第11話 適切に処理してやる(+アザヌ視点)

 アザヌ視点


 ガランドさんが何者かによって殺されてしまいましたわ。それを聞いた初日はさすがにショックが大きくて寝込んでいましたけど、夫亡き今は身の振り方をどうするかを考えなくてはなりませんわ。


 当主様が派閥内の貴族であるウィンドル卿・フィーレン卿・アーモル卿の3名に手紙を出すようなのでその仕事を引き受けました。手紙を届けて返事をもらって来る、面倒な作業ですが今の貴族情勢を知るにはいいかも知れませんわ。


 アーリン・マークィス=ウィンドルの屋敷から執事がやってきました。


「主人のお言葉をお伝えします、『女伯爵には一週間後わが屋敷に来られるがよい』との事」

「承りました、それでは次の所用がございますので」

「ああ、もう一つこれは主人から貴方への伝言です、『フィーレン家とアーモル家には立ち入らないように、女伯爵には2家とも返事無しとしておきたまえ』との事でした・・・それでは」

「お、お待ち下さい!それは私の一存では」

「それはご自身で考えられるが宜しい・・・確かにお伝えしました、では」


 そう言い捨てて執事は屋敷に入ってしまいました。4カ月前のお茶会ではウィンドル夫人が当主様に媚びへつらっていたのを思い出します。それが今ではこのような爪はじきのような扱いに、やはりデューク=エアド前当主が引退した影響がありますわね。


 大きな声では言えませんが、我が夫ガランドはエアド前当主に影働きをしていたようですわ。彼が言うには「ウルカン家のお給金はお小遣い」らしくウルカン領地には何も期待できないというのですが。



 一週間後、お邪魔していたウィンドル家の屋敷から引き取る際の当主様と随従していたスラクの顔が怒りに染まっていました。部屋には同席していませんでしたので分かりませんがマークィス=ウィンドルから嫌ごとでも言われたようですわね。


 慌てて2人の後を追おうとすると誰が肩を掴もうとします。そんな邪な手にはお仕置き致しますことよ。


 相手の手を掴んですぐさま後ろに回り込み背中に回した手をねじり上げましたわ。身動きの取れない犯人が痛みに呻いています。これは先日に会った執事でありませんこと?


「ぃ、いででででででで!!」

「あら、何なのでしょうこの手は?私、夫を亡くして一年も経っていない身ですので殿方にむやみに触られる覚えはありませんことよ?」

「な、何を勘違いしているか!わが主人が貴方に用があるので注進に来たまで!!」

「それは失礼致しました、一声掛けて下されば素直に応じましたのに」


 まったく声を掛けないうちに女性に触れるだなんてマナーのなっていない執事ですこと。

 執事に案内されて客間に入るとイライラしているアーリン・ウィンドルが待ち構えていましたわ。


「人を待たせおって・・・ウルカン家ではメイドの教育もなっとらんようだな!」


 いきなり呼びつけておいての悪口に驚きます、しかしこれが本来の貴族というものでしょうね。冒険者時代からともに過ごしてきた当主様や、人心を掴むのに長けているエアド前当主が特別なのですわね。


「それは失礼致しましたわ、そちらの執事の方にいきなり掴まれまして・・・こちらはか弱い女性の身ですので怖くて動けませんでしたの」

「な・・・そ、それはウソでございます!コヤツは逆に・・・」


「えぇい騒がしいぞ!さっさと本題に入ろう・・・お前は女伯爵との付き合いは長いのか?」

「ええ、この身分も仕事も当主様から頂いたものでして」


「ならば適任だな、お前に仕事を頼みたい・・・一カ月後に王城で貴族が全員出席する会議がある、その時にウルカン領の経営実態が記載されている財政帳簿を持ってきてほしい・・・女伯爵が家を空けているから簡単だろう?」

