のスタンピードでの件ではそなたに多大な迷惑を掛けてしまった、先代のソーマイト・アール=ウルカンが死去したので領地を手つかずにもできずロジャー・ウルカンのような愚物を当主にすえてしまった事・・・詫びねばならない、この通りだ」
玉座に座ったままながら私に頭を下げる陛下。居たたまれなくなった私は宰相エアドに声を掛ける。
「宰相閣下、どうか陛下にお控え頂くようお願い致します・・・私は陛下の謝罪を求めてはいません」
私のセリフを聞いたエアドは謝罪の姿勢を崩さない陛下を押しとどめる。陛下も宰相自ら止められたとあってすぐに居住まいをただす。
「うむ、そう言ってもらえると心が救われる・・・その謝罪というワケではないがこの度マィソーマ嬢を正統後継者としてウルカン領の領主として任命する、貴族籍を復帰させたばかりで重責を与えることになるが頼まれてくれるか?」
「勿体ないお言葉です・・・王国のため、私の身分を糺して頂いた陛下のため忠誠を誓います!」
場内が万雷の拍手に包まれる。ここまでのやり取りは事前に宰相エアドから打ち合わせされていたものだ。セリフから所作まで徹底的にやらないとスムーズには運ばないとの事。
・・・全くの茶番劇だ。
◇◇◇
王都のウルカン邸。執務室には私が中心に座り前には3名の部下が立っている。
「ガランド、アザヌ、スラク・・・貴方たちのお蔭で私は身分を取り戻す事が出来ました、今までのご協力本当にありがとうございます」
私は椅子から立ち上がって深々と頭を下げる。これは王城でのやり取りとは違う、私の本心からの気持ちだ。
「や、止めて下さいよ隊長!貴族様が俺ら冒険者上がりに頭下げるなんざ・・・」
「もぅガランドさんったら失礼ですわよ?もう隊長じゃなくてウルカン当主様なのでしてよ!」
「ったくお前らも相変わらずの夫婦漫才だなぁ、もう結婚しちまえよ!」
いつものスラクの軽口から珍しく名案が浮かんだ。
「いいわねそれ、お礼としてこの屋敷でガランドとアザヌの結婚式を盛大にしましょう!仕事が落ち着いてからになるけど当然費用はこちらで持たせてもらうから・・・2人とも、それでいいかしら?」
「め、滅相もない!俺らは勝手にくっついてるだけで結婚式なんざ・・・」
「さすが当主様!私ウェディングドレスに憧れてましたわ!貴方に拒否権はありませんことよガランドさん?」
真っ赤な顔になって即答できないガランド。これじゃアザヌの尻に敷かれるわね。
「喜んでもらえて何よりね?スラクにはどんなお礼を・・・」
「へっ、俺の望みは当主様のそばにいる事です・・・ウルカン家の重職の椅子、すなわち執事ってヤツで!エアド閣下の執事から時々領地経営の学習を受けられるようになったんですよ!俺が執事をやればどこの馬の骨とも分からんヤツらなんて入れなくてもいいですから」
王城を出る前に宰相エアドが「護衛君、少し付き合いたまえ」とスラクを引っ張っていったけどこういう事だったのね。エアドの執事なら経営学の専門家といってもいいぐらいだ。頭の良いスラクなら経営学も少しずつ身につけてくれるハズ。
貴族には戻ったけどそこは今も昔も変わらず騙し合いの世界。紹介された人材の中にスパイが紛れ込んでいるとも限らない。私には目の前の3人しか信用できないからスラクの申し出には感謝しかない。
「お、テメェ言うに事欠いて次の就職先ゲットしてんじゃねぇよ!だったら俺もウルカン家の警備隊長だ!」
「結婚生活にはお金がかかりますから・・・じゃあ私はウルカン家の侍従長、というところかしら?」
「はぁぁ~、結局貴方たちは最後まで私におんぶにだっこなのね!いいわよ好きになさい!」
「はっ!あれがたき幸せですっ!」
「憲兵隊勤務の合間に当主様から教わった貴族式マナー、活かしてみせますわ!」
「俺も経営学なんざガラじゃねぇけどマィソーマのためだ、ひと肌でもふた肌でも脱いでやろ・・・いひゃいいひゃいいひゃい!」
当主となった私を呼び捨てにする不敬なスラクの頬っぺたを摘まんで捻り上げる。それを見たガランドとアザヌはお腹を抱えて笑う。
王宮での茶番劇よりこのいかにも冒険者なやり取りの方が正直楽しい。貴族に戻ってもついてきてくれる仲間達のいる私はホントに幸せ者だ。
◇◇◇
1ヵ月後、ウルカン王都屋敷にて。
私とスラク、警備兵10人とメイド5人達が見守る中、式は粛々と進んで行く。
「それでは・・・誓いのキスを」
神官の言葉とともにぎこちなくキスをする2人。万雷の拍手と共に贈られる野次の数々。
「やったぜ!ヒュゥウウウウウウウ!!」
「隊長、アンタすげぇぜ!!」
「侍従長、ステキです!」
「あぁん、アザヌ様の唇がー!」
手を振ってこたえるガランドとアザヌ。私も貴族だから本当はああして婚姻するべきなのだろうけど。
「へっ、先越されちまったなぁアイツラに・・・俺らの時はもっと盛大に行こうぜ?」
私にだけ聞こえるように彼らしく呟いてくるスラク。
「だめよ、私にそんな安穏とした時間はないわ・・・待っててもらってもムダよ」
「その答えは予想済みだぜ?いつかきっと振り向かせてやるよ」
これまた予想通りの答えだった。だからこそウルカン家の執事なんて勤めているのだろうけど。他の男に取られないように。
私はスラクと一緒に新郎新婦に言葉をかける。
「おめでとう、ガランドにアザヌ!」
「今日はめでたい日だ、お説教はしねぇぜ?」
ガランドは白のスーツにアザヌはウェディングドレスだ。アザヌはともかく式の終わったガランドは未だに固まったままだ。
「ぃ、いやその・・・ご結婚させて頂きましてま、誠に有り難くちょうだい致しまするや・・・ぁぐっ!」
「もぅ当主様の前なのに舌噛まないで下さいな、私からもお礼申し上げますご当主様」
「お礼ならエアド閣下に言ってちょうだい、費用も衣装も用意して下さったのだから」
どういう風の吹き回しか2人の結婚式にエアド閣下が「楽しいことなら私もまぜろ」といってしゃしゃり出てきてしまった。本当に宰相は性格の読めない人だ。
「やぁ、めでたいばかりだなカウンテス=ウルカン!」
「まぁエアド閣下、この度は私どもの使用人にこれだけのご用意をして下さってお礼の申しようもありませんわ」
「ははは・・・何、貴族達のパーティーは腹の探り合いばかりだからな・・・私もたまにはこうした掛け値無しのお祭り騒ぎに出て見たくなっただけさ」
そういって鷹揚に笑うエアド。その顔には王城の時のような駆け引きの場で使う表情のない仮面が見られない。心底楽しんでいるようだ。
「それはそうと新郎の警備隊長君は・・・いたいた!カウンテス=ウルカン、彼を少し借りるよ?人生の先輩として色々とアドバイスしてやらねばな?」
そういってガランドを捕まえて引っ張っていくエアド。スラクの経営学の教授といい彼には返し難い恩が出来てしまったようね。
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