「・・・・・・」


 突然の申し出に反応できませんわ。財政帳簿は外部に持ち出してはならないものという事ぐらいは知っていましてよ。明らかに当主様への裏切り行為ですわ。


「これから先あの女伯爵の下についていても出世はできんぞ、あの小娘はクロン・エアドあってのカウンテス=ウルカンに過ぎないのだよ」


 ウィンドル卿が嘲るように呟いています。その顔はガランドさんがウルカン家に不平不満を漏らしていた表情によく似ていますわ。

 何の後ろ盾のないウルカン家ではもはや発展が無い、これが現実なのでしょうね。


「我々侍従というものはお給金で動いております、対価に見合わない仕事は」

「持ってきてくれればちゃんと渡してやる・・・ほれ、前金だ」


 そういっておもむろに革袋を私の足元に放りだしましたわ。中身を確認するとちゃんとした金貨のようですわね。


「承知しました、後こんな事をする以上ウルカン家にはいられません・・・成功報酬とは別に次の働き口を紹介して頂ければ」

「全く当主が生意気ならメイドも強欲とは呆れたものだ・・・分かったわかった、紹介状は書いてやるから仕事をこなしてくれよ」


 夫ガランドは次の主人となるハズだったエアドに従って死んでしまいました。

 でも私は違いますわ、ウィンドルの紹介状をもらってそこそこ裕福ながら争いとは無縁の貴族家に再就職致しますことよ。



―――――



「貴方・・・当主様、いやマイさんの幼馴染」


 改めてみるとアザヌはメイド服に身を包んでいる。以前とはあまりにも違う格好なので、会話のやり取りがなければ彼女だと気づかなかっただろう。


「今更何の御用ですか?もう一度マイさんの元で働きたいのなら私ではなく執事のスラクさんに頼みなさいな、もっとも彼が貴方の様な役立たずを雇うとは思えませんが・・・」

「あいにく雇い先なら間にあってるんだ、君こそウルカン家の重要書類を外部の人間に渡して何をしているんだい?」


「全てお見通しですか・・・私、そろそろウルカン家を出てウィンドル家から紹介状を書いて頂こうと考えておりまして・・・その手土産にウルカン家の財政帳簿をご希望されたんですわ」


 ウィンドル、確かお嬢様と派閥が一緒の貴族だけど他家の財政帳簿を欲しがる理由はただ一つ・・・ウルカン領の経営不振を理由にお嬢様を失脚させる事だろう。


「どうして?君はウルカン家の侍従長でマィソーマお嬢様とはリュウコの時からの仲間だろう?」


「マイさん・・・当主様は前デューク=エアドあってのお貴族様ですわ、彼のいない今どんどん落ちぶれています・・・夫も亡くなった今私がどこに行こうと勝手ですわ、さぁもういいでしょう?」


「・・・つまり、お嬢様を裏切ったと」

「くだらないですわ!いつまでもお嬢様お嬢様と女々しい・・・貴方もウルカン家に雇われるつもりがないのならどうでもいいでしょう!これ以上まとわりつくのならカギヅメのさびに・・・ぁぎゃぁあっ!!」


 一瞬で間合いを詰めた僕はシールドバッシュでアザヌの横っ面を殴りつけた。


「お嬢様に許可をもらった上で他家に行くのなら止めはしない、でも自分の都合でお嬢様を裏切ってウルカンを失脚させる事は許さない・・・エアドについて裏切ったガランドと同じく処理させてもらうよ」

「な!あ、貴方がガランドさんを・・・夫の仇は討たせてもらいますわよ!盾ごと切り裂いてあげます、ガードキャンセル!!」


 ガァァンっ!


「そ、そんなどうして・・・こんな小さな盾が砕けない?」

「君の技は電撃を流し防御力を弱めた上で放つ技、だったら同じ電撃で中和してやれば君のカギヅメもただのナイフだよ・・・ラージ・シールド!!」

「み、水属性のあなたが電撃を中わ・・・はゃぁあああああああああ!!!」


 僕の盾から水の放出でアザヌが上空へふっ飛ぶ。10メートル付近から落下し地面に激突する。受身も取れず骨を折っているようだ。電属性の彼女には電撃の効果は期待できない、だったらラージ・シールドによる物理攻撃が相応しい。


「ぁぐっ・・・こ、こんな技をいつのま・・・に・・・ま、待って下さい・・・貴方が夫を殺した事はもう許しますっ・・・だから私も許して・・・」


 近づく僕から逃げようと必死に身体を起こそうとするも、骨折した手足の痛みのせいで自由が利かないようだ。僕は容赦なくアザヌの胸倉を掴み持ちあげた。


「お嬢様を裏切る者は許さない・・・適切に処理してやる、ラージ・シールド」


 アザヌを再度ラージ・シールドで上空へふっ飛ばす。


「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!・・・・・ぎゃあああっ!!!」


頭を地面に打ち付け激しく身体を痙攣させた後アザヌは動かなくなった・・・また人間を殺してしまった。


 しかし感傷に浸ってはいられない、もうウィンドルの元へ渡ったウルカンの財政帳簿は取り戻せない。今は早くクライツ殿下に報告しないと!

